鉄道の振動対策に新手法 車両の制振技術を制御開発用ツールで可視化

2017年9月11日 16:33

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 鉄道の歴史はそのまま振動対策の歴史でもある。車輪のダンパーと車輛構造の共振点対策に尽きるのだが、50有余年遡り東海道新幹線の開発段階で開発者たちが振動対策に日夜明け暮れていた姿をメディアで見たことのある人もいるかもしれない。

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 開発は実質5年半という、いまから見ても短期間で、且つ、東京五輪の開催準備と並行して進められた。第二次世界大戦後、日本の奇跡の復興を語る代表事例の一つであり、その陰にあった事実、終戦後に飛行機製造をGHQに禁じられて失職した航空技術者たちがその高度な技量・技能と開発能力を活かせる新しい職域として新幹線開発が受け皿になっていたことは知る人ぞ知るところかも知れない。

 さて、鉄道車両に目を向けてみると、振動対策は当時も今も1に計測、2に計測、3、4がなくて5に計測、である。データと感触(これも重要)がすべてを語る。そして、職掌により文化の違いもある。例えば、車両の専門家は時間軸を横軸に、振動を縦軸に読み取る。線路を保全する線路・軌道の専門家は距離を横軸に、振動を縦軸にして読み取る。人間工学の専門家は主には人間の感触で線を引こうとするのだが、そこには経験から来る基準値が当然入って来る。

 シミュレーションツールは、主には制御理論をグラフィックプログラムによって組んで行くMatLabが代表的なツールだ。汎用制御シミュレーターで、これまで主にはオイル・ガス等のプロセス業界、自動車業界、そして設備産業で広く使われて来ている。最近では、自動車の自動運転アルゴリズムを検証するためのシミュレーションツール基盤に使われてもいる。

 振動と騒音のシミュレーションを重ねて抑制する手法を検討するのは比較的目新しいやり方である。かつて、建築用・住宅用資材や機材などは、経験則に則り材質と構造を決めていたが、いまは柔軟に都度設計を変更する方法が一般的になり、開発段階から仕様と性能を創り込むようになった。鉄道車両に関連する機器、器具、特に乗客の座席周辺などはその傾向がある。開発と設計を同時に行う手法をコンカレントエンジニアリングと呼び、図面のCAD化と、設計上のシミュレーションツールが核になった新時代の開発手法だ。元々は保守的で設計事項遵守を中心にプロジェクト対応して来た建築や交通に対して、こうした新手法が入ることにより業界の中の企業組織がどのように変革していくか、注目してみたい。(記事:蛸山葵・記事一覧を見る

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