富士ソフト Research Memo(7):将来的な生産性向上につながる「更なる一手」に注目したい(1)

2020年4月7日 15:27

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記事提供元:フィスコ


*15:27JST 富士ソフト Research Memo(7):将来的な生産性向上につながる「更なる一手」に注目したい(1)
■今後の見通し

1. 2020年12月期の業績会社計画は必達目標
2020年2月に公表された富士ソフト<9749>による2020年12月期の業績予想は、売上高が前期比3.0%増の238,000百万円、営業利益が同2.5%増の13,600百万円、経常利益が同0.7%増の13,850百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.1%増の8,000百万円である。2ケタ増収増益であった実績に比べ、物足りない業績予想と捉える向きもあるだろう。しかしながら、同社は2015年12月期以降、3%程度の増収見通しと前期実績並みの営業利益率を前提とした期初会社計画を掲げるパターンを継続している。今回についても、会社計画は必達目標と明言しており、ネガティブ視する必要は特段ないと考える。

配当予想は、2019年12月期の年間42円/株(第2四半期末に20円/株、期末に22円/株)から9円/株増配の年間51円/株(第2四半期末に創立50周年記念配当5円/株を含む28円/株、期末に23円/株)としている。実現すれば5年連続の増配となるわけだが、今回の配当方針を細かく見ると、記念配当を除いても2019年12月期まで過去5年において前期末配当の2倍を次期の通期配当予想としていた慣例を超えた増配予想と言えるだろう。

「安定的・継続的な配当の実現を利益還元の基本方針とし、戦略的な成長投資や急激な経済環境の変化、不慮の事業リスクへの対応などを総合的に勘案して実施する」を掲げる同社だが、2019年の期中増配発表に続く慣例を超えた増配予想からは、期末偏重型の増配を避けながら配当政策の自由度を高めようとする意思が感じ取れる。

なお、新型コロナウイルスの影響については、景気循環要素も加わってマクロ的に予断を許さない状況にあり、同社においても、需要サイドを見ると、中国を中心とするサプライチェーン問題が顧客のIT投資を短期的に抑制する可能性は否定できない。とはいえ、自動車関連におけるCASE領域への投資やFA関連におけるIoT対応、AI活用に絡んだ投資は顧客にとって生き残りを賭けた戦略的投資と言え、同社が注力する「AIS-CRM」領域での投資意欲は相対的に底堅い推移が期待できるだろう。加えて、供給サイドでは、リモートワーク等に積極的に取り組んできた同社の働き方改革が奏功し、現場での大きな混乱は回避可能と考えられる点はポジティブである。

2. 先行投資と働き方改革に注力することで、生産性は向上方向にある
同社は、新卒の大量採用を軸とする人材投資に注力する一方で、「ゆとりとやりがい」の実現に向けて、多様なライフスタイルに合わせた働き方改革・支援を真剣に実践している。

具体的には、1990年に導入したコアタイムなしのフレックスであるスーパーフレックス制度を一段と進化させた「ウルトラフレックス制度(スーパーフレックス制度+時間帯を固定することなく30分単位で有給休暇や10分単位のリフレッシュタイムが取得可能)」のもとで、遠隔地勤務の環境整備や全社員を対象とした在宅勤務制度の本格運用に取り組んでいる。こうした結果、2018年(集計期間は4月−3月)には、1)有給休暇取得率:72.9%(民間平均51.1%、政府目標は2020年に70%)、2)在宅勤務利用者:延べ5,930名、3)育児休業取得者:165名、4)月間残業80時間超過者:0名、を達成、2019年についても在宅勤務利用者が11ヶ月間で8,000名に迫るなど、一段と良好な実績を残している。こうした優れた実績が評価され、外部機関からも、次世代育成支援対策推進法に基づく「プラチナくるみん」認定(厚生労働省)、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定(厚生労働省)の最高位をはじめとして、テレワーク先駆者百選(総務省)、健康経営優良法人(経済産業省)、神奈川子ども・子育て支援推進事業者(神奈川県)といった認定を獲得している。

加えて、同社のピンチをチャンスに変えようとする経営姿勢を勘案すると、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて働き方改革を一段と推し進める公算が大きいと考える。労働集約型とされるITサービスでありながら、働き方改革による生産性向上を実現しつつある同社の更なる一手に注目したい。

働き方改革の推進は、既存社員の稼働時間短縮や新卒の大量採用が人的戦力の希薄化や先行コストの増加に直結するため、短期的には1人当たり営業利益(営業利益/期首期末平均従業員数)等の生産性指標にとっては抑制要因となるケースが多い。同社の場合、働き方改革の成果を出しながら新卒の大量採用を開始した2015年12月期以降、直後の2年間は1人当たり営業利益が減少しているものの、2017年12月期からは増加に転じている。

具体的には、単純計算による新卒含有率(単体+上場子会社新卒採用者数/前年末連結従業員数)が、2014年12月期1.5%→2015年12月期4.3%→2016年12月期4.6%→2017年12月期5.1%→2018年12月期7.2%と年を追って上昇、2019年12月期も6.9%と高止まりするなかで、残業時間の削減と有給休暇取得の増加が進んでいる。一方、2019年12月期の1人当たり営業利益は、2014年12月期に比べ17.3%増となる91万円強まで向上、過去最高営業利益を示現している。ICT利活用の実践や勤務形態・労働環境の継続的見直しを通じ、業務の仕組み、社員の「ゆとりとやりがい」の向上が生産性アップにつながっていると見て良いだろう。

今後は、残業削減や有給休暇取得増加の余地が縮小し、新卒含有率のピークアウトが見込まれるため、時間当たり生産性向上による業績押し上げ効果が顕在化しやすくなる。長期的には一段の収益性向上を目指すとしている、同社の今後に期待したい。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)《ST》

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