すべての出来事は伏線に!『ズートピア』のストーリー構成を考えてみる

2017年1月23日 21:21

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すべての出来事は伏線に!『 ズートピア 』のストーリー構成を考えてみる~重いテーマを描きつつもエンターテイメント性を重視した作品~©Disney TM & © Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved

すべての出来事は伏線に!『 ズートピア 』のストーリー構成を考えてみる~重いテーマを描きつつもエンターテイメント性を重視した作品~©Disney TM & © Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved[写真拡大]

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 以前に、「劇場版 名探偵コナンシリーズで見る“面白い話”の作り方」という記事を書きました。今回は、その別作品バージョンです。

 『ズートピア』とは、2016年に公開された「ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ」制作のアニメ映画です。肉食動物と草食動物が共存する大都会「ズートピア」を舞台に、差別や偏見、固定観念という問題に切り込んでいった作品です。

 2016年を代表するヒット作の一つとして、知っている方も多いのではないかと思います。そんな『ズートピア』のストーリーを、構成に注目しながら紹介していこうと思います。

 ※解説の都合上、物語のネタバレがやや含まれます。

 『ズートピア』を見たことあるけどもっと楽しめるようになりたい、もしくはネタバレを気にしないよーという方、創作活動をしていて参考にしたいという方向けの記事です。予めご了承ください。

劇場版 名探偵コナンシリーズで見る“面白い話”の作り方
2016.12.30

■舞台は肉食動物と草食動物が共に暮す世界


 『ズートピア』の世界では、動物たちが人間のように服を着て、文化を築き、言葉を話しながら暮らしています。人間は登場しないので、人種の代わりに動物としての種族の違いがある世界だと思えばわかりやすいでしょう。

 タイトルにもなっている「ズートピア」とは、高度なテクノロジーによって築かれた大都会で、肉食動物と草食動物が共存する楽園とされています。しかし、その実態は種族ごとに居住エリアが分けられ、種族によっては差別を受けている者もいるという世界です。

 物語の主な舞台でもあります。

 主人公は、ジュディ・ホップスというアナウサギの女性。草食動物です。

 もう一人の主人公的ポジションで登場するのが、ニック・ワイルド。アカギツネの男性。つまり、肉食動物です。

 『ズートピア』のストーリーは、この二人を中心に展開していきます。

■冒頭は、コミカルに世界観の説明を


 冒頭は作品を見続けようと思えるかどうかの、重要な要素です。

 『ズートピア』では、まだ幼い頃のジュディが子供たちと劇を行い、そこで肉食動物は草食動物を襲わなくなったこと、二つの種族が共存していることを説明しています。

 劇として見せているので、説明臭くなく、むしろ可愛いです。

 その冒頭のシーンで、ジュディ――つまり、主人公の性格と行動理由も見せています。

■ウサギ初の警察官へ


 ジュディの夢は、ウサギ初の警察官になることでした。

 身体の小さいウサギに警察官なんて無理だ。

 周りはそう思うけれど、ジュディは諦めないのです。

 「パパとママがこんなに幸せなのはどうしてだと思う? それはな、夢を諦めたからなんだ」

 ジュディの父は、娘を思うが故に、そんな発言をします。

 「多くを望まないことが大切だ。新しいことをすれば、失敗もある」

 夢を持つのはいいことだけど、現実は厳しいし、辛いことや危険なこともいっぱいある。だからこそ、別の道を諭そうとする両親でしたが、

 「私が初めてのウサギ(警察官の)になる! だって私、世界をもっともっとよりよくしたいの!」

 ジュディはどこまでも前向きで、諦めることを知りませんでした。スキップからの空中一回転をキメながら夢を語ります。

 ここで、セリフと動作からジュディがどういう人物なのかを見せ、かつ物語の方向性を匂わせているのです。

 その後、警察学校へ入ったジュディは数々の試練や偏見を前に失敗を積み重ねていきますが、小さな体でも努力を貫き通すことで、無事卒業。表彰されるほどの優秀な成績を残し、警察官としてズートピアへ入るのです。

■それでも待ち受けているのは苦難の数々


 晴れて警察官になったジュディでしたが、そこでも待ち受けているのは苦難の数々です。所属することになった課では、肉食動物ばかりが14人も行方不明になっているという事件の調査が行われていました。これが物語の中心にある事件です。早い段階から軸を見せてきました。

 が、ジュディに与えられた仕事は交通整理。ここでも身体の小さい彼女はなめられてしまうのです。けれどそこはジュディ。だったら見返してやろうと張り切って仕事をこなしまくるのです。

 困難を乗り越えてようやく認められたと思ったらまた困難――というわけです。どうやってジュディは周りを認めさせるのか、期待したくなる展開です。

■ニックとの出会い、最初の印象は良いものではなかった



 仕事の途中、ジュディは街でニックに出会います。困っているニックを善意で助けたのに、実は彼が詐欺師だと発覚。

 ジュディにとって、ニックの最初の印象は良いものではありませんでした。

 悪印象が共に困難を乗り越えることで好印象へと変わっていく。王道展開のはじまりです。

 その後も強盗事件を解決したりと、活躍するジュディ。この事件で関わった人物達が、後の本筋に関わってきます。

 起こるイベント、出会う人物のすべてが伏線になっている、無駄のない展開です。

 ちなみにこの強盗事件では、勝手に突っ込んで騒ぎを落としたとして、怒られてしまいます。しかし、そこに消えた夫を探してほしい、と頼み込んできたオッタートン夫人と出会い、人手が足りず捜査に対応しきれていない状況を前に、ジュディが夫の捜索を引き受けるのです。

 が、これまた勝手な行為だと叱責を受けます。ついにはクビを宣告されるも、話を聞きつけた草食動物のベルウェザー副市長に評価され、クビを免れます。このベルウェザー副市長は、とても重要な人物です。 

 しかし、今度は48時間以内に仕事を完了されなければクビ、ということに。

 ここでは、

 やっと警察官になり憧れのズートピアへ 【上げて】

 ↓

 しかしついた仕事は交通整理 【落として】

 ↓

 仕事をどんどんこなし、ついには強盗事件も解決 【上げて】

 ↓

 しかし叱責 【落として】

 ↓

 消えた肉食動物事件に関わることに 【上げて】

 ↓

 しかしクビを宣告 【落として】

 ↓

 けれど副市長のおかげでやっぱり捜査できることに 【上げて】

 ↓

 が、期限をオーバーしたらやはりクビ 【盛り上げる展開へ】

  という風に、段階的に盛り上げていく演出が成されているのです。

■ようやく認められ成功する、というのは障害のフラグ


 少なすぎる捜査資料を手に、オッタートン夫人の夫を捜索することになったジュディ。そこで関わってくるのが、あのニックなのです。

 ジュディは録音機能つきのペンでニックの脱税宣言を記録し、脅迫、情報を持っている彼を捜査に協力させます。

 さて、ここで登場するペンが後に何度も活躍するアイテムになるのです。

 出てくる道具もまた伏線になる。ペンがどういう風に関わってくるのかは、実際に見て確かめてください。説明してしまうと、結構大きなネタバレになってしまうので。

 ちなみにそのペンは、グッズとして実際に販売されていますよ。

 いろいろあって、事件の犯人を確保する二人。マスコミが集まり、ようやくみんなから認められたジュディ。しかし、彼女は会見の中で、肉食動物だけが危険な存在になってしまうという話を無意識にしてしまいます。

 捜査を通じてジュディとニックの間には絆が生まれたのですが、この差別的発言をきっかけに、ニックは彼女のもとを去ってしまいます。

 第一印象は悪い

 ↓

 共同作業の中でお互いの理解を深め合い、親しくなる

 ↓

 うまくいきはじめたところで喧嘩

 ラブストーリーにもよく見られる展開ですね。

 ずっと警察として活躍するために、認められるために、よりよい世界を作るために頑張ってきたジュディ。

 ようやく認められたけれど、彼女の発言のせいで肉食動物への差別は高まってしまいます。皮肉な話です。念願の地位も、その時の彼女にはちっとも嬉しいものではありませんでした。

■ジュディは偏見に苦しむが、自分にも偏見があることに気付いていない



 その後は事件の本当の犯人や真相が発覚し、ニックと仲直りしたジュディが、二人でこれに立ち向かっていく熱い(?)展開が待っています。

 そんな『ズートピア』ですが、企画当初の主人公はニックでした。(BDの特典映像にて詳しく語られています)

 いくら肉食動物が草食動物を襲わなくなったとは言え、根っこの部分では野蛮な存在に決まっている。そういった差別思考をもった草食動物達に、口輪をはめられ虐げられるニックが主人公、という物語になるはずだったのです。

 けれど、そんなニック目線の物語はかなり暗い話になってしまいますよね。

 そこで生まれたのが、ジュディという正義感が強く明るく努力家な新しい主人公だったのです。特典映像の中で、”制作に行き詰まったとき、新しい脚本家をスタッフとして招き”、ジュディというキャラクターを作ることで物語を進化させた――というエピソードが語られています。

 スタッフ曰く、『ズートピア』の笑えるシーンベスト3は、ジュディが生まれなかったら出てこないシーンだというのです。

 制作に行き詰まったら視点を変えてみる。主人公すら変えてみる。逆転の発想ですね。

 さらにこんなことも語られています。

 「リアル感を出すために、ジュディには多くの課題を与えたかった」

 困難がまったくなかったら、確かにリアルさはなくなりますし、物語としても平凡なものになってしまいそうです。よく考えられています。

 「ジュディは偏見に苦しむが、自分にも偏見があることに気付いていない」

 「彼女を正義感の強いだけのウサギにはしたくなかった。彼女のような善良な者でも、固定観念を持っていることを伝えたかった」

 身体の小さなウサギに警察官は無理。

 そんな偏見に苦しみながらも頑張ってきたジュディが、心のどこかで肉食動物への偏見を抱いていた――ということです。

 物語の中では、いたるところで彼女のキツネという種族に対する考えが描かれています。それがニックとの出会いでどう変化していくのか、気にしながら見てみてください。

 『ズートピア』は偏見や差別、固定観念といった現代社会にも通じる深いテーマをもった作品です。だけど、決して説教臭い映画ではなく、エンターテイメントであることを重視した構成になっているのです。面白く作ることを第一にしながら、キャラクターやテーマもしっかり作り込んでいる。だからこそ『ズートピア』は面白く、ヒット作にもなったのです。

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 トランプ大統領誕生!大ヒット作の「 ズートピア 」は夢と魔法の世界でしかなかったのか!?

(あにぶ編集部/星崎梓)

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