戻り鈍いイスラエル通貨【フィスコ・コラム】

2023年4月9日 09:00

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記事提供元:フィスコ

*09:00JST 戻り鈍いイスラエル通貨【フィスコ・コラム】
金融不安を背景としたドル買いは根強く、イスラエル通貨シェケルの戻りは限定的です。首相に返り咲いたネタニヤフ氏の権限強化による国内の混乱がシェケル買いを抑制していることもその要因です。中東の新しい調停役になりつつある中国との関係が注目されます。


1カ月前に米シリコンバレー銀行(SVB)の破たんをきっかけとした金融不安が強まると、リスクオフのドル買いに振れ、新興国通貨はおおむね対ドルで売り込まれました。米連邦準備制度理事会(FRB)の流動性供給を中心とした支援策により銀行危機への過度な懸念は和らいだものの、新興国通貨はまだ買いづらい状況です。シェケルもコロナ後の最安値圏となる1ドル=3.62シェケル付近でもみ合っています。


イスラエルの場合、コロナ禍やウクライナ戦争による経済へのダメージは弱まりつつあり、昨年10-12月期の国内総生産(GDP)は6%近い伸びを記録。今年1-3月期にはそれを上回るか注目されます。一方、消費者物価指数(CPI)はピークアウトし、中央銀行は4月3日の定例会合で利上げ幅を0.25%に縮小しました。ただ、回復基調は鮮明でありながら、株安・金利安・通貨安と市場の反応はネガティブです。


その理由として考えられるのは、ネタニヤフ政権の司法制度改革に対する国内の混乱です。最高裁の判断を国会が覆せる内容で、ネタニヤフ氏自身への有罪判決をかわす狙いが指摘され、三権分立が脅かされるとの批判から抗議活動がエスカレート。ここ数年の議会選で政党間の調整が難航し、昨年12月の発足に際しネタニヤフ政権が連立を組む極右政党の方針を取り入れたことが問題視されています。


ネタニヤフ政権は外交政策でも決定的なミスを犯しました。アラブ諸国との関係改善に向けサウジアラビアと外交の正常化を目指していたものの、サウジはイスラエルと敵対関係にあるイランとの国交を回復させたのです。サウジとイランは2016年に国交を断絶しましたが、中国の仲介により正常化を実現。こうしてイスラエルが蚊帳の外に放り出されたことも、政権への反発を助長しているようです。


ネタニヤフ氏は改革を延期すると発表したものの、前週末には抗議デモに16万人超が参加するなど反政府活動は拡大中です。再び解散・総選挙なら次の政権を発足させるのに再度混迷が予想されます。こうした状況を受け、格付け会社は格下げを警告しました。アメリカに代わって中東の新たな調停役となった中国とイスラエルがどのように関係を構築するかが当面の焦点になりそうです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《YN》

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