ウクライナは泥沼化か【フィスコ・コラム】

2022年3月6日 09:00

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記事提供元:フィスコ


*09:00JST ウクライナは泥沼化か【フィスコ・コラム】
ウクライナとロシアの停戦交渉は合意が困難とみられ、この問題は泥沼化の可能性が出てきました。欧米とロシアの対立激化を受け、足元は有事のドル買いが強まっています。ただ、金融政策への影響も懸念され、目先のドルは失速が見込まれます。


ロシアのプーチン大統領はウクライナへの武力侵攻を終結させる条件として、ウクライナの非武装化とクリミア半島でのロシア主権の承認を挙げました。前者はウクライナの北大西洋条約機構(NATO)の加盟断念を意味します。それに対し、ウクライナはクリミア半島をはじめ全土からのロシア軍撤収を求めていますが、NATOの東方拡大を阻止したいロシアはウクライナの主張を受け入れないでしょう。


NATOは2008年にウクライナの将来的な加盟で合意しながらも、加盟には全会一致の承認が必要との理由で事実上先送りしました。虎の尾を踏むのをためらったのでしょう。実際、非加盟のウクライナがロシアから武力攻撃を受けても、NATO軍は集団的自衛権を発動できず、東欧への軍投入にとどまっています。西側諸国はこれ以上ロシアを刺激し、本気で怒らせたくないというのが本音とみられます。


双方の調整は困難で、最終的にロシア側の思惑どおりになる可能性があります。一方で、欧米はロシアへの制裁を強め、経済戦争に突入。ルメール仏財務相は「ロシア経済を崩壊させる」とまで述べ、ロシアに対する積年の憎悪をむき出しにしました。ロシアの株式市場は閉鎖、通貨ルーブルは暴落しています。原油相場にもその影響が及び、世界経済はコロナ禍からの回復どころではありません。


平和的解決への期待が遠のきウクライナ問題の長期化に思惑が広がるなか、目先もユーロ・円がクロス円の下げを主導しそうです。安全保障のリスクも浮上し、有事のドル買いも強まるでしょう。ドル買いと円買いにより、ドル・円は115円台を中心に底堅い推移が続いています。欧州中央銀行(ECB)の緩和政策からの転換への消極姿勢を受けたユーロ・ドルの下落もドル・円を支援しているようです。


一方、米連邦公開市場委員会(FOMC)を翌週に控え、消費者物価指数(CPI)が連邦準備理事会(FRB)の政策決定に大きく影響するとみられています。ただ、インフレ高進は顕著ですが、2月分の上昇が鈍化すれば50bpの利上げへの期待は縮小が見込まれます。パウエルFRB議長は議会証言で3月の引き締めサイクル入りに言及したものの、慎重さが伝わりました。ウクライナの不確実性でさらにタカ派色を薄める可能性もあります。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《YN》

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