バタ足が生み出す上下方向の渦が推進力と姿勢の安定をもたらす

プレスリリース発表元企業:学校法人明治大学

配信日時: 2026-05-12 14:00:00



クロール泳においてバタ足が生み出す水の流れを可視化し、バタ足がどのように水中を進む力を生み、姿勢を安定させているのかを分析しました。その結果、左右の足が作る上下方向の渦が、前進を助けるだけでなく、体のぐらつきを抑えていることも確認され、バタ足の役割が科学的に示されました。
水の中を速く泳ぐためには、手だけでなく足の動きも大きな役割を果たします。バタフライ泳で使われる「ドルフィンキック」については多くの研究が行われており、足の動きによって三次元的な渦が生じ、それが推進力につながることが知られています。しかしながら、クロール泳で使われる「バタ足」は、左右の足を交互に動かすために水の流れが複雑になることから、水中を進む力が生み出される仕組みはこれまでよく分かっていませんでした。そこで本研究では、バタ足とドルフィンキックで生じる水の流れを、モーションキャプチャシステムと粒子画像流速測定法を使って詳しく調べ、比較しました。
その結果、バタ足でもドルフィンキックと同じように、足の動きによって三次元の渦が生じ、水中を前進する力を生み出していることが分かりました。一方、ドルフィンキックとは異なり、左右の足が交互に動いて上下方向の流れが同時に発生するものの、全体としては「鉛直下向きの流れ」が強く、これが体を持ち上げていることも明らかになりました。さらに、バタ足では左右非対称の渦ができるため、体が左右に回転しようとする力が発生し、泳いでいるときの姿勢を安定させる役割も果たしていることが分かりました。
本研究結果は、バタ足の推進メカニズムを水の流れの実測によって初めて科学的に示したもので、クロール泳の技術向上や指導法の改善につながると期待されます。

 研究代表者 
筑波大学体育系
中園 優作 特任助教(奨励)
新潟医療福祉大学健康科学部健康スポーツ学科
下門 洋文 准教授
明治大学理工学部機械工学科
榊原 潤 教授
 研究の背景 
水の中で体を動かすと、まわりの水が押されたり流れたりして、その反作用で体が前に進みます。これは魚やイルカなどの生き物にも共通する流体力学の原理で、人間の泳ぎも同じ仕組みで成り立っています。そのため、水泳の研究では、手足の動きがどのように水の流れを作り、推進力を生み出しているのかを調べることが重要です。水中での推進技術としてよく使われるのが、バタフライ泳の「ドルフィンキック」とクロール泳の「バタ足(フラッターキック)」です。どちらも脚を上下に動かす点は共通していますが、ドルフィンキックは両脚をそろえて同時に動かすのに対し、バタ足は左右の脚を交互に動かすという大きな違いがあります。この違いにより、ドルフィンキックの方が速く泳げることや、より大きな推進力を生むことがこれまでの研究で示されています。また、ドルフィンキックについては、足の周りに三次元的な渦ができ、それが前に進む力をもたらすことが詳しく調べられています(Shimojo et al., J. Biomechanics., 2019)。しかしながらバタ足は、左右の脚が逆方向に動くため流れが複雑に重なり合うことから、渦の構造や推進への貢献度、姿勢の安定への関わりは、まだ十分に分かっていませんでした。特に、クロール泳におけるバタ足の役割については、科学的な裏付けが不足していました。そこで本研究では、バタ足が作り出す水の流れを三次元的に捉え、ドルフィンキックと比較することで、バタ足の推進メカニズムと姿勢制御に対する役割を明らかにすることを目的としました。
 研究内容と成果 
本研究では、スイマーの脚の動きとその周囲で生じる水の流れを同時に捉えるために、回流水槽において、脚の動きを三次元的に記録する光学式モーションキャプチャシステム注1)と、水中に散布した微細な粒子の動きをレーザー光で可視化して水流の速度を測定する粒子画像流速測定法(PIV法:Particle Image Velocimetry)注2)を組み合わせて使用しました。これにより、スイマーのキック動作と、それによって生じる複雑な水の流れを同時に解析することができます。なお、本研究では、スイマーの位置を少しずつ変えながら計測し、足の周囲に形成される渦構造を疑似的に三次元で再構築しました(疑似的な三次元流れ場の構築法)。
その結果、バタ足でもドルフィンキックと同様に、足の動きによって三次元の渦が生成され、前方への推進に寄与していることが明らかになりました。一方、ドルフィンキックとは異なり、バタ足では左右の脚が交互に動くため、足の周囲に上下方向の流れが同時に生じますが、全体としては「鉛直下向きの流れ」が強く、これが体を持ち上げる力として働くことが分かりました。さらに、バタ足の大きな特徴として、左右非対称の渦が形成されることも確認されました(図1)。これにより、体が横に傾こうとする力(ローリング)や、体の向きが左右に振られる力(ヨーイング)が生じ(図2)、腕のストロークによって生じる身体のぶれを打ち消し、姿勢を安定させます。つまり、バタ足は推進力を生み出すだけでなく、泳いでいる間の姿勢を支える重要な働きも担っていることが示されました。
 今後の展開 
本研究結果は、バタ足の推進メカニズムを、水の流れを実測することにより初めて科学的に示したもので、クロール泳の技術向上や指導法の改善につながると期待されます。ただし、今回の結果は秒速1.0 mの水流条件での知見であり、より高速で推進している際の渦構造の解明は今後の課題です。
本研究で用いた「疑似的な三次元流れ場の構築法」は、バタ足やドルフィンキックに限らず、ストローク動作、水球やアーティスティックスイミングで用いられる巻き足など、より複雑な水中動作にも応用できます。これら水中での多様な動作がどのように推進力や姿勢制御に寄与しているのかについても明らかにしていくとともに、回流水槽だけでなく静水プールでの計測も進め、実際の競技現場での指導に役立つ科学的根拠の提供を目指します。

 参考図 
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/375/119558-375-15659971b1d6d43324f1d6c26fac020a-759x702.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1 本研究の概要


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/119558/375/119558-375-d2c324f324bd1dec6d40bdeae5740173-591x510.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2 ローリングとヨーイングにおける体への力のかかり方


 用語解説 
注1) 光学式モーションキャプチャシステム(Optical Motion Capture)
複数のカメラを使って、体に取り付けたマーカーの位置を三次元的に記録する技術。スイマーの脚や腰などの動きを、ミリ単位の精度で立体的に再現できる。スポーツ科学やアニメーション制作、医療リハビリなど幅広い分野で利用されている。
注2) 粒子画像流速測定法(PIV法:Particle Image Velocimetry)
水中に微細な粒子(マイクロバブルなど)を流し、レーザー光で照らして撮影することで、目に見えない水の流れの速さや向きを可視化する技術。生物の泳ぎのメカニズムや飛行機の翼まわりの空気の流れの解析など、流体研究の基本手法として広く使われている。

 研究資金 
本研究は、科研費による研究プロジェクト(24K14474)の一環として実施されました。
 掲載論文 
【題 名】
Flow-Field Analysis of the Underwater Flutter Kick Using Particle Image Velocimetry: Comparison with the Dolphin Kick
(粒子画像流速測定法(PIV)を用いた水中フラッターキック中の流れ場解析:ドルフィンキックとの比較)
【著者名】
Nakazono, Y., Shimojo, H., Sakakibara, J., Yamakawa, K.K., Sengoku, Y., Takagi, H., & Tsunokawa, T.
【掲載誌】 Physics of Fluids
【掲載日】 2026年5月4日
【DOI】 10.1063/5.0326069

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