泥沼のトルコリラ安【フィスコ・コラム】

2018年5月20日 08:17

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記事提供元:フィスコ


*08:17JST 泥沼のトルコリラ安【フィスコ・コラム】
アメリカの金融正常化を背景に新興国通貨が弱含むなか、トルコリラの下げが一際目立っています。来月の大統領選・議会選で権限の強化を目論むエルドアン大統領が金融政策に言及したことでトルコは中銀の独立性が脅かされ、底なしの通貨安に陥っています。


ドル・トルコリラは、今年3月までは1ドル=3.72-3.85リラのレンジ内で比較的落ち着いた値動きが続いていました。その後、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ継続の姿勢を堅持する反面、欧州中銀(ECB)など主要中銀が引き締めスタンスを緩めたことで、ドル選好地合いに振れています。その流れでリラは5月に入ってから2週間あまりで10%も弱含み、一時4.5リラと過去最安値を更新しました。


その間、エルドアン大統領は来年11月に予定されていた大統領選・議会選を当初の予定より1年半も早い6月24日に実施すると4月に発表。金融市場ではこれを受け長期金利が大きく低下し、株価は大幅に上昇しました。また、売り一辺倒だったリラはいったん下げ止まりました。エルドアン大統領の圧勝により国内の政治情勢が安定すれば、マネーがトルコに流入するとの観測が広がったためです。


しかし、政治の安定化への期待はすぐに吹き飛び、リラ売りの流れに逆戻りします。5月第3週は、通信社によるエルドアン大統領のインタビュー記事が、リラ投げ売りを誘発しました。同大統領は、中央銀行には独立性があるとしながらも「大統領の合図を無視していいわけではない」と発言。また、大統領選で再選された場合、「影響力を示さなければならない」と、中銀の金融政策への介入を示唆しています。


トルコの消費者物価指数(CPI)は昨年11月、ここ数年では最高レベルの前年比+13%を記録し、直近でも10%を上回る高インフレが続いています。リラの大幅安で企業の外貨建て債務の返済負担は増大するため通貨安に歯止めをかけるのが急務で、それには中銀による大幅な利上げが求められます。ただ、政権からの利下げ圧力に対し、中銀は一応タカ的な姿勢を示しているものの、こうなっては「焼け石に水」です。


ところで、なぜ中銀には独立性が求められるのでしょうか。1960年代以降、各国政府は悪性のインフレに悩まされ、その克服が重要課題になっていました。民主主義の下、政治家が人気取りのための景気浮揚に走り、中銀に無制限に紙幣を印刷させればインフレに拍車をかけてしまいます。そうした経済の混乱を避けるため、専門的な金融政策は独立した組織である中銀に委ねるという体制が整備されました。


もっとも、2008年のリーマン・ショック以降、中銀主導の金融政策はインフレ退治には効果的でも、足元のデフレ対策には機能しないと、中銀の独立性に否定的な意見が聞かれるのも事実です。つまり、問題の解決には富の分配を要するため、金融政策ではなく政府が直接関与する財政政策によって経済を切り盛りするべき、という考え方です。経済が複雑化するなか、無視できない主張です。


しかし、トルコはそういう状況にはなく、エルドアン大統領の主張は投資家の嘲笑を誘っています。今年はトルコへの中国人観光客の激増が見込まれていますが、今のところその恩恵も限定的のようです。足元のリラ安は、「神風」が吹かない限り、行き着く先はデノミしかないと思われます。《SK》

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