5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (9)

2019年6月22日 09:44

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 前回に続いて、私が駆け出しのコピーライターだった頃の話から始めます。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (8)

 90年代後半、某携帯電話キャリアを担当していた私は、D社の牙城を崩すため、地道な自主プレを繰り返していました。

 当然、経験の浅い私1人で戦えるわけもなく、ある大御所アートディレクターの門戸を叩くことになります。

 打ち合わせとプレゼン作業は、毎晩7時以降。場所は六本木。大御所のオフィスです。まず、書いてきたコピーを大御所に見せることから始まります。その後は……沈黙、書き直す、見せる、沈黙、大御所のディレクション。といったペースで進んでいきました。

 ある晩のこと。なかなかコピーが見つけられず、テーブルでウトウトし始めたその時!!大御所の一言が私に突き刺さります。

 「コバヤシくん。キミね……こんなもんでいいでしょ!という気分で書かないでほしいんだよね。僕はね、糸井みたいなコピーが欲しいんだよ!」

 と大御所は、「コピー年鑑1977年」のあるページを見せてくれました。そこには、私の知らないコピーが載っていました。


キミと、はじめて「あんなこと」になった頃。
まだ、このジーンズも、恥ずかしいほど、
青かった。
暗がりで、ゴワゴワ、音なんかしちゃってサ。

 クライアントはWELDGINジーンズ。アートディレクターは湯村輝彦さん。若い男女2人がニュータウンっぽい丘の上・高台の地に腰かけて、街を眺めています。ゆっくりとタバコをふかすジーンズ姿の若い男と、その少し離れた所に座る若い女。過去を回想しながらも未来を見据えている、ジーンズとしては珍しい広告です。

■(11)セオリーに支配されない提案が、実は最も強い。

 この広告は、戦略として、学生より上のニューファミリー層を動かそうとしています。シーンも国内のニュータウン。そして、若い頃なら1度ぐらいは思い当たる節がある「青い体験」を、ちゃんとジーンズ愛も絡ませながら本能的に描破しています。人間的青さを自分事として素直に受け取れる、稀有な大共感コピーとなっているのです。

 糸井さんのコピーは、自分に制限を一切かけていません(想像)。だから、強い。「その商品でしか言えないことを言おう!」という、コピーのセオリーも突き抜けてしまう真理で書いています。いい話ではなく、ホントの話を書くことがコピーの基本。都合で書かないから、人の気持ちに触るわけです。これは、コピーに限らず、どんな提案でも同じではないでしょうか。

 大御所は、未熟な私に対し、最高レベルのコピーを教示してくれました。私はこの後、東京コピーライターズクラブ新人賞を狙っていくことになります。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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