5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (63)

2021年11月2日 19:01

印刷

 下期に入り、来年3月の個人面談・個人査定に向けて焦り始めている方もいることでしょう。年末にはご自身の今期の「成果」(見込み)が見え始め、1月末にはほぼ確定するはずです。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (62)

 「5社競合で●●億のアカウント獲得!」、「自主プレゼンを先行し競合プレゼンを回避した!」、「■■賞でグランプリ受賞!」、「チーム内で~~を発揮して社長賞を獲得!」、「社内プロジェクトを立ち上げ、~~に貢献!」といった期初に立てた目標を達成したか、否か。各業務に対し、自分がどのようなポジション(役割)で関わり、社会と自社に対し、何を作用させ、何を変容させたか。そして最終的にどの程度の成果を上げたのか? 

 期末にこれらを上司に具体的に報告(プレゼン)するわけですが、皆さんは1年間頑張った自分をどう評価しますか。昨年度の成績と比較して一喜一憂していないでしょうか。

 たとえば、ある会社員が昨年度のコンペ(競合案件)の勝率が3割だったとします。今年度の上期では「10コンペ連続勝利」を上げましたが、下期は「20コンペ連続で敗北」してしまいました。この会社員は下期の成績不振に引っ張られて、ひどく落ち込んでしまいます。

 しかし、彼は下期がたまたま全く勝てなかっただけで、実際には「昨年度と同じ勝率3割」の成績です。これは、上期で働いた「幸運(=偶然)」が下期では働かなかっただけであり、総合してみると3割という、「彼の平均値に収束」しているだけなのです。

■(65)好成績が連発している時、それが「あなたの普通」と考えない

 1つ目の「偏った成績結果」を対象として2つ目の成績結果を見ると、その平均成績は1つ目よりも2つ目のほうが平均値に近づくという統計学的現象があります。自然の摂理なのですが、これを「平均への回帰」と言います。

 例に挙げた会社員のように、「上期に偶然叩き出してしまった実力以上の好成績」を基準にしてしまうと、下期の勤務が精神的に辛くなります。これは「平均への回帰」を知らずに、代表的なサンプル(上期の好成績)だけを見て、全体を判断してしまう「思い込みタイプ」の1例です。

 成績が落ち込んだ理由が判明したからと言って、「すみませんが、統計学上、ボクの下期は未達成で当然なんですっ! ビジネスにだって自然の摂理が働いているんですっ!」などと上司に豪語するわけにはいきません。今期の成果(平均値)として「勝率3割」をしれっと語れれば、本来はそれで無問題のはずです。

 それでも、連敗・勝ち無しの下期が気になる人は、来期に花を咲かせる企画を今のうちに仕込んでおいてください。そして、査定者があなたに対する期待値を高めるために、面談時にその話をすればよいと思います。競合回避策、新規クライアント開発、コンテンツ開発……目標は何でも構わないので、来期に繋げる「具体的で実体のある動き」を停めないことです。これを継続することで、いずれ「実力以上の好成績のあなた」が定着していくはずです。

※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

記事の先頭に戻る

関連記事