二極化進む欧州政治【フィスコ・コラム】

2019年11月3日 09:00

印刷

記事提供元:フィスコ


*09:00JST 二極化進む欧州政治【フィスコ・コラム】
ヨーロッパで右派ポピュリズムが台頭するなか、ドイツでは急進右派政党が議会選で支持を広げています。旧東独地域の議会選で、与党を上回る議席を獲得。今後、政治リスクとして意識されれば、ユーロ相場にも影響を与えそうです。


10月27日にドイツ・チューリンゲンで行われた州議会選挙で、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が5年前の前回選挙から得票を倍増し、第2党に躍進しました。1990年のドイツ統一以降、第1党を維持してきたメルケル首相所属のキリスト教民主同盟(CDU)を上回る勢いです。これまで実施されたザクセン、ブランデンブルクに続き、旧東独3州の議会選でそれぞれ大幅に議席を伸ばしました。


CDUとともに国政で連立政権を組むドイツ社会民主党(SPD)も振るわず、二大政党の退潮が指摘されます。チューリンゲンの選挙で第1党となったのは旧東独時代の社会主義統一党の流れをくむ左翼党でした。東西統一30年近くになろうとするドイツで、いまだ経済格差が是正されない旧東独地域の有権者が中道路線への不満を鮮明にしたとの見方もできそうです。


実際、ドイツの経済は最大の貿易相手である中国の腰折れで不振が目立っています。特に、製造業購買担当者景気指数(PMI)は経済活動の拡大、縮小の境目である50を大きく下回る状況です。欧州連合(EU)の指導的立場にあるドイツの低迷は、EU全体の成長を鈍化させます。そうした経済情勢の悪化は中東やアフリカから流入する多くの移民や難民への反感を高め、AfD躍進の原動力となった可能性があります。

経済情勢の悪化が必ずしも極右政党の台頭を招くわけではありませんが、自国利益最優先の排他的な主張を掲げる急進右派が勢力を強める国には経済政策への不満が共通しています。もともと反EUの立場であるAfDの不満の矛先は、緩慢な財政政策の南欧諸国から移民やイスラム教に変わっています。寛容な社会民主を守ってきたメルケル政権も無視できない状況になってきました。


一方、ヨーロッパには逆の流れも出始めています。今年5月の欧州議会選でオランダの極右政党である自由党(PVV)が議席を失いました。また、イタリアでは極右政党の「同盟」と新興勢力の「五つ星運動」の両ポピュリスト政党が対立し、両党を主体とした連立政権は崩壊。オーストリアでは極右の自由党が自党のスキャンダルが原因で9月末の総選挙で勢力を大きく縮小させています。


ヨーロッパは現在、急進右派の台頭が続くか、それとも中道に回帰するかの分かれ目と言えるかもしれません。その意味で、11月10日にスペインで行われる総選挙が注目されます。スペインでは中道の政権が続いていましたが、やはり経済危機をきっかけに右派が徐々に力を付けています。カタルーニャ問題に加えて極右政党VOXが大躍進し、同国の政治は組閣できず混乱状態にあります。


ドイツのAfDやポーランドの愛国主義政党「法と正義」などの影響を受け、スペインでVOXがさらに勢力を拡大すれば、域内経済の回復は遅れるとみた方がいいでしょう。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《SK》

関連記事