5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (39)

2020年8月30日 07:25

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渋谷区の公園に新しく設置された「公共トイレ」(写真: 筆者撮影)

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 渋谷区の公園に新しく設置された「公共トイレ」を見てきました。まさに発明。トイレの概念を変える、社会変革性の高い仕事だと深く感じ入りました。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (38)

 それは、ガラスの外壁で覆われた「透明のトイレ」。特殊ガラスを使用しており、トイレに人が入っていない時は透明で中が丸見え状態。トイレに入って施錠すると不透明な曇りガラスになって中が見えなくなるという仕組みです。

 第一印象は、カラフル、ポップ、カワイイ、でも静謐。何より、ガラス張りで「中が見えちゃうトイレ」というアナーキーさに惹かれました。

 今、「公共トイレ」には幾つかの問題点があります。

 (1)性犯罪の温床。女性用トイレに男が隠れ待つという卑劣な痴漢犯罪が増えている。
 (2)不衛生と嫌悪。汚い、臭い、暗い、なんだか怖い。

 これらの問題を「透明のトイレ」は見事に解決しています。

 (1)昼夜、常時透明のため、誰かが隠れ潜むことは絶対不可能。
 (2)入る前にクリーンか否かの確認ができる。透明ゆえに外からの監視機能も働き、使用者のマナー向上も見込まれる。

■(41)発明とは、常識を改変し、新しい社会風景をつくること

 「公共トイレ」には、もう1つ問題点があります。性的マイノリティを配慮したトイレが少ないという点です。たとえば、身体の性とは異なる性自認を持つトランスジェンダーの人は、トイレに入る際に周囲の視線が気になります。周囲から注意や指摘を受ける場合もあるそうです。

 多機能トイレを使うにしても、「障がい者の方が外で待っているかと思うと気が引ける」というトランスジェンダーの人もいます。彼らは、自分の身体に合わせても、心に合わせても、周囲の誤解や何かしらの不具合が生じてしまうストレスフルなトイレ問題を抱えているのです。

 解決策の1つは、「男女区別のマーク」を完全に無くすこと。トランスジェンダーもシスジェンダーもインターセックスも、気を使わず、並ぶこともなく、迷わず入れる「男女共用トイレ」「オールジェンダー・トイレ」に順次切り替えていくことです。よく見かける女子トイレの混雑もきっと緩和されるはず。

 当然、各方面の理解や合意形成には時間がかかることでしょう。マークや空間デザインの改変だけでなく、これまでの公共・共用の「常識」や「意識」も同時に改変していかねばなりません。「男女共用トイレ」「オールジェンダー・トイレ」の意義を全世代に啓蒙し、ある一定の理解を得る必要があります。

 このような公共性の高い業務は、実体化した先にある社会変化を想定しながら進めていくべきでしょう。そういう意味では、この「透明のトイレ」は圧倒的なクリエイティブで難題に答えながらも、常識や意識を変えていこうとする、1つの新しい風景を私に見せてくれました。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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