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カジノ法案で注目を集める「ギャンブル依存症」、恐るべき実態とは

パチンコをしている男性のイメージ。(画像:いらすとや)[写真拡大]
通称カジノ法こと総合型リゾート(IR)推進法案が衆議院を通過し、日本国内でその賛否にまつわる様々な議論が行われている。中でももっとも熱く話題になっているのは「ギャンブル依存症」だ。ギャンブル依存症の問題があるからカジノ法は成立させるべきではない、といった意見が複数の野党から出され、それに対する「だったらパチンコはどうなる」という反論もあり、激論が戦わされている。しかし、そもそもギャンブル依存症とはどのようなものなのか?ここではそれについて述べていこう。ギャンブル依存症は、一言でいえば、「借金で家庭の崩壊を招く心の病」である。
大前提として、ギャンブル依存症は病気であり、精神疾患の一種だ。WHO(世界保健機構)が作成している診断マニュアル『ICD-10』では、「成人の人格および行動の障害」の中の「習慣および衝動の障害」の中の、「病的賭博」という診断名で定義される。アメリカ精神医学会の『DSM-5』では、「非物質関連障害」の中の「ギャンブル障害」がこれに該当する。世界的にも大きな社会問題となっている疾患で、その深刻さはアルコール依存症、ニコチン依存症に匹敵する。
しかし日本では、ギャンブル依存は人格の問題、性格の問題であると捉えられがちであり、病気であると理解している人は少ない。また、一説に国内患者数が500万を超えるとまで言われるのにも関わらず、ギャンブル依存症を専門的に治療する医療機関の数も極めて少ない。
さて、ではギャンブル依存症とはどのような疾患か。大金を賭けたとか、その結果一晩で全財産をスッてしまったとか、そういったことは必ずしもギャンブル依存症の定義には当てはまらない。アルコール依存症やニコチン依存症と同じように、ギャンブル依存症は「中毒が慢性化しており、やめたくてもやめられない」というところに特徴がある。
ただ、他の依存症と比較してギャンブル依存症の厄介なところは、とにかくギャンブルは金がかかるということである。一度に賭ける金額が少額でも、長時間ギャンブルをしていれば、そしてそれが複数日に渡れば、当然凄まじい金がかかる。いずれ金はなくなる。なくなると、借金をする。借金をしてギャンブルを続けるというのはもう既に最悪のパターンで、こうなると借金は確実に、雪だるま式に膨らんでいく。家族が気付く頃には返済は不可能になっている。こうして崩壊家庭の一丁上がり、である。
ギャンブル依存症が病気であることは日本社会では周知されていない、という点については既に述べたが、当事者が「自分はギャンブル依存症という精神疾患である」と理解していることはさらに稀である。ゆえに、治療にはかなりの困難がつきまとう。榎本クリニック理事長の榎本稔医師によると、比較的有効なのは集団精神療法で、グループミーティングに参加させ、他のギャンブル依存症者と体験談を語り合わせ、病気を自覚させるのが効果的であるという。もっとも、病気だと自覚できてもひとたび崩壊した家庭が再建できる例は極めて稀であるが。
以上がギャンブル依存症に関する基礎知識である。以上の話と、日本におけるカジノ導入の是非については、またまったく別の問題となる。ただ一つだけ確かなことは、日本にはまだカジノはなく、従ってカジノでギャンブル依存症になった日本人は滅多にいないということだ。これに対し、パチンコは19兆3,800億円(2010年、レジャー白書2011)という市場規模を持つ。日本のギャンブル依存症患者の大半は、パチンコ依存症である。これを無視してカジノの害を論じても、木を見て森を見ぬ議論以上のことは何もできないであろうというのが筆者の見解である。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)
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