安定志向を強める若手社員に忍び寄る「終身雇用崩壊」の足音

2019年5月22日 18:25

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 いよいよ幕を開けた令和の世。新たな時代を担う若者は安定志向が強まっているという調査結果が最近発表された一方で、トヨタの豊田章男社長による「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」(5月13日会見)との発言が話題を呼んでいる。一見相反する2つのニュースは、「安定」の意味を問い直す時期に差し掛かっていることを示唆している。

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■「安定している会社」に勤めたい

 「2020年卒マイナビ大学生就職意識調査」(4月15日発表)によると、学生の企業選択のポイントとして、「安定している会社」(39.6%)が、2001年卒から19年間トップだった「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」(35.7%)を初めて上回った。また「行きたくない会社」では、こちらも19年連続1位だった「暗い雰囲気の会社」(28.5%)に代わり、「ノルマのきつそうな会社」(34.7%)が首位に立った。

 この結果からは、タイトな業務に縛られずにワークライフバランスを維持しつつも、長期にわたり地位が保証され、生活に十分な報酬が支給され続けることを企業に求める傾向がうかがえる。

■終身雇用は崩壊に向かう?

 対して、経済界からは終身雇用の維持を疑問視する重鎮の発言が相次いでいる。前述の豊田社長に加え、経団連の中西宏明会長も5月7日の会見で、「終身雇用を前提とすること自体が限界になる」と指摘し、経済同友会の桜田謙悟代表幹事は「昭和の時代は機能したが、経済が大きく変革した中で、制度疲労を起こしている可能性があり、(今後は)もたないと思う」と5月14日の会見で述べている。

 激しい競争にさらされるグローバル社会の中で、高い技術レベルの維持と生産性の向上により商品・サービスの質を高める、というサイクルを回し続けることが、企業側から見た「安定」ということになる。雇用を守り続けることは企業の負担が増すことになり、イノベーションに支障が出かねない。日本社会に長らく根付いてきた終身雇用のあり方が、時代にそぐわなくなっているというわけだ。

■「安定」の再定義が求められている

 一口に「安定」と言っても、次代を担う若者と、彼らを雇用する経営サイドではその捉え方に乖離が見られることは明らかだ。若い労働者にとっては、ひとつの組織に長くとどまり続けることが安定ではなく、企業環境の変化に対応し、たとえどんな職場で働くことになっても十分な報酬と生活水準を確保できるように、技能と経験を積み上げることが安定につながるという、「パラダイムシフト」が求められる時代に突入したといえるのではないか。

 終身雇用制度を抜本的に見直す議論は今後も続くだろう。終身雇用とはあくまでも「期限を設けない雇用契約」であるにすぎず、永遠に身分と収入を保証されるものではない、という認識に立ち、自分がどんな状況に置かれても社会に通用する「安定」した人生を築いてもらいたい。(記事:岡本崇・記事一覧を見る

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