【摂南大学】海を渡るカモメ、薬剤耐性菌も運ぶ可能性
配信日時: 2026-07-08 14:00:00
オオセグロカモメから医療上重要な耐性菌を検出
摂南大学(学長:久保康之)生命科学科 分子生態学研究室の見坂武彦教授、藤田蓮学部生(現:摂南大学大学院生)、大島りこ学部生(現:大阪工業大学大学院生)、姫路獨協大学の川井眞好准教授の研究グループは、北海道で繁殖するオオセグロカモメの腸内細菌叢(さいきんそう)と抗菌薬耐性菌を詳細に解析しました。その結果、院内感染の原因菌として知られるステノトロフォモナス・マルトフィリア※が、糞便(ふんべん)中に高い割合で存在することを明らかにしました。分離された菌株の多くは、強いバイオフィルム形成能や高い運動性を示し、更に約18%の株は、本菌感染症の治療に用いられる2種類の抗菌薬に耐性を示しました。本成果は、渡り鳥であるカモメ類が薬剤耐性菌を腸内に保有し、糞便を介して自然環境中へ拡散させる可能性を示すものです。また、ヒト・動物・環境を一体的に捉えるワンヘルスの観点から、野生鳥類を含めた薬剤耐性菌の継続的な監視の重要性を示しています。
本研究成果は、 2026年7月6日に米国微生物学会の学術雑誌「Microbiology Spectrum」に掲載されました。
URL:https://doi.org/10.1128/spectrum.00947-26
【本件のポイント】
● オオセグロカモメの糞便から、院内感染の原因菌として知られるステノトロフォモナス・
マルトフィリアを高頻度に検出
● 医療機関や高齢者施設において、渡り鳥による抗菌薬耐性菌の環境拡散リスク対策の必要
性を示唆
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/140284/285/140284-285-57e3db32f4284552875aa0f16819abb0-880x507.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
研究の背景
薬剤耐性菌は、世界的な公衆衛生上の重要課題です。近年、渡り鳥が国境を越えて薬剤耐性菌を運ぶ可能性が注目されています。渡り鳥自身に抗菌薬が投与されることは通常ありません。しかし、カモメ類などの水鳥は、下水処理場、廃棄物処分場、河川、家畜排せつ物が流入する農地などで採餌することがあります。こうした環境には、ヒトや家畜に由来する抗菌薬や薬剤耐性菌が含まれている場合があり、鳥類がそれらを体内に取り込む可能性があります。カモメは日常的に採餌行動で数十kmを移動するだけでなく、渡りの時期には千km以上にわたって移動します。そのため、獲得した薬剤耐性菌を腸内に保有したまま別の地域へ運び、糞便を通じて環境中へ拡散させることが懸念されています。
本研究で対象としたオオセグロカモメは、夏季に北海道周辺で繁殖し、冬季には西日本から東南アジア地域へ移動することがあります。これまでにも本種からコリスチン耐性大腸菌が検出されており、薬剤耐性菌の保有宿主及び運び手となる可能性が示されていました。そこで本研究では、オオセグロカモメが保有する薬剤耐性菌の種類や、その遺伝的・生物学的特徴を明らかにすることを目的としました。
研究内容
本研究では、2024年に北海道東部の繁殖地で採取したオオセグロカモメの新鮮な糞便を解析しました。その結果、糞便中の総細菌数は1gあたり約1000万~1億個であり、そのうちステノトロフォモナス・マルトフィリアが14~47%を占めることが明らかになりました。更に、抗菌薬であるメロペネム、シプロフロキサシン、コリスチンを含む培地で増殖した耐性菌は、すべてステノトロフォモナス・マルトフィリアでした。これらの耐性菌は、検体の53%から検出され、糞便1gあたり約100~1万個の生菌が確認されました。
分離した60株について薬剤感受性を調べたところ、約18%の株が、本菌感染症の治療に用いられるスルファメトキサゾール・トリメトプリム合剤(ST合剤)とレボフロキサシンの両方に耐性を示しました。一方で、95%の株は、別の治療薬候補であるミノサイクリンに感受性を示しました。また、分離株のほぼすべてが、強いバイオフィルム形成能と高い遊泳運動性を示しました。加えて、病原性や宿主への付着に関わる遺伝子も確認されました。
本研究の意義
ステノトロフォモナス・マルトフィリアは、院内感染で問題となる日和見病原菌の一つです。特に、ICU入室患者、免疫不全患者、長期にわたり抗菌薬を使用している患者などで感染症を引き起こすことがあります。本菌は、グラム陰性桿菌(かんきん)感染症で広く用いられるカルバペネム系やアミノグリコシド系などの多くの抗菌薬に対して、もともと効きにくい性質を持っています。また、キノロン系抗菌薬等に対しても耐性化しやすいことが知られています。
本菌による感染症の第一選択薬は一般にST合剤であり、代替薬としてレボフロキサシンやミノサイクリンなどが用いられます。本研究で分離された株の一部は、ST合剤とレボフロキサシンの両方に耐性を示しており、臨床上注意を要する性質を持っていました。一方で、多くの株がミノサイクリンに感受性を示したことから、治療薬選択の余地が残されていることも確認されました。
これらの結果は、オオセグロカモメが薬剤耐性を持つステノトロフォモナス・マルトフィリアを腸内に保有し、糞便を介して水域、港湾、都市環境などへ拡散させる可能性を示しています。特に、医療機関や高齢者施設など、薬剤耐性菌による感染リスクが高い場所の周辺環境では、注意が必要と考えられます。
今回の知見は、渡り鳥が薬剤耐性菌の環境中における保有宿主、更には地域間をつなぐ運び手となり得ることを示すものです。ヒト、動物、環境を一体的に捉えるワンヘルスの観点から、野生鳥類を含めた薬剤耐性菌の監視体制を強化する重要性が示されました。
用語説明:
※ステノトロフォモナス・マルトフィリア
水や土壌など自然環境に広く存在する細菌である。通常は病原性が低いものの、免疫力が低下した患
者では肺炎や血流感染症などを起こすことがあり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療
プロセスにおいて二次感染として発症し、重症化の要因となるケースが報告されている。多くの抗菌
薬に耐性を示すため、院内感染で問題となる日和見病原菌である。
論文情報
論文名:High abundance of Stenotrophomonas maltophilia in slaty-backed gull breeding in
Northern Japan
(和訳:北日本で繁殖するオオセグロカモメにおけるステノトロフォモナス・マルトフィリア
の高い存在量)
著 者:川井眞好、藤田蓮、大島りこ、見坂武彦
雑誌名:Microbiology Spectrum
DOI:10.1128/spectrum.00947-26
公開日:2026年 7月6日
本研究はJSPS科研費25K03284、25K22352の助成を受けたものです。
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