【研究経過報告】症例報告を学んだLLM-jpベースの医療特化のエージェントLLM、ハルシネーション病名を8割削減
配信日時: 2026-10-26 16:06:10
―「症例報告のエッセンスを学ぶと、AIはハルシネーションを減らせる」―
プレシジョン、約3万例の症例を整理した「疾患因果ダイアグラム」を国産LLM「LLM-jp-4」に独自に追加学習。ハルシネーションが疑われる病名は15.5%から3.0%に。
その成果を活用した医療用日本語入力「今日の医療AI日本語入力」も商用化へ
(内閣府SIP第3期テーマB-2・B-6の共同研究)
株式会社プレシジョン(本社:東京都文京区、代表取締役:佐藤 寿彦)は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)※1第3期研究開発課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」※2のテーマB-2およびB-6※3 の研究の経過報告として、当社が国産LLM「LLM-jp-4」に対して独自に追加学習し外部ツールを利用して情報を取得・活用できるようになっている医療特化のエージェントLLM「SIP-jmed-LLM-Precision」の評価結果を発表します。あわせて、SIPの研究成果の社会実装を進め、その一つとして医療用日本語入力「今日の医療AI日本語入力(Precision IME-med)」を商用化します。
【研究の経過】
SIP第3期研究開発課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」のプログラムディレクターである永井 良三 自治医科大学学長が約10年をかけて整理した約3万例の症例の「疾患因果ダイアグラム」※4 を用いた医療LLM「SIP-jmed-LLM-Precision」を開発しました。SIP-jmed-LLM-Precision は、国立情報学研究所が中心となって開発する国産のオープンな大規模言語モデル(LLM)「LLM-jp」※5 のモデルを基盤に、当社が独自に追加学習したものです。
疾患因果ダイアグラムは、症例報告をもとに、患者の背景・症状・検査所見から病態や診断に至る因果のつながりを、症例ごとに図式化したものです。当社は、そのシステムと用語辞書の管理を担ってきました。今回作成したSIP-jmed-LLM-Precision は、この症例報告のエッセンスを LLM-jp-4 32B-A3B に追加学習させて医療に特化させたものです。症例の所見から検索語を用意して疾患因果ダイアグラムを検索し、関連する症例と疾患を整理して示すシステムのエンジンとして用いられます。
医師が作成した症例問題のうち学習に使っていない100問で追加学習の前後を比べたところ、モデルが挙げた病名のうち医学辞書にもWeb検索にも見つからない病名(ハルシネーションの疑いがある病名)の割合が15.5%から3.0%に下がりました。同時に、疾患因果ダイアグラムの検索結果を並べ替えて順位を付ける(リランキング)エンジンとしても働き、正解の疾患を上位10件に挙げた率も27%から65%に上がりました。症例報告のエッセンスを学ばせることで、AIが挙げる病名の確かさと、正解の疾患を挙げる率がともに上がることを確かめました。今後もこの研究開発を進めていきます。
【「今日の医療AI日本語入力(Precision IME-med)」の商用化】
SIPの研究開発では、成果の社会実装が求められています。当社はその一環として、「今日の医療AI日本語入力(Precision IME-med)」を商用化します。
今日の医療AI日本語入力は、LLM-jpに対して当社で医療向けに追加学習し、さらに SIP-jmed-LLMの出力を追加で蒸留学習させたエンジンを、変換候補の並べ替え(リランキング)に用いた医療用の日本語入力です。変換のエンジンは文章を生成せず、辞書にある変換候補の順番を決めるだけなので、辞書にない語や実在しない病名を作り出すこと(ハルシネーション)は仕組み上起きません。〔2026年10月から販売します。〕
1. 研究の経過:症例報告のエッセンスを学習した医療LLMを開発
1-1. 背景
医師は、症状や検査結果から考えられる病気を挙げ、検査や経過をもとに絞り込んでいきます(鑑別診断※6)。考えられる病気の絞り込みに汎用のLLMを使うと、候補として提示される病名の表記に誤りがあったり、実在しない病名が混ざったりすることがあります。今回の比較でも、追加学習前のモデルは「ハンターフェア、パラキシスマル夜間血色素尿症」(正しくは、ハンタウイルス感染症、発作性夜間ヘモグロビン尿症)のような外来語の誤った音写や、英語のままの病名を挙げていました。医師がこうした病名を一つずつ確かめる必要があると、AIを使っても確認の手間が残ります。
当社は、永井良三学長の疾患因果ダイアグラムのシステムと用語辞書の管理を担ってきました。また、上記SIP課題のテーマB-2およびB-6では、疾患因果ダイアグラムを用いた医療LLMの研究開発を進めています。
1-2. 疾患因果ダイアグラム
疾患因果ダイアグラムは、上記SIP課題のプログラムディレクターである永井 良三 学長が、約3万例の症例について、患者の背景・症状・検査所見から病態や診断に至る因果のつながりを症例ごとに図式化し、学長が上記SIP課題のテーマE-2(国立情報学研究所・京都大学)に参画する研究者の支援を受けて作成した約5万語の用語辞書で医学用語を統一して整理したものです。症例報告の本文そのものではなく、症例から得られた医学的な関係性を整理したものです。
[表1: https://prtimes.jp/data/corp/80023/table/28_1_00815d95ac40b1c1c36753af0fd02665.jpg?v=202610261615 ]
疾患因果ダイアグラムは、鑑別診断の参考とする情報を整理したもので、確定診断を行うものではありません。最終的な判断は医師が行います。
1-3. 開発した国産の医療特化モデル
LLM-jp が公開する「llm-jp-4-32b-a3b-thinking」を土台に、疾患因果ダイアグラムを用いて当社が独自に追加学習し外部ツールを利用して情報を取得・活用できるようになっている医療特化のエージェントモデルが「SIP-jmed-LLM-Precision」です。症例の所見から検索語を用意して疾患因果ダイアグラムを検索し、関連する症例と疾患を整理して、順位を付けて示します。示す内容は医師が参照するための情報で、診断を行うものではありません。なお本モデルは研究開発段階のもので、医療機器としての承認を受けたものではありません。
1-4. 結果
医師が作成した症例問題のうち、学習に使っていない同じ100問で、学習前と学習後のモデルを比べました。
[表2: https://prtimes.jp/data/corp/80023/table/28_2_8a3c340ec069a1db1123b9831341cfc0.jpg?v=202610261615 ]
2. 医療用日本語入力「今日の医療AI日本語入力(Precision IME-med)」の商用化
2-1. 製品の特長
仕組み上、ハルシネーションが起きない:変換のエンジンは文章を生成せず、辞書にある変換候補の順番を決めるだけです。そのため、辞書にない語や実在しない病名を作り出すことは、仕組み上ありません。候補の順番を誤ることはありうるため、確定は利用者が行います。
医療用の辞書:病名や薬剤名など、医療で使う語を収録した辞書で変換します。
研究成果を学習したエンジン:LLM-jp が公開するモデルに対し、当社で医療特化型生成AIであるSIP-jmed-LLM 8x13BやSIP-jmed-LLM-Precision の出力等で追加学習させたエンジンを、変換候補の順番を決める並べ替え(リランキング)に用いています。
電子カルテの改修は不要:パソコンの日本語入力として動作するため、電子カルテの側を改修せずに使えます。
2-2. 今後提供する予定の機能「変換の見直し提案」
日本語入力では「精算/清算」「方針/疱疹」のように、読みが同じで意味の違う言葉を取り違えることがあります。「変換の見直し提案」は、文章を確定したあとにAIが前後の文脈を読み、取り違えの可能性がある言葉について別の候補を提示する機能です。AIが文章を自動で書き換えることはなく、候補を採用するかどうかは利用者が選びます。
3. 株式会社プレシジョン 代表取締役 佐藤 寿彦(医師)のコメント
症例報告には、報告した医師がどの所見から何を考え、どう絞り込んだかが書かれています。このエッセンスを学ぶことで、AIは賢くなります。今回の経過報告では、LLM-jp を土台に当社が独自に症例報告のエッセンスを追加学習させたモデルで、医学辞書にもWebにも見つからない病名が約8割減り、正解の疾患を挙げる率も上がりました。医師が症例について調べるときにAIを使うには、正しい病名が含まれていることに加えて、示された病名を一つずつ確かめる手間が少ないことが求められます。
今後は、この研究成果を医療現場で使える製品にしていきます。その一つとして、SIP-jmed-LLM-Precision の出力を追加で学習させた小型のエンジンを搭載した医療用日本語入力を商用化します。
注記
※1 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とは、政府の総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトです。真に重要な社会的課題や、日本経済再生に寄与できるような世界を先導する課題に取り組んでいます。 各課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に産学官連携を図り、基礎研究から実用化・事業化、すなわち社会実装までを見据えて一気通貫で研究開発を推進しています。
内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」公式サイト:https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/
※2 統合型ヘルスケアシステムの構築とは、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期の研究開発課題の一つであり、医療デジタルツインの実装により医療・ヘルスケアにおける「知識発見」と「医療提供」の循環が自律的に促進され、医療の質向上、健康寿命延伸、医療産業振興、持続可能な医療制度に活用されることを目指しています。そのために、医療デジタルツインに必要な「技術開発」と医療デジタルツインを活用した医療・ヘルスケア課題のソリューションの「事業」化に取り組みます。 デジタルツインとは、現実世界(物理空間)の情報をデジタル化し、仮想空間(デジタル空間)上に再現したモデルを構築し、現実に近いシミュレーションを行い、社会にフィードバックする仕組みのことです。
SIP第3期研究開発課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」公式サイト:https://sip3.jihs.go.jp/index.html
※3 内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期研究開発課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」において、当社はテーマB-2「電子問診票とPHRを用いた受診支援・電子カルテ補助システム」およびテーマB-6「大規模症例知識ベースと統合した実践型医療LLMの開発と社会実装」に参画しています。
※4 疾患因果ダイアグラムとは、上記のSIP課題のプログラムディレクターである永井 良三 学長が約10年をかけて、約3万例の症例について、疾患・病態と症状・所見の関係を図式化し、永井学長が上記SIP課題のテーマE-2(国立情報学研究所・京都大学)に参画する研究者の支援を受けて作成した用語辞書で医学用語を統一して整理したものです(本文 1-2 を参照)。本研究では、疾患因果ダイアグラムと用語辞書(いずれも永井学長個人のデータ)を、永井学長の許諾のもとで利用しています。
※5 LLM-jp とは、国立情報学研究所(NII)が中心となり、大学・研究機関・企業が参加して開発している、日本語の大規模言語モデルのプロジェクトです。第三者も入手できる学習コーパスを用いてゼロから学習(フルスクラッチ学習)したモデルを、オープンソースライセンスで一般に公開しています。今回の評価では、LLM-jp が公開する「llm-jp-4-32b-a3b-thinking」等を土台にしました。SIP-jmed-LLM-Precision と日本語入力のモデルは、いずれも LLM-jp が公開するモデルを土台に当社が独自に追加学習したものです。
※6 鑑別診断とは、患者の症状や検査結果から考えられる複数の病気を挙げ、検査や経過をもとに絞り込んでいく診断の過程です。
本研究は、内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期研究開発課題「統合型ヘルスケアシステムの構築」(課題番号:JPJ012425)テーマB-2およびB-6の支援を受けて実施しました。
会社情報
株式会社プレシジョン
代表取締役:佐藤 寿彦
本社所在地:東京都文京区本郷4丁目2-5 MAビル7階
電話番号:03-5615-8062
URL:https://www.premedi.co.jp
業種:情報通信
上場:未上場
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