気だるさ漂う欧州通貨【フィスコ・コラム】

2021年11月14日 09:00

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記事提供元:フィスコ


*09:00JST 気だるさ漂う欧州通貨【フィスコ・コラム】
ユーロとポンドに気だるさが漂い始めました。英中央銀行が政策金利の引き上げを見送ったことで、期待していた投資家によるポンドへの失望売りが継続。ユーロも米連邦準備理事会(FRB)の金融政策に翻ろうされ、足元は下値を模索する状況です。


英中銀は11月3-4日開催の金融政策委員会(MPC)で、現行の緩和的な政策を据え置く方針を決めました。市場の一部は利上げを織り込んでいたため、ポンドは失望売りにさらされます。対円ではこの日だけで156円付近から3円近くも値を切り下げるなど、全面安の展開に。原油高に弱い日本経済の不透明感による円売りはそれ以来影を潜め、円は再び安全通貨として見直されています。


ポンド買いが強まり始めたのは、9月下旬以降のことです。ベイリー総裁がインタビューなどでインフレ対応について、資産購入プログラムの完了を待つ必要はないと述べたことで一気に利上げ観測が浮上。10月に入ってもユーロやドル、円など主要通貨に対して値を上げます。経済指標は強弱まちまちでしたが、インフレ指数やPMI(購買担当者景気指数)で堅調さが示されると引き締め期待のポンド買いに振れました。


スナク英財務相は今年の英成長率について、従来の+4.0%から+6.5%に上方修正し、1973年以来最大との見方を示しています。しかし、英中銀のタカ派姿勢には懐疑的な見方もありました。新型コロナウイルスの新規感染者が再び増加し始め、7月以来の高水準となっているほか、EU(欧州連合)離脱に伴い低賃金の単純作業を担う労働者が減少したことなどによる物流サービスの低下も懸念されているためです。


一方、ユーロは5月以降の下落基調に歯止めがかかりません。ユーロ圏のコロナ禍からの回復は遅れ、欧州中銀(ECB)の金融政策をなかなか正常化できない状況が続いています。その間、FRBが引き締めに舵を切ったためECBの慎重姿勢が際立ち、ユーロ売り・ドル買いが定着しているようにみえます。ユーロが買われるのは、FRBがもたつく時ぐらいです。


直近では、ECBが10月28日に開催した理事会で、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)について2022年3月末まで継続する方針を確認。ラガルド総裁は今月に入りその後の利上げについて来年の実施は困難との見方を示しています。一方、FRBは11月2-3日の連邦公開市場委員会(FOMC)で資産買い入れの段階的縮小(テーパリング)開始を決定。利上げに関し当局者は慎重ながら、インフレ高進が後押ししています。


ユーロ・ドルは節目とみられていた1.15ドルをあっさり下抜け、2020年7月以来の安値圏で下値を模索。ドイツ連銀が10月末に公表した月報は、今年10-12月期の成長率について急激な減速を予測しています。現時点でユーロ圏の落ち込みが目立たないのはフランスなどの成長が全体を押し上げたためと考えられます。ただ、コロナ禍が再び深刻化すれば、ユーロの下落トレンドを一変させるのは困難でしょう。


買いづらい通貨ペアであるユーロ・ポンドは節目とみられる0.85ポンドを挟んでもみ合っており、方向感が鮮明になるタイミングも見当がつきません。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《YN》

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