5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (23)

2019年12月30日 07:04

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 10年前の話です。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (22)

 「あっ すんませぇ~~ん ●●●っていうロックバンドなんすけどぉ~ 新曲のジャケとかCMとかモロモロお願いできますぅ~? 時間無いんすよぉ~」

 それはレコード会社に勤める大学の友人・S田ディレクターからの電話でした。翌日、S田ディレクターとバンドメンバーと打ち合わせをすることになりました。

 S田ディレクターが口火を切ります。

 「いやぁ~ なんかさぁ~ 劇団ひとりさんが●●●のファンなんだよねぇ~ じ・つ・はっ! ホォ~ホホホホ……」

 あぁ、タレント先行の企画かぁ…と私はすぐに頭中で「新曲」と「ひとりさん」を掛け合わせていました。まずは、その日のうちにマネージャーに出演を承諾してもらいました。

 翌日、家でのんびりコンテを書いていると、S田ディレクターから電話が……。

 「あのぉ~ すんませぇ~ん 企画どーすかねぇ~?」
 
 「もうすぐ出来るので、PDFで送りますよ」

 とチャチャッと描き終えてS田ディレクターに送ると、すぐにまた電話が入りました。

 「あ~ これ、オモシロイっすねぇ~ ところで撮影なんすけどぉ~ アーティストの都合で明後日になっちゃったんすよぉーー スケ大丈夫すかぁ? カメラクルーとかこっちでスタンバるんでぇ~ よろしくっすぅ~」

 やべーと思いつつ、私は懐の深い後輩アートディレクターのSキ君にソッコー電話しました。もはやハウススタジオは取れないため、Sキ君の知人デザイナー・H川氏のアパートの部屋で撮影することになりました。そこは私の企画にドンピシャな空間でした。

■(25)追い込まれた時、目的に立ち戻れば、最適解は降りてくる

 CMの企画は、東京での仕事に夢破れて田舎に帰ることになった青年が、なんとか勇気を出して泣きながら彼女に電話をするという設定です。「オレ、ひとりじゃないよなぁ? ひとりじゃないよなぁぁぁ?」とパニック状態で泣きじゃくるひとりさんの胸熱な演技を1シーン1カットで撮るプランにしました。

 予算も時間も無いので私が演出をすることにしました。代理店クリエイターが映像演出することは決して珍しいことではなく、サイズによっては出来て当たり前です。

 「あのー 監督。この流れだと、最後、男はうしろに倒れ込まないと思うんですけど…… だって不自然ですよね?」

 私はひとりさんから演出の粗を突かれました。彼の疑問は正しい。私は、精神的に追い込まれた青年が泣きじゃくりながら背中からうしろ側に倒れていく演出にしたのですが、その指摘によって間違いに気づきました。人は究極に追い詰められた時、どちらかというと前に突っ伏すほうが自然かもしれないと。しかし、それだと、こたつテーブルに突っ伏すことになるため、まったく画にならない。まずい。

 「すいません、5秒ください! 再考します!」と言って、私は対案を高速で考え始めました。精神が崩壊寸前の青年を数秒で描き切ることが目的。あわてずに1度そこに立ち戻ります。すると数秒後、ふとアイデアが降りてきたのです(目的に立ち戻らずに、自分の引き出しから適当に手段を選んでいたら失敗していたことでしょう)。

 「ひとりさん。ぐぅ~っとティルトアップした後、フレームアウトします。最後、空(くう)を写すことで、青年の虚しさと世の冷酷さを印象づけられると思うので」

 そう狙いを伝えて、2テイクほど撮って無事に撮了。ひとりさんの助言でイイ画に仕上がりました。

 CDジャケット、WEB用長尺も同撮し、編集・MA入れて5日間で完パケた超絶スピード納品でした。クライアント、アーティスト、そのファンであるタレントとの一蓮托生なこういう仕事って、ありそうで、なかなか無いものです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。
http://www.copykoba.tokyo/

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