生態・進化研究に脊椎動物偏重、昆虫が特に少ない―138万本超の論文分析で示す

(Max Mishin/pexels.com)[写真拡大]
生態学・進化生物学で、どの動物が研究対象に選ばれ、発表後に注目されるのか。ニューサウスウェールズ大学のPietro Pollo氏とMichael Kasumovic氏は、138万3803本の論文を分析したプレプリントを2026年に公開した。脊椎動物を扱う研究は、動物の種数に占める割合に比べて多く、同じ学術誌に載った無脊椎動物の論文より引用やオンラインでの言及も多かった。
■138万本超から見えた研究対象の偏り
分析対象は生態学・進化生物学の612誌に掲載された論文で、動物を扱う論文の記録は1877年までさかのぼる。動物に言及した99万1894本のうち、脊椎動物だけを扱ったものは44万7800本(45.1%)、無脊椎動物だけを扱ったものは45万7064本(46.1%)だった。
論文数は近いが、著者らが用いた種数の資料では、脊椎動物は動物の種の4.3%を占める。種数との対比では昆虫の研究が特に少なく、哺乳類と魚類の研究が多い。著者らはこうした研究対象の偏りを「分類群バイアス」として調べた。
分析対象の612誌のうち235誌(約38%)は、掲載する研究の対象を特定の分類群に限定していた。そのうち99誌(42.1%)は節足動物を対象としている。昆虫とクモ類だけを扱う論文は、それぞれ半数近くが分類群を限定した専門誌に掲載されていた。
■論文をどう分類したのか
従来の研究には、論文を人手で分類するため、調査する雑誌や論文数が限られるものがあった。Pollo氏らは題名、要旨、キーワードに現れる分類群の名称を使い、論文の対象動物を判定する手法を構築した。GBIFの分類体系も参照し、4934本を手作業で確認して判定語を調整した。
別の1815本で判定結果を照合すると、各動物群で正解率は少なくとも97.2%、適合率と再現率を総合するF1スコアは少なくとも91.2%だった。この手法で年代や専門分野をまたぐ文献を集計し、掲載数と論文への注目度を比較した。
■同じ雑誌の論文でも注目度に差
著者らの分析では、脊椎動物の論文は無脊椎動物の論文より、平均で引用数が10.6%、オンラインでの言及数が44.3%、文献管理サービスMendeleyの読者数が24.2%多かった。ニュースやブログなどでの言及を反映するAltmetricスコアも46.5%高かった。
比較には同じ学術誌に掲載された論文を用い、掲載年も分析に組み込んだ。鳥類と哺乳類の論文は多くの分野でオンラインの注目を集めた一方、その傾向は引用数に必ずしも重ならなかった。これらは論文の対象動物と注目度の関連を示す結果であり、研究テーマなどの違いも結果に関わり得る。
学術誌の評価指標が高いほど脊椎動物の論文が多い傾向も全体では見られた。ただし分野別には例外があり、一般的な生態学・進化生物学誌では、その関係が見られないか、逆方向になる指標もあった。
■25年間の変化と先行研究
2001~2025年の文献全体では、脊椎動物論文の割合はおおむね横ばいだった。分野別には違いがあり、水域、動物行動、一般的な生態学・進化生物学の雑誌では脊椎動物の比重が増し、動物学誌では無脊椎動物の比重が増した。
水域の雑誌で魚類を扱う論文の割合は、2001年の35.8%から2025年の49.7%になった。同じ期間に、動物学誌で昆虫を扱う論文の割合は21.5%から41.3%に増えた。動物行動、保全、一般的な生態学・進化生物学の雑誌では、鳥類と哺乳類が主要な研究対象だった。
分類群による偏りへの懸念は以前からある。Xavier Bonnet氏らは2002年、1000本を超える論文を調べ、鳥類・哺乳類と比べて、爬虫類などの変温性脊椎動物の研究には概念的な意義をより広く示す傾向があると報告した。2017年にはMalcolm Rosenthal氏らが学術誌「Animal Behaviour」の論文を分析し、2000~2015年の甲虫研究は77本、霊長類研究は370本だったと報告している。
■研究対象を選ぶ理由
Pollo氏らは別のプレプリントで、動物行動などを研究する868人への調査結果も示した。飼育や観察のしやすさ、社会的な重要性といった実務上の理由は、脊椎動物や無脊椎動物という大きな区分をまたぐ選択よりも、区分内での対象選択と関連していた。
一方、初期の研究経験や周囲の研究者が扱う動物も、対象選択と関連していた。特定の動物群への好みは、文献に見られる分類群ごとの偏りに近い傾向を示した。調査は研究者の選択に関わる要因を探るもので、著者らは教育段階で多様な動物に接する機会を設けることなどを提案している。
■生物多様性を理解するために
研究対象の偏りは、動物全体に当てはまる説明を考える際にも関わる。対象とする分類群を広げれば、個体群や動物の行動について得られた知見を、異なる生物でも確かめる機会が増える。無脊椎動物は生態系でも重要な役割を担っている。
生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)によると、世界の食用作物の種類の約75%は、少なくとも一部で動物による送粉に依存する。送粉に直接関わる農業生産の年間市場価値は、2015年の米ドルで2350億~5770億ドルと推計された。1ドル=158円で換算すると約37.1兆~91.2兆円だ。
昆虫の変化を捉えるには、地域や分類群を明確にした継続的な調査が欠かせない。2017年に発表されたドイツ西部の保護区63カ所の研究では、1989~2016年の27年間に、飛翔する昆虫の季節全体の生物量が推計76%減少したと報告された。
■著者らが提案する対応
Pollo氏らは、学術誌や助成機関が投稿論文や研究課題の対象分類群を記録し、公表することを提案する。さらに、助成、採用、受賞、掲載を判断する基準に分類群の多様性を取り入れ、研究の少ない動物群を扱う研究者への資金面・出版面の支援を求めている。
著者らは、種の発見や記載につながる分類学、自然史研究を支えることも挙げた。研究対象と成果の広がりを継続的に確かめることが、動物の多様性を生態学・進化生物学の知見に反映させる一歩となる。
元記事: Ecology Journals Favor Vertebrates Despite 24 Years of Warnings, 1.38M-Paper Audit Finds
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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