安全資産としての金(ゴールド)とその価格動向 後編

2020年8月3日 19:30

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 それでは、なぜ米ドルと金が完全な逆相関にならないかといえば、もちろん、金の価値がそれ以外の様々な外部要因に影響されるためである。例えば、地政学的リスクや各国の物価動向などが挙げられるだろう。

【前回は】安全資産としての金(ゴールド)とその価格動向 前編

 地政学とは、地理学と政治学を合成したものであるが、そんな地政学におけるリスク要因が、特定地域の経済だけではなく、世界経済全体の先行きを不透明にすることを地政学的リスクと呼んでいる。具体的にはテロや戦争などの軍事的リスクや政治的リスクを指し、世界の株価にも影響を与えるものだ。

 例えば、2014年にロシアとウクライナの間で起きたクリミア危機の時期の金相場を振り返ってみると、問題がくすぶり始めた2014年2月初旬の1トロイオンス1,244ドルから、終息する3月中旬高値1トロイオンス1,392ドルまで、たったの1カ月でおよそ10.6%の上昇率となっていることがわかる。つまり、金が地政学的リスクに対するリスクオフの意味合いで購入されたことになる。

 また、各国の物価動向(インフレーションやデフレーション)による影響であるが、物価の上昇が続くインフレになるとモノの値段が上がり、同時に金も値上がりする傾向がある。つまり、金はインフレのヘッジ資産として有用とされてきたのだ。

 一方、デフレは景気の悪化や国家の信用不安につながり、株価の下落に連動することから、株価などのリスクオン資産のヘッジ資産として金の需要が高まることもある。つまり、物価動向と金との相関性はまちまちといえるものの、少なくとも物価動向が金の価格へ影響を及ぼすことは間違いないのだ。

 このように金の価値は、米ドルとの相関性や需要と供給量のバランス、そして様々な外部要因によって決められるものではあるが、コロナショックで株価が暴落した3月下旬の底値1トロイオンス1,451ドルを境に、7月下旬には約1トロイオンス2,000ドルまで値上がりし続けていることは特筆すべきことだ。

 これは、未だにコロナショックが内在し続けており、リスクオフ資産である金に、投資家の需要が続いていることを意味する。

 コロナショック後の株価回復を後目に、逆相関関係であるはずの金需要が変わらず高止まりしているという意味では、投資家は株価の上昇を決して楽観視しておらず、あくまでも各国の財政支援による下支えに起因するものであると一線を引いているとも考えられるのだ。コロナショックの動静と共に金の価格がどのように変化していくのか、今後も金の値動きには十分に注目されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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