京大、ウシの体細胞から全能性を持つiPS細胞株を作製

2015年8月25日 21:33

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プライムドiPS細胞(左)とナイーブiPS細胞(右)(京都大学の発表資料より)

プライムドiPS細胞(左)とナイーブiPS細胞(右)(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 京都大学の今井裕教授と川口高正博士課程3回生らの研究グループは、ウシの生殖系列の細胞を含むすべての組織・ 器官に分化するiPS細胞株の作製に成功した。

 これまで、マウス以外の動物種でiPS細胞の樹立が試みられてきたが、樹立が報告されてきた家畜のES細胞と同様に扁平な形態を示し(プライムド型)、マウスのES細胞やiPS細胞のようなドーム状の立体的な形態(ナイーブ型)とは異なっていた。

 今回の研究では、ウシ妊娠胎仔から得られた羊膜細胞に、マウス由来のOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の多能性関連転写遺伝子を導入し、4日目に、SNLフィーダー細胞上に遺伝子導入羊膜細胞を播種し、ヒトプライムドiPS細胞用の培養液内で培養した。しかし、ウシ初期胚とのキメラ形成能は見られまなかったため、細胞分化を抑制するためにGSK3β阻害剤とMEK阻害剤に加えて培養すると、多能性細胞の形態はプライムド型からナイーブ型に変化した。

 さらに、ナイーブ型iPS細胞を導入したキメラ胚を雌牛に移植し、妊娠90日目に胎仔を回収したところ、脳、皮膚、肺、胃、小腸、大腸、脾臓、心臓、腎臓、筋肉、生殖原基、羊膜、胎盤は、いずれの臓器にもiPS細胞の寄与が認められた。

 研究メンバーは、「さまざまな細胞に分化することのできる多能性幹細胞の遺伝情報を次の世代に伝えることのできる幹細胞株は、これまでマウスでしか樹立されていません。マウス以外の哺乳動物種、特に経済的な価値をもつ家畜において、個体を構成するすべての組織に分化するウシ幹細胞が得られたことは、今後、家畜改良、有用遺伝資源および希少種・絶滅危惧種の保全、医学領域へのトランスレーショナルリサーチなどに、この幹細胞株を応用する道が開かれたと考えています」とコメントしている。

 なお、この内容は「PLOS ONE」に掲載された。論文タイトルは、「Generation of Naive Bovine Induced Pluripotent Stem Cells Using PiggyBac Transposition of Doxycycline-Inducible Transcription Factors」。

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