5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (13)

2019年7月29日 11:18

小

中

大

印刷

 AIDMA時代の話です。K松くんという“博報堂の知恵袋”みたいな事情通アートディレクターがいました。彼は基本的に人をホメないのですが、私は1度だけホメられた経験があります。今日はその仕事の話をしましょう。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (12)

 さて、私たち2人はバーボンウイスキー「Four Roses(以下、フォアローゼズ)」を担当していました。私が「薔薇色の夜を。」というブランドスローガンを考案し、K松くんがキービジュアルとなる超絶緻密な「薔薇型ロックアイス」を開発しました。

 その薔薇氷を入れたロックグラスに商品をワンショット注いで撮影したポスターは、なかなかボールドな大人のグラフィックに仕上がりました。

 その翌年の夏は、ハイボールが大ブームで、私たちはフォアローゼズのハイボール・プロモーションのポスター制作を受注しました。飲み方推奨というやつです。ビジュアルは、ハイボールグラスの中にサイズダウンした薔薇氷を複数個浮かべるデザインに決定。残るは、コピー開発だけでした。

■(15)要件が多い時は、1つのパッケージに置き換えてから考え始める


 炭酸割りだからといってハジけすぎたコピーでは、提供価値を示すタグライン「薔薇色の夜を。」の世界観を壊し、乖離するだけです。といって、嗜好品で書きがちな「描写コピー」では、この商品に向かって人を動かすには力不足でした。

 「描写コピー」はエピソードコピーともいわれ、この場合、ウイスキーにまつわるイイ話をコピー化する手法。イイ話を書こう書こうと意識する余り、戦略性が後退し、ポエムのような鑑賞物に陥る危険があります。やはり、どのような場合でも、解決するコピー、提案するコピーで撃ち返すべきでしょう。

 媒体は、都内主要駅構内に多数掲出される交通ポスター。時機は夏。コピーストラテジーは、「ハイボールシズルがありつつも、ブランドを毀損せず、先を急ぐ歩行者をがっちり掴むグリップ力のある、且つフォアローゼズのほんのりした甘味を想起させ、そのコピーでバーテンにオーダーしてしまう効果がある」と設定しました。

 この要件を短いコピーで、どう凝縮表現するか。そこで私は、想像上でこれらの情報を1つの缶に閉じこめてみました。そう、架空の商品「フォアローゼズ ハイボール缶」を思い浮かべ、その「商品名」を作るつもりでコピーを書いてみたのです。

 完成したコピーをK松くんに渡し、ラフカンプに組んでもらってプレゼンへ。1案勝負でした。カンプを見た得意先担当者は、微笑みながら即決してくれたことを覚えています。そのコピーは、

「シュワ~ローゼズ。」

 元々の商品名「フォアローゼズ」に本歌取りを用いて、コピーの重層化を狙いました。一見、ただのダジャレコピーですが、既述の要件がすべて組み込まれています。実際、ファミリーブランドとして発売してもおかしくないネーミングではないでしょうか。

 AISASがさらに進化した現在、このコピーはワークしないかもしれません。しかし、当時は、たったポスター1枚でも顧客行動の創出を狙って書いていたのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。
http://www.copykoba.tokyo/

記事の先頭に戻る

関連キーワード博報堂