中華人民共和国建国70周年−祝賀ムードに沸くロシア【中国問題グローバル研究所】

2019年10月25日 16:15

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記事提供元:フィスコ


*16:15JST 中華人民共和国建国70周年−祝賀ムードに沸くロシア【中国問題グローバル研究所】
【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。所長の遠藤 誉教授を中心として、トランプ政権の”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、また北京郵電大学の孫 啓明教授、ロシアにおける現代中国研究の第一人者であるウラジミール・ポルチャコフ教授らが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。

◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているウラジミール・ポルチャコフ氏の考察を紹介する。

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ロシアでは中華人民共和国建国70周年が盛大に祝われた。こうした記念行事には、中国と深い関わりがある専門家やその道の権威だけでなく、一般市民も参加した。

2019年9月13日から15日までの期間、中国国家経済の成果を紹介する「チャイナ・フェスティバル」がモスクワで最も来場者を集める展示会場のひとつで開催された。「偉大な遺産と新時代」をスローガンに掲げたこの行事では、有名な中国の獅子舞や龍舞の実演から、剪紙(中国の切り絵)など名人クラスの伝統民芸の披露、中華料理の試食に至るまで、さまざまな活動が行われた。モスクワ中心部の「ザリャジエ・コンサートホール」では、中国とロシアのアーティストによる大規模な記念コンサートも開かれた。

メディアでの主な祝賀行事のひとつとして、建国直後数カ月間の中国を捉えたオムニバス形式のドキュメンタリー映画がロシアのテレビで放送された。これまで非公開とされていたこの記録映画はヨシフ・スターリンの個人的な指示によりソ連のカメラマンが撮影したものであり、アンドレイ・デニソフ駐中国ロシア大使と数人の中国専門家のコメントが添えられていた。映画では、1949~1950年の北京や上海の状況、租界(外国人居留地)の様子、貧困層の暮らしぶりにも触れている。

また、建国70周年を記念した特集記事が、ロシアの主要紙(『Nezavisimaya Gazeta』(『ニェザヴィーシマヤ・ガゼータ』)、『Izvestiya』)(『イズベスチヤ』)や大衆向け政治雑誌(『Ogoniok』、『Expert』、『Profile』)に掲載された。科学雑誌『Russia in the APR』(『アジア太平洋地域におけるロシア』、ウラジオストク)と『Far Eastern Affairs』(『極東事情』、モスクワ)は、中国建国70周年を記念した増刊号を用意した。

さらに、中国建国70周年を記念して、100人を超える学者が参加する大規模な学術会議がモスクワ国立教育大学によって開催された。この大学で学ぶ中国人留学生の数はモスクワ内でも上位に位置している。

10月上旬には、露中国交樹立70周年(10月2日樹立)を記念し、多くの行事が催され、関連する記事や出版物も多数発表された。中でも両国の外務省は、1950年代の記録写真や資料の展示会を開催した。

ロシア国内では、中国建国70周年は概ね好意的な論調で取り上げられた。大多数の出版物は、国民生活のあらゆる分野における中国の著しい進歩に賛辞を送り、改革開放政策の成果やさまざまな領域での最先端科学・テクノロジーへの飛躍的な発展に言及した。とはいえ、中国が歩んできた真に厳しい道のりについての言及を省略したわけではない。イワン・ズエンコ氏(ウラジオストク、ロシア科学アカデミーアジア太平洋研究センター極東支部中国部門研究員)は「How China became great again(如何にして中国は大国に返り咲いたか)」と題する論文で中国の発展の軌跡を辿ったが、向こう見ずであった「大躍進政策」(3,600万人が餓死)、「文化大革命」、そして1989年の「天安門事件」の悲しい結末に言及することも忘れなかった。ズエンコ氏は、現在の中国指導部の政策は「国家主義で彩られている」と述べ、 同時に、トランプ米大統領が中国のやり方に異議を唱えたことで「中国政府による外交・国内政策の引き締め傾向が強まった」と主張した(※2より)。

ロシアの在中国通商代表だったセルゲイ・ツィプラコフ氏は、中国建国70周年を厳しく論評した。彼は、習近平国家主席が宣言した「新時代」の最初の2年間は「習氏の政治歴の中で最も厳しい」時期となったと述べている。経済情勢はいまだに「驚くほど不透明感が強く」、成長率も著しく低下している。また、中国外部の情勢も一層複雑になっている。ツィプラコフ氏は、「勿論、習近平は経験豊富な水先案内人だが、水面下に潜む多数の岩礁に衝突する危険性は、かつてないほど大きくなっている」と評した(モスクワ、2019年9月30日付の独立系新聞Nezavisimaya Gazeta掲載記事「70 years of China: a difficult change of eras(中国の70年間:時代の厳しい変化)」より)。

記念行事を受けて、最新の露中関係が大いに注目された。ご存知のように、2019年6月5日からの習近平訪露の成果に関するロシア連邦と中国の共同声明では、露中の包括的パートナーシップ関係と戦略的協力関係が「新時代」に入ったと発表された。共同声明には、新時代における二国間関係の特徴がまとめられている。それらの特徴とは、端的に言えば、両国独自の発展と核心的利益の保護についての戦略的支援援、深い融和と友好関係、協力への革新的アプローチ、多極型世界秩序の形成支援である。それと同時に両国は、同盟関係の不樹立、非対立、および第三国の非標的化という基本原則へのコミットメントを再確認した。

それにもかかわらず、両国間の軍事技術協力の明らかな規模拡大と深化に伴い、政治学者の間では、中国の対露関係が迎えようとしている新たな段階に関して、また、同盟関係が新たに樹立する可能性に関して議論が飛び交っている。ヴィクトル・ラリン氏(ロシア連邦極東大学教授、ウラジオストク)は、協調こそ「新時代のキーワード」と考えている。国際舞台での両国政府の活動だけでなく、各国内の開発戦略においても、協調はより緊密でより多面的なものに進化している。(ウラジオストク、『Russia in the Asia-Pacific Region』2019年第3号6頁および10頁より)

アレクサンドル・コロリョフ氏(豪ニューサウスウェールズ大学教授)は、国家間の軍事協力のレベルを決定する手法を提案した。大規模な軍事技術協力や定期的な合同軍事演習の実施を根拠として、中国とロシアは初期・中期段階の軍事協力の範囲を既に越え、2016年以降、次の段階への移行を開始していると結論づけることができる。コロリョフ氏は「技術的には、ロシアと中国はより緊密な軍事同盟を結ぶ用意ができており、その点を疑ってもほぼ正当化することはできない」と述べている。(ウラジオストク、『Russia in the Asia-Pacific Region』2019年第3号142頁および153~154頁より)

だが、アレクサンドル・フラムチヒン氏(ロシア政治・軍事分析研究所副所長)は別の見方をしている。同氏は、中国はここ数年「ロシアとの軍事・政治同盟に一定の関心を持っている」と指摘しながらも、「両国の軍事協力については偽のプロパガンダ的な要素が非常に強く」、この分野で「何らかの根本的な新形態が発展する可能性は低い」という見方を示した。(2019年9月20日付『Nezavisimaya Gazeta』付録記事「Independent military review(独立した立場からの軍事検証)」より)

以上のように、中国建国70周年はロシアにおいて社会的にも科学的にも重要な行事であったといえる。この記念日は中国発展の詳細と露中関係全般を改めて見直す機会となった。


※1:https://grici.or.jp/

※2:https://profile.ru/politics/kak-kitai-snova-stal-velikim-1800361

(この評論は10月8日に執筆)《SI》

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