5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (43)

2020年11月2日 16:43

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 今日は、【イノベーション特講(2)】です。皆さんはイノベーションをどう定義しますか?おそらく、所属する組織から「イノベーションを起こせ!」と期初に目標を掲げられてしまった方もいることでしょう。でも、この掛け声だけでは漠然過ぎて行動に移しづらいですよね。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (42)
 
 私なら、「それを使うことで社会生活や人生を劇的且つ急速に変革してしまう製品やサービスを考えよ」と定義を明らかにします。例えば、携帯電話の市場構造と生活者の行動を一変させた「スマートフォン」がこれに当たります。新技術によって既存事業の慣習を打ち砕いた「破壊的イノベーション」ともいわれています。しかし、この定義では壮大すぎて、まだまだ抽象的です。

■(45)イノベーションとは、人の思想さえも変えてしまう、他に選択肢がなく、代用のきかない不可逆的なもの

 もう少し、「自分視点に下げたイノベーション」の事例を探してみます。自分の関心事に寄った事例で定義を考えてみるのです。以前、このコラムで渋谷の公園内に設置された「透明のトイレ」を紹介しました。性犯罪予防のために壁をあえて全面ガラス張りにした丸見えの個室トイレで、この衝撃的発想は比類なきイノベーションでした。

 しかし、ここであえてモノサシをもう1つ増やしてみます。もし、公共施設のトイレの入り口に「オールジェンダー・トイレ」のマークが掲示されていたらどうでしょう。公共の場において性の多様性に踏み込んだアイデアを実体化することで、徐々に人の思想や態度を変容させていく。そんな社会的役割をこのトイレに持たせることができたかもしれません。

 この考察から、イノベーションとは、「マイノリティのための設計にもかかわらずマジョリティにも理解・受容されていく製品やサービス」とタイトに時代的な定義ができます。

 つまり、人の思想さえも変えてしまえるほどのアイデアなのか否か?同時にそれは、過去には戻れない行動習慣として根付くものなのか否か?これらのポイントが、イノベーションなのか、ただのアップグレードなのか、その分かれ目になるのだと私は考えています。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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