海洋酸性化 「カキ」に影響及ぼす値を国内沿岸域で初観測 実際の影響と今後の予測も発表
配信日時: 2022-03-17 16:00:05
日本財団(東京都港区、会長 笹川 陽平)とNPO法人里海づくり研究会議(岡山県岡山市、理事長 松田 治)は3月17日、海水の酸性度が進行する「海洋酸性化」について、日本沿岸域での実態や漁業に及ぼす影響把握を目的として2020年4月に開始した「日本財団 海洋酸性化適応プロジェクト」の記者発表会を開催しました。国内水産業において重要な養殖対象種の一つであるカキ養殖に焦点をあて、国内3地点(宮城・岡山・広島)で約1年半にわたって実施してきた定点観測データの分析結果や実際の影響、温暖化シナリオに応じた酸性化影響の将来予測などを発表しました。発表内容の要点と、関係者のコメントは以下のとおりです。
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<発表内容の要点>
■調査について
・国内水産業において重要な養殖対象種の一つであるカキ養殖に焦点をあて、国内3地点(宮城県・岡山県・広島県)の河口部や沖合、藻場、養殖場の付近など環境が異なる複数箇所において定点観測を実施しました。
・日本の沿岸域の中でも「養殖海域」において海洋酸性化の調査がなされたのは国内初です。
※調査期間
宮城県、岡山県:2020年8月~(継続中)
広島県:2021年6月~(継続中)
■結果について
・観測データを分析した結果、マガキに影響を及ぼす可能性のあるレベルの数値が、カキの養殖海域において複数回、初めて観測されました。
・一方で、カキ浮遊幼生の異常形態やへい死などの直接的な被害は確認されず、現時点では漁業に被害を及ぼすまでには達していないと判断されました。
■その他総評について
・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温暖化シナリオに基づいて将来予測をしたところ、人為起源のCO2排出量の大幅削減に取り組まなければ、今世紀末までに海洋酸性化がマガキ養殖に深刻な影響を及ぼす可能性があることが示唆されました。
・マガキ養殖をはじめとする漁業に対するこれらの深刻な影響を回避するため、また、海水温上昇、海水の貧酸素化、貧栄養化など、他の海洋問題が相互作用する複合的な影響も懸念されることから、気候変動の緩和策と適応策を両輪で進める必要があります。
<関係者コメント(一部抜粋)>
日本財団 会長 笹川陽平
「『カキの殻が最近薄くなっている』といった漁業者の声を受け、日本財団では、エビデンスやデータの収集が必要と考え、海洋酸性化の実態把握を目的としたモニタリングを開始した。「備えあれば憂いなし」である。手遅れになる前に、漁業関係者や研究者と連携しながら、対策を検討していきたい。」
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NPO法人里海づくり研究会議 理事長 松田治
「海洋酸性化の適応策を構築していくにあたり、産官学民といった幅広い業種や性質を持った人たちとの連携と協力が不可欠です。日本中に海洋酸性化の問題が広がる可能性があるため、モニタリング地点を増やし、引き続き観測していきたい。」
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■背景(海洋酸性化とプロジェクトについて)
・海洋酸性化は、二酸化炭素が海水に溶け込むなどして、水質が酸性化する現象(海水中のpHは一般的に弱アルカリ性ですが、pHの値が下がって酸性度が進行すること)です。特にカキやホタテなどの貝類、エビ・カニ類、ウニといった炭酸カルシウムで殻をつくる海洋生物の成長を阻害する(生物が殻を作りにくくなる)ことが危惧され、進行すれば漁業に甚大な被害をもたらす可能性があります。現在、人為起源による大気中の二酸化炭素が世界的に増加していることから、海洋酸性化の更なる進行が懸念されています。
・海洋酸性化による実際の被害例として、2005年から2009年にかけて、アメリカ西部・ワシントン州とオレゴン州の養殖施設で、カキの幼生が大量死することがありました。これは深海から海水が上昇する海域に養殖施設があり、海底でプランクトンの死骸が分解される際に発生する二酸化炭素が湧昇し、海の表層近くが酸性化したためといわれています。
・海洋酸性化について日本沿岸での実態把握や、対策・適応策の検討が不十分であったことをうけて、漁業関係者や国内外の大学・研究機関などの協力を得ながら「日本財団 海洋酸性化適応プロジェクト」を2020年4月に開始しました。
■日本財団について
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痛みも、希望も、未来も、共に。
日本財団は、1962年の創立以来、国境や分野を超えて子ども・障害・災害・海洋・国際協力などの公益事業をサポートする、日本最大規模の財団です。
https://www.nippon-foundation.or.jp/
■NPO法人里海づくり研究会議について
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真に豊かな海を取り戻すために活動を続けてきた研究者・技術者ら同志が集い、2012年1月12日に設立登記された研究組織です。
漁業現場や関連業界、行政上の現実的な課題・問題の解決のため、個々のテーマに応じて様々な分野の研究者・技術者を参集し、海に関わる現場と学会を結びつけ、学際的かつ業際的、実務的・実践的な調査研究により、沿岸環境と人間社会が共存する「里海づくり」を目指しています。
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