『鉄道員(ぽっぽや)』の監督が贈るザ・邦画『追憶』、興収では見えてこない魅力

2017年5月17日 21:03

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過去に秘密を持つ啓太(小栗旬)と悟(柄本佑)。何気ない喫茶店のシーンでも降旗康男流の人間臭い展開が垣間見える(c)東宝

過去に秘密を持つ啓太(小栗旬)と悟(柄本佑)。何気ない喫茶店のシーンでも降旗康男流の人間臭い展開が垣間見える(c)東宝[写真拡大]

■名匠の作品『追憶』が全国映画館で上映中

 2017年5月から日本全国の映画館で『追憶』が上映している。『鉄道員(ぽっぽや)』の監督である降旗康男の作品で、キャストも日本を代表する面々となっている。ゴールデンウイークの最中に上映され、『美女と野獣』や『名探偵コナン』などライバルが多い中、5月15日時点で5位という結果を残している。

■邦画らしいヒューマンサスペンスの『追憶』

 四方篤(岡田准一)と田所啓太(小栗旬)、川端悟(柄本佑)はそれぞれ問題のある家庭で育った子どもたち。彼らは幼少の頃、涼子(安藤サクラ)に引き取られていたがある事件をきっかけに赤の他人で暮らすことを余儀なくされる。

 それぞれ赤の他人として生活していく内に、25年の月日が流れた。篤は刑事として生活を送っていたが、友人の1人である悟が殺害される事件が発生した。篤は悟殺害の事件捜査に関わることになり、その捜査線上にもう1人の友人である啓太が浮上してきた。篤は独自に啓太へ接触を試みるが、彼は篤に何も話そうとしなかった。3人は25年の月日を経て刑事・容疑者・被害者として再開し、過去と再び対峙することを余儀なくされる。

■キャスト・スタッフに隙なし

 『追憶』の監督は降旗康男、撮影は木村大作という名コンビで贈る邦画だ。近年多く見られる派手な演出や脚色は少ないが、映画本来の人間ドラマを克明に映し出す上質な映画である。また、人間ドラマを表現する役者陣もレベルが高く、現在の日本を代表する役者がそろっている。

 キャストは主要人物を岡田准一と小栗旬、柄本佑の3人が担当。物語のキーパーソンとなる涼子役には安藤サクラ、その彼女を支える人物は吉岡秀隆となっている。それぞれドラマや映画で数多くのキャリアを積んでおり、画面に出るだけで物語に緊張感を生み出す。

 主要人物の3人はそれぞれ家庭に問題を抱えていた子どもたちだ。彼らはそれぞれ成長して独自の幸せを掴もうと奮闘していたが、歪な形で問題が噴出してくる。篤ならば妻の美那子(長澤まさみ)との関係性、悟は家族を養うための金銭問題、啓太は妊娠中の真理(木村文乃)に対する秘密。それぞれの問題は自分の過去と関係しており、『追憶』の中で25年ぶりの再開を果たすと同時に問題が氷解していく。

■興行収入=評価ではない価値観を

 人間同士が関わり合うことで自分を見つめ直し、過去と対峙する姿を鮮明に描き出している『追憶』。タイトルに違わない内容と予想外の展開に、上映時間中は画面から目が離せない内容となっている。

 現代の映画では興行収入額が映画の評価となりつつあるが、私は決してそうではないと考えている。映画はエンターテイメントなので観客を魅了させる必要はある。しかし、絵画のようにその作品と対話できるような作品も映画だと思っている。『追憶』は後者のように、作品を通して自分を新たに見つめ直せる作品であるのは間違いない。

 最近では徹底した人間ドラマの作品は、興行収入という形ではあまり評価されない傾向にある。しかし、見る人間の心を揺さぶる『追憶』の物語を、1人でも多くの人に楽しんでいただきたい。(記事:藤田竜一・記事一覧を見る

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