5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (19)

2019年10月29日 17:18

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 今回は「自主プレゼン」について話します。博報堂時代の私は、ルーティンワークとは別に自主提案物を常時準備していました。「今、アレがあんなことになっちゃっているけど、本当はこんなコトやっちゃったほうがイイんじゃないの?」とか、常に考えていて、表層的常識を壊すことで何か課題解決できないものか、といつも探っていたのです。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (18)

 何か閃けば、すぐにラフを営業局員や新聞局員にプレゼンし、合意されれば、クライアントに即提案するということを繰り返していました。しかし、自主プレゼンなど簡単に決まるものではありません。

 そもそもクライアントにとっては「予算外」の提案です。容易く宣伝部から承認が得られるはずがありません。それが実効的なアイデアであってもタイミングが悪ければアウト。今思えば、営業からもクライアントからも頼まれていない自主プレゼンなど「勝手に得意先の課題創出をして、仕事をした気になっている押し付けプレゼン」でしかなかったのかもしれません。

 しかし、そんなこと1ミリも感じていなかった私はさまざまな企業に自主プレゼンしていました。常に何かを提案していないと気が済まなかったのでしょう。こう書いていて初めて、傲慢さと視座の低さに気づかされるものです。

 ただ一つ言えるのは、無戦略に自主プレゼンを繰り返していたわけではないということです。

■(21)自主プレゼンは「再利用」できるか、「自走」できるかが前提

 「ひきこもり脱出ドアプレート ~心の扉をひらく、12枚の切り札~」というカードブック製品があります。博報堂時代、K原デザイナーとの新聞広告の打ち合わせの中で発明されたもので、ひきこもりや不登校で断絶した親子関係を復活させるコミュニケーションツールです。

 元々は新聞広告30段の平面企画。新聞局と営業局のサポートを受けて某企業の社会貢献室にプレゼンしたのですが、こういったCSR系企画には企業もなかなか予算を割くことが難しいものです。結果、協賛5社、つまり5社のスポンサーが集まるのならば新聞広告を打ちましょう、という流れになりました。

 このような展開になった場合は、ほぼ企画は流れます。「ひきこもり」というセンシティブなテーマで、残り4社の合意形成を図っていくハードルの高い作業になるからです。困難を極めることは容易に予想できました。ならば、潔く新聞広告をあきらめ、企画をカスタマイズし、より実効的で「自走できる制作物」へと変容させればNPO団体へのアプローチもしやすいはずだと方針を変えました。

 K原くんの設計力とクラフト力から生まれた「ひきこもり脱出ドアプレート」は、まさに筆舌に尽くし難いものでした。ただの平面企画だったものが蛇腹というアイデアによって、非常にユーザビリティーの高いコミュニケーションツールへと生まれ変わったのです。私はすぐに都内のNPO団体へ無料配布に走りました。

 繰り返しになりますが、「自主プレゼン」で留意する点は2つ。

(1)クライアントの業種を特定しない企画で「再利用性と汎用性を持った社会課題解決型の制作物」であること。

(2)クライアント(スポンサー)がつかなくても別ルートで「自走できる制作物」であること。

 ハンパない思考量から生まれるアイデアを一度や二度のボツぐらいで殺してしまうのはもったいない。その次の打ち手を持って挑めば、必ず生き返らせることができるはずです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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