持続可能な地域社会へ 社会福祉法人と地元企業の協働がもたらすもの

2024年3月3日 18:55

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記事提供元:エコノミックニュース

神戸市の社会福祉法人木の芽福祉会の障害福祉作業所「御影倶楽部」では、同じ町にある老舗酒蔵白鶴酒造から提供された酒パックをパルプに戻して再生し、一枚一枚手すきの紙「みかげくらぶの手すき紙」を作り、地元の店舗やインターネットなどで販売している

神戸市の社会福祉法人木の芽福祉会の障害福祉作業所「御影倶楽部」では、同じ町にある老舗酒蔵白鶴酒造から提供された酒パックをパルプに戻して再生し、一枚一枚手すきの紙「みかげくらぶの手すき紙」を作り、地元の店舗やインターネットなどで販売している[写真拡大]

 地域社会の支え役として、社会福祉法人の存在感が増している。現在、全国で約21000の社会福祉法人が認可されており、高齢者や子ども、障害者、生活困窮者など、支えを必要とする人々に様々な福祉サービスを提供している。

 また、地域福祉の担い手として、福祉サービスの利用者だけでなく、地域の行政機関や企業、団体などと連携した取り組みを実践し、地域の文化やニーズに即した新しい事業を創出している社会福祉法人も少なくない。

 例えば、神戸市の社会福祉法人木の芽福祉会の障害福祉作業所「御影倶楽部」では、同じ町にある老舗酒蔵白鶴酒造から提供された酒パックをパルプに戻して再生し、一枚一枚手すきの紙「みかげくらぶの手すき紙」を作り、地元の店舗やインターネットなどで販売している。

 御影倶楽部は、一般企業への就職が困難な障害を持つ方や難病を抱えている方が利用対象となる就労継続支援B型の障害福祉作業所だ。現在45名のメンバーが登録し、軽作業(釣り針、ビス入れ、シール貼り、ラベル折り等)やマンション清掃などの地域の仕事を請け負っている。彼らは、障害や病気のために一般企業での就職は難しいものの、決して働けないわけではない。メンバーによって得意なことや経験も多彩で、それを活かした環境があれば、力を発揮することができる。「みかげくらぶの手すき紙」の制作でも、それぞれ、酒パックを解体する人、紙を切って原料を作る人、紙を漉く人、商品作りをする人と、それぞれ自分に合う仕事を選び、役割分担をしながら取り組んでいるという。

 そうして出来た「みかげくらぶの手すき紙」は、はがきサイズや名刺サイズ、A4サイズなどの大きさに分けられるが、中には、大きすぎたり、厚すぎたり、薄いところがあったりもする。いびつなものや、一部が折れている、そもそも不思議な形になってしまったものもある。しかし、それらを不良品として破棄してしまうのではなく、御影倶楽部では「いろんなかたち」としてセット販売している。これが「味がある」と好評を得ているようだ。多様性を大切にする時代だからこそ、市販の用紙にはない温かさと特別感を感じるのかもしれない。

 「みかげくらぶの手すき紙」は環境にも優しい。材料となる酒パックは、白鶴酒造の日本酒パック「まる」などの製造過程でやむを得ずロスとなってしまうものが提供されている。同社では元々紙の原料としてリサイクルしていたが、御影倶楽部に提供することで新たな価値が生まれた。福祉施設の収益となるだけでなく、企業と地域のつながりによる循環資源の活用を実現した好例と言えるだろう。

 また、白鶴酒造が地域貢献活動として開催している酒蔵開放イベントに御影倶楽部のメンバーが参加して紙すき体験のワークショップを開催したり、共同で社会科見学の受け入れを行ったり、両者は商品を作るだけに留まらない共存共栄の関係を築いている。

 この活動は地元で徐々に認知され、注目されるようになり、地域のお店や企業などから、コーヒーかすやしょうゆかす、野菜の皮、六甲山の間伐材、播州織の端切れなど、それぞれに縁のものをリサイクルして漉き込んでほしいとオリジナルの注文も舞い込んでいるそうだ。もちろん白鶴酒造でも、一部の社員の名刺にこの手すき紙を採用し、PRなどに活用しているという。

 地域の社会福祉法人と企業が手を取り合って、地域住民のニーズに応じたサービスを提供することは地域課題の解決にもつながり、持続可能な地域社会実現を支える力となる。

 「みかげくらぶの手すき紙」は、御影倶楽部のメンバーが地域のイベント会場等での販売や納品も行っている他、オンラインショップで販売されている。ぜひ一度、手に取ってその温もりを感じていただきたい。(編集担当:藤原伊織)

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