唾液腺導管癌に対する抗HER2療法に新たな知見~世界最大規模の解析によるHER2腫瘍内不均一性からみた治療効果への影響や転移様式の解明~

プレスリリース発表元企業:東京医科大学

配信日時: 2026-11-06 14:20:17







東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)人体病理学分野 長尾俊孝主任教授、内海由貴客員研究員、助田葵助教、平井秀明助教、牛草健助教、平川奈美助教、乳腺科学分野 堀本義哉准教授、名古屋大学医学部医学系研究科病態構造解析学 中黒匡人准教授、名古屋市立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 川北大介准教授、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科 本間義崇医長、高橋秀聡医員、北海道大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 加納里志准教授、がん・感染症センター都立駒込病院耳鼻咽喉・頭頸部外科 多田雄一郎部長(東京医科大学客員准教授)らのグループは、高悪性度の希少がんである唾液腺導管癌を対象に、HER2タンパク発現およびHER2遺伝子の腫瘍内不均一性と抗HER2療法の治療効果との関係を、世界最大規模となる98例で検討しました。その結果、HER2腫瘍内不均一性は約1割の症例に認められたものの、その有無は抗HER2療法の奏効率や生存期間とは関連しませんでした。また、この不均一性は原発巣の切除検体でのみ確認され、それを有する症例では、HER2陽性成分が優位に転移する傾向がみられました。本研究の成果は、HER2腫瘍内不均一性が存在しても、それのみを理由に抗HER2療法の有効性が低いと判断する必要はない可能性を示す重要な知見です。

この研究成果は、2026年8月27日、United States and Canadian Academy of Pathology (USCAP)の公式国際科学誌である「Modern Pathology」に掲載されました。


【概要】

東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)人体病理学分野 長尾俊孝主任教授、内海由貴客員研究員、助田葵助教、平井秀明助教、牛草健助教、平川奈美助教、乳腺科学分野 堀本義哉准教授、名古屋大学医学部医学系研究科病態構造解析学 中黒匡人准教授、名古屋市立大学大学院医学研究科耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 川北大介准教授、国立がん研究センター中央病院頭頸部・食道内科 本間義崇医長、高橋秀聡医員、北海道大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 加納里志准教授、がん・感染症センター都立駒込病院耳鼻咽喉・頭頸部外科 多田雄一郎部長(東京医科大学客員准教授)らのグループは、高悪性度の希少がんである唾液腺導管癌を対象に、HER2タンパク発現およびHER2遺伝子の腫瘍内不均一性と抗HER2療法の治療効果との関係を、世界最大規模となる98例で検討しました。その結果、HER2腫瘍内不均一性は約1割の症例に認められたものの、その有無は抗HER2療法の奏効率や生存期間とは関連しませんでした。また、この不均一性は原発巣の切除検体でのみ確認され、それを有する症例では、HER2陽性成分が優位に転移する傾向がみられました。本研究の成果は、HER2腫瘍内不均一性が存在しても、それのみを理由に抗HER2療法の有効性が低いと判断する必要はない可能性を示す重要な知見です。

この研究成果は、2026年8月27日、United States and Canadian Academy of Pathology (USCAP)の公式国際科学誌である「Modern Pathology」に掲載されました。

【本研究のポイント】(図1)


抗HER2療法(トラスツズマブ+ドセタキセル)を受けたHER2陽性唾液腺導管癌98例を解析し、同治療患者を対象とした研究として世界最大規模の検討を実施しました。

HER2陽性領域とHER2陰性領域が同一腫瘍内に混在する「HER2腫瘍内不均一性」を11.2%(11/98例)の症例に認めました。原発巣切除症例71例に限定すると、その頻度は15.5%にのぼります。

HER2腫瘍内不均一性は原発巣の切除検体のみで確認され、転移巣では認められませんでした。また、原発巣でHER2腫瘍内不均一性が確認された症例のうち、10例中8例でHER2陽性成分のみが転移していました。

HER2腫瘍内不均一性の有無は、トラスツズマブ+ドセタキセル療法の奏効率、無増悪生存期間、全生存期間のいずれとも有意な関連を示しませんでした。





図1. 本研究の概略

【研究の背景】

唾液腺導管癌(Salivary Duct Carcinoma: SDC)は、唾液腺に発生する比較的まれな悪性腫瘍で、局所再発や遠隔転移を来しやすい高悪性度癌です。SDCでは、40~50%程度の症例でHER2タンパクの過剰発現やHER2遺伝子の増幅がみられ、重要な治療標的となっています。HER2陽性の切除不能・再発・転移性SDCに対しては、抗HER2抗体であるトラスツズマブと抗がん剤ドセタキセルを組み合わせた治療が高い有効性を示しており、現在では標準的な治療選択肢となっています。

しかし、ひとつの腫瘍内であっても、すべてのがん細胞が同一の性質を持つとは限りません。HER2においても、陽性細胞と陰性細胞が同一腫瘍内に混在する「HER2腫瘍内不均一性(intratumoral heterogeneity: ITH)」が生じることがあります。

乳癌や胃癌では、HER2 ITHを有する腫瘍で抗HER2療法への反応性が低下することが複数の研究で示されており、治療効果を左右する因子として注目されています。また、HER2遺伝子の増幅度が強い腫瘍ほど治療効果が高い可能性も報告されています。

一方でSDCにおいては、HER2 ITHの出現頻度や治療効果への影響、さらには原発巣の不均一性が転移巣へどのように引き継がれるのかについての十分な検討はなされていませんでした。

そこで本研究では、トラスツズマブ+ドセタキセル療法を受けたHER2陽性SDC 98例を対象として、①HER2 ITHの頻度、②原発巣と転移巣におけるHER2状態の違い、③HER2 ITHと治療効果の関係、④HER2遺伝子増幅の程度と治療効果の関係を系統的に検討しました。

【本研究で得られた結果・知見】

1.HER2 ITHは約1割の症例で確認された

2023年ASCO/CAP乳癌HER2検査ガイドラインを参考に、HER2陽性領域とHER2陰性領域が領域性に分離して存在し、それぞれが腫瘍面積の10%以上を占める場合を「HER2 ITH」と定義しました。98例のうち、11例(11.2%)にHER2 ITHが観察されました。なお、転移巣標本ではHER2 ITHは認められず、原発巣切除検体が評価できた71例に限ると、その頻度は15.5%でした。

2.原発巣でみられたHER2の不均一性は転移巣では認められなかった

本研究の特徴の一つは、HER2 ITH陽性症例について、原発巣だけでなくリンパ節や遠隔臓器などの転移巣も精査した点です。HER2 ITH陽性症例のうち転移巣を評価できた10例では、8例でHER2陽性成分に相当する転移、2例でHER2陰性成分に相当する転移が検出されました。しかし、評価した転移巣そのものにはHER2 ITHは認められませんでした。さらに、複数の転移巣を評価できた9例において、同一患者内の複数転移巣間でHER2状態の不一致はみられませんでした。これらの結果は、SDCでは原発腫瘍内に複数のHER2状態をもつ細胞集団が存在していても、転移の過程で特定の細胞集団が選択され、転移巣ではHER2状態がより均一になる可能性を示唆しています。

3.HER2 ITHはHER2標的治療の効果低下と関連しなかった

98例に対するトラスツズマブ+ドセタキセル療法では、奏効率80.6%、無増悪生存期間中央値9.9か月、全生存期間中央値43.8か月でした。HER2 ITH陽性群と陰性群を比較したところ、奏効率、無増悪生存期間、全生存期間のいずれにも有意差は認められませんでした(図2)。これは、HER2 ITHがHER2標的治療への抵抗性と関連することが多い乳癌や胃癌とは異なる結果です。原発巣にHER2陰性領域が存在していても、実際に治療対象となる転移巣ではHER2状態が均一で、特にHER2陽性の転移が多かったことが、HER2 ITHが治療効果低下につながらなかった一因と考えられます。



図2. HER2腫瘍内不均一性と抗HER2療法の治療効果との関係

4.HER2遺伝子増幅の「強さ」も治療効果に影響しなかった

HER2遺伝子のコピー数やHER2/CEP17比をさまざまな基準値で解析しましたが、いずれも奏効率、無増悪生存期間、全生存期間との有意な関連を認めませんでした。したがって、HER2陽性SDCでは、HER2陽性であること自体は治療選択に重要である一方、HER2遺伝子がどの程度強く増幅しているかを測定しても、トラスツズマブ+ドセタキセル療法の効果を予測する追加情報にはなりにくいことが判明しました。

【今後の研究展開および波及効果】

本研究では、HER2陽性SDCに対するHER2標的治療を考慮する際、原発巣にHER2 ITHが存在することのみを理由に治療効果が低いと判断する必要はない可能性を示しました。これは、HER2 ITHが治療抵抗性と関連することの多い乳癌や胃癌とは異なる、SDC特有の生物学的特徴と考えられます。

また、原発巣と転移巣でHER2状態が異なる症例も一部で観察されたことから、今後は治療対象となる転移巣そのもののHER2状態を評価することの臨床的意義について、さらなる検討が求められます。本研究においても、HER2陰性の原発巣からHER2陽性の肺転移を生じた症例が確認されており、転移巣の再評価が治療選択に有用となるかもしれません。

今後、原発巣と転移巣のHER2状態を踏まえた評価法や新たな治療効果予測バイオマーカーの確立により、SDCに対するより精密な個別化治療の実現が期待されます。

【論文情報】

タイトル:HER2 Intratumoral Heterogeneity in Salivary Duct Carcinoma: Association With Treatment Response and Comparison Between Primary and Metastatic Lesions

著  者:Yoshitaka Utsumi, Masato Nakaguro, Daisuke Kawakita, Yoshitaka Honma, Hideaki Takahashi, Satoshi Kano, Hideaki Hirai, Aoi Sukeda, Takashi Matsuki, Nami Hirakawa, Takeshi Ushigusa, Yoshiya Horimoto, Hitoshi Tsuda, Yuichiro Tada, Toshitaka Nagao*(*:責任著者) 

掲載誌名:Modern Pathology

DOI: 10.1016/j.modpat.2026.101074

【主な競争的研究資金】

本研究は、文部科学省科研費 基盤研究(課題番号:22K06939、25K12794、26K02551、24K12689、22K06969、24K10293、24K12655、23K06432)及び東京医科大学研究助成金の支援を受けています。

〇研究内容に関するお問い合わせ先

 東京医科大学 人体病理学分野

主任教授 長尾俊孝

TEL:03-3342-6111(病院代表)

E-mail:nagao-t@tokyo-med.ac.jp

〇取材に関するお問い合わせ先

東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室

TEL:03-3351-6141(大学代表)

E-mail:d-koho@tokyo-med.ac.jp

大学HP:https://www.tokyo-med.ac.jp/

名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係

TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785

E-mail:iga-sous@t.mail.nagoya-u.ac.jp

名古屋市立大学 病院管理部経営課

TEL:052-858-7529

E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp

北海道大学病院 経営企画課 広報戦略係

TEL:011-706-7631

FAX:011-706-7611

E-mail:pr_office@huhp.hokudai.ac.jp

東京都立駒込病院 計画課計画グループ計画担当

TEL:03-3823-2101

E-mail:km_kikaku@tmhp.jp

▼本件に関するお問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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