大林組など3社、津波時に浮上する世界初の直立浮上式防波堤を和歌山に建設

2012年8月29日 18:09

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直立浮上式防波堤のイメージ(画像:三菱重工鉄構エンジニアリング)

直立浮上式防波堤のイメージ(画像:三菱重工鉄構エンジニアリング)[写真拡大]

  • 直立浮上式防波堤の作動ステップ図(画像:三菱重工鉄構エンジニアリング)

 大林組、東亜建設工業、および三菱重工鉄構エンジニアリングは29日、今年10月初旬に、和歌山下津港海岸の海南地区において、3社共同で受注した直立浮上式防波堤築造工事の現地工事に着手すると発表した。

 直立浮上式防波堤は、津波来襲時に素早く浮上して港内・沿岸部の防災・減災に貢献することができる世界初の可動式鋼管防波堤。全体工事は2020年春までに完成する計画で、このうち3社は航路隣接部の一部で実証実験を兼ねて防波堤を建設する。

 直立浮上式防波堤は、海底面下に一定の間隔で壁状に設置した下部鋼管の中に、それより直径の小さい上部鋼管が格納されており、津波が来襲したときなど異常時にだけ海底から上部鋼管が浮上し、防波堤の役割を果たす。送気管から上部鋼管内部に空気を送り込むと、浮力で上部鋼管が海面上に浮上する仕組み。また、排気すると自重により、海底へと沈降していく。

 施設全体を海底面下に格納することで、従来は防波堤設置が不可能であった港口部、河口部にも防波堤を設置でき、緊急浮上させることにより津波の侵入を抑制できる。船舶の航行にも支障はなく、潮流の変化など新たな環境負荷もなく、景観が変わることもない。また、地震に強く、鋼材の腐食や劣化が極めて少ない環境にあるため、維持管理も大幅に省力化できる。浮上・沈降を送気と排気で行うシンプルな方式を採用しているため、緊急時の確実な作動と、数分程度で浮上する素早い対応を可能とした。

 同技術の開発には、3社と新日鉄エンジニアリングの民間開発グループ4社および独立行政法人港湾空港技術研究所が参画している。

 今回の築造工事の事業主体は国土交通省近畿地方整備局で、「和歌山下津港海岸 海南地区津波対策事業」の一環として、港湾入口の航路部分に総延長230mの可動式防波堤を建設する計画。今回受注した工事では、航路隣接部の約10mを対象に、海面下13.5mから海面上7.5mまで10分以内で浮上する設備を築造する予定。大林組、東亜建設、三菱重工鉄構エンジニアリングの3社で組織した共同企業体(JV)が工事を実施しており、中核構造物となる上部・下部鋼管は、新日鉄エンジニアリングが現地工事に向けて鋭意製作中。

 和歌山下津港海岸海南地区は、紀伊水道に面したリアス式海岸の湾奥に位置する地形的特性から、これまで1946年の昭和南海地震や1960年のチリ地震などにより、深刻な津波被害を受けた。また、今後30年以内に高い確率で発生することが予測されている東南海・南海地震などでは、現状の防潮堤高さをはるかに超える津波の襲来も予測されており、その津波の浸水予測地域には住居地区に加え、行政・防災機関や主要交通網があり、臨海部には企業も立地していることから津波対策が望まれていた。しかし、従来の護岸のかさ上げ対策では船舶の荷役などへの支障が大きいことから、複数の可動式防波堤について技術検討が行われ、通常時は航路への影響がない「直立浮上式防波堤」を港口部に配置し、浸水予測地域の前面で防護ラインを形成する津波対策事業を進めることになった。

 大林組、東亜建設、三菱重工鉄構エンジニアリングおよび新日鉄エンジニアリングの4社は、今回の実績を足掛かりとして、直立浮上式防波堤による津波対策に関する提案を積極的に展開し、防災・減災に貢献していく。また、同工法の特長を活用し、港口部から侵入してくる高波に対する港内静穏度対策や高潮対策の実用化にも取り組んでいく。

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