中国語の語彙力を飛躍的に伸ばす方法 村上春樹や東野圭吾の中国語版を多読

2020年3月31日 18:25

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 読書をすると、語彙が増え表現力が豊かになる。中国語の本をたくさん読むと、繰り返し出現する単語の使われ方に文の中で馴染んでいくため、語彙力が自然に鍛えられる。

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 中国語の多読で最も注意しなければならないのは、自分に合ったレベルの本を選ぶことだ。はりきって巴金や老舎といった著名な文学作品を購入しても、分からない単語だらけだと読み進めることが難しい。

 中国語の本を読み始めても、いつも三日坊主という人は、日本の小説の中国語版を読んでみよう。日本の小説は分かりやすい文体で書かれたものが多く、中国でも人気が高い。日本でも、中国語に翻訳された日本の小説は、アマゾンや楽天などネットで購入できる。

 中国で出版された書籍なので、中国国内で購入すれば1冊30~40元(約500円)で購入できる。出張や旅行で訪れる際にまとめ買いすると良いかもしれない。東野圭吾、村上春樹、渡辺淳一等の作品は中国でも人気が高く、市内の大型書店や空港の書店で買い求めることができる。また、中国のネット販売「淘宝」等を利用すれば、更に安く求められる。

 中国語に訳されている日本の小説の中でも、村上春樹の小説は1980年代から30年以上にわたって読まれ続けている。村上は文章のリズムを大切にする作家で、平易な文体が特徴的だ。中国語簡体字への翻訳は、そのほとんどが林少華氏によるものだ。氏の翻訳は装飾性を駆使した美文という定評があり、古文長の言い回しや成語を多用しているのが特徴的だ。

 出版社が交代した関係か、最近の著書の翻訳は施小炜氏にバトンタッチされている(『騎士団長殺し』は林少華氏が翻訳)。

 施小炜氏の訳文は原文にぴったりと寄り添った直訳だ。氏自身も対談で「できるだけ原文のリズムを再現するようつとめてきた」と語っている。

 試しに施小炜氏の訳で2010年に出版された「1Q84」の日本語原文と中国語訳版の1文を比べてみよう。

 BOOK3 第12章 天吾--世界のルールが緩み始めている
 BOOK3 第12章 天吾--世界的规则开始松弛

 朝食を済ませたあと、天吾は風呂場でシャワーを浴びた。
 吃完早饭,天吾在浴室里冲了澡

 髪を洗い、洗面所で髭を剃った。
 洗头,在洗脸间挂了胡须。

 洗濯して乾かしておいた服に着替えた。
 换上洗净晾干的衣服。

 それから外に出て駅の売店で朝刊を買い
 然后出门,在车站小卖店买份早报

 近所の喫茶店に入って熱いブラック・コーヒーを飲んだ
 走进近旁的咖啡馆喝杯热热的黑咖啡

 徹底した直訳・逐次翻訳で、原文のリズムと平易な文体をそのまま読者に伝えている。

 同様に読みやすい文体でオススメなのが東野圭吾の作品だ。これまで80以上の作品が中国語に翻訳されている。東野圭吾のファンである翻訳者、李盈春氏によって訳された作品は、原文に忠実で分かりやすい文体をそのまま再現しているため、テンポ良く読み進めることができる。

■多読の効果

 多読という学習方法は読書がきらいな人には不向きである。

 また、中国語の勉強を始めたばかりという人にも向かない。辞書を頻繁に引いていると、楽しくたくさん読むことができないからだ。

 多読は、自分が読みたい本を楽しみながら読むときに、その効果が最大になる。具体的には下記の効果が得られる

 1. 文章力、語彙力が付く。
 2. 表現力が豊かになる
 3. 読むスピードが上がる

 語彙力、表現力、文章力といった方面において多読の効果がはっきりと現れるようになるまでには、 少なくとも10万語から50万語の読書が必要と言われている。

 中国語を中国語のまま理解できる「中国語脳」形成のためには、総語数100万語程度の読書が必要といわれている。1分間に100語のペースで読み、1日30分の 読書時間を確保すれば1年で達成する計算だ。

■多読の注意点

●1. 辞書は引かない

 頻繁に辞書を引いていたら、楽しくたくさん読むことは難しい。どうしても気になる単語があれば、読み終えた後にまとめて辞書を引こう。

●2. 分からないところは飛ばす

 分からない部分があってもそこにとどまらず、どんどん読み進めよう。継続すれば分かる部分が増えていく。繰り返しになるが、自分のレベルにあった本を選ぼう。

●3. 進まなくなったらやめる

 誰だって気分が乗らないときはある。一定期間置いてから再び読んでみよう。最初から無理をせず、自分がほんとうに読みたい本、好きな作家の本を選ぼう。

●4. 集中すること

 意識をあちこちに飛ばしながら長時間本を開いていても多読の効果は得られない。短期間でも集中して読むことが語彙力アップのカギになる。

■多読にも自分なりの学びを入れる

 たくさん楽しく読むのが多読の基本だ。しかし限られた貴重な時間である。ちょっとだけ欲張って、多読だからこそ期待できる学びの要素を加えてみよう。

●1. 正しい動詞の選び方を覚えよう

 目的語に合致した正確な動詞が覚えられない人は多い。文やフレーズの中で覚えないと正確に使いこなせないからだ。試しに下記の日本語の動詞の部分を中国語で言えるか試してみよう

 aシャワーを「浴びる」
 b髭を「剃る」
 c喫茶店に「入る」
 d傘を「さす」
 e歯を「磨く」
 fページを「めくる」
 g果物の皮を「むく」
 hいびきを「かく」
 i鼻を「かむ」
 jかゆいところを「掻く」

 a「冲」澡
 b「挂」胡须
 c「走进」咖啡馆
 d「打」伞
 e「刷」牙
 f「翻」书页
 g「刷」水果皮
 h「打」呼噜
 i「擤」鼻涕
 j「挠」痒

 よく使う動詞なのに正確に記憶することが難しいのは、文の中で目的語と一緒に覚える必要があるからだ。だからこそ、多読の学びの一つに加えたい。

●2. 四字熟語及び成語

 中国では四字熟語や成語が本やドラマ、スピーチの中で頻繁に使用されている。深く大きな意味を簡潔に表すことができるのでウィットに富んだ会話が楽しめる。しかし、四字熟語や成語は単独で覚えることは難しい。なんとか暗記しても正しい場面で正しく使いこなすのはもっと難しい。よって、多読の学びの一つに加え、ストーリーや情景と一緒に覚えよう。(記事:薄井由・記事一覧を見る

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