朝鮮の不可解な強硬姿勢【フィスコ・コラム】

2020年6月21日 09:00

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記事提供元:フィスコ


*09:00JST 朝鮮の不可解な強硬姿勢【フィスコ・コラム】
北朝鮮での新型コロナウイルス感染者は、公式にはゼロ。同国の国民以外は誰も信じませんが、コロナ禍で貿易が止まっているにもかかわらず経済が安定していることは確かなようです。不可解ながら、それが強硬姿勢のバックボーンとみられます。


「2年前と大きく変わり、激しく変わり続ける」。北朝鮮の外務省幹部は最近、史上初となった2018年6月の米朝首脳会談を振り返り、そう述べたと報じられました。また、非核化を「たわごと」としアメリカの脅威に対抗するための戦力増強を示唆。北朝鮮は韓国に対しても挑発的で強気な姿勢をみせています。


米朝会談により東アジア情勢が和平に向けて動き出すとの期待が高まった時期もありましたが、昨年2月の2回目の米朝会談は物別れに終わります。その後、トランプ米大統領が金正恩労働党委員長を南北朝鮮国境付近に電撃訪問するも効果はなし。両国は歩み寄るどころか関係が次第に冷え込み、協議の行き詰まりは明白です。


そこへ新型コロナの世界的なまん延。北朝鮮は1月末に中国国境の封鎖に踏み切ります。4月の対中貿易は前年比90%も縮小しました。為替レートは1ドル=8500北朝鮮ウォンから為替介入でいったん7500北朝鮮ウォンまで上昇後、再び減価し、6月に入ると8600北朝鮮ウォン付近と通貨安に見舞われています。


対中貿易の再開を前にドル需要が急激に高まったことが、自国通貨安を招いた可能性もあります。いずれにしても、米朝会談の目的は地域の非核化でしたが、北朝鮮にとっては経済の立て直しが背景にあるとみられていました。このコロナ禍で各国同様に生産も消費も停止し、成長は大きく落ち込んでいるはずです。


韓国メディアによると、北朝鮮は近く国債の発行を計画中。財政基盤を強化し外貨準備高を増やそうと、6割を金主(トンジュ)と呼ばれる新興富裕層に買取らせる方針とされます。格付け会社は、北朝鮮の2020年の国内総生産(GDP)について前年比-6.0%と、飢饉に襲われた1990年代以来の悪化を予測しています。


しかし、そのわりに周辺国や関係国に対決姿勢を強めているのはなぜでしょうか。5月末に北朝鮮国営銀行の元幹部を含む北朝鮮人や中国人など33人がアメリカから訴追されています。核開発をめぐる同国への制裁を回避するため、数カ国のダミー会社のネットワークを通じて25億ドル以上を資金洗浄していた疑いが持たれています。


また、北朝鮮はこれまで、1000人超のIT技術者を世界各国に派遣し、外貨を獲得してきた可能性もあります。ここ数年、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」が仮想通貨や取引所を標的にサイバー攻撃を仕掛けているとみられています。こうした不正な手段を使って外貨を稼ぎ、核開発の費用に充ててきたようです。


トランプ米政権による北朝鮮のドル利用禁止といった措置も考えられますが、あまりに巧妙な手口に当局も手を焼いているようです。そんななか、世界保健機関(WHO)は2月、北朝鮮に対し患者の治療や感染拡大の抑止のためコロナ支援金90万ドルを支給しています。少額ながら、「感染者ゼロ」の国への支給は不自然です。


香港統治をめぐる米中対立に乗じ、反トランプ勢力が中国を通じて北朝鮮の外貨獲得を後押ししている・・・とみるのはうがちすぎでしょうか。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)《YN》

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