クオールHD Research Memo(5):保険薬局事業とBPO事業の2本柱を核としつつ、新規事業の早期育成も目指す

2018年12月17日 16:05

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記事提供元:フィスコ


*16:05JST クオールHD Research Memo(5):保険薬局事業とBPO事業の2本柱を核としつつ、新規事業の早期育成も目指す
■中長期の成長戦略

1. 中長期成長戦略の全体像
クオールホールディングス<3034>は2018年10月1日付で持株会社体制に移行した。その目的として、1)グループ経営戦略推進機能の強化、2)権限と責任の明確化による意思決定の迅速化、3)コンプライアンス管理体制を重視したコーポレートガバナンス強化、4)グループシナジーの最大化、の4点が掲げられている。

持株会社体制となっても、同社の中長期の成長戦略には基本的に変更はない。既存の保険薬局事業とBPO事業を中核としつつ、第3の柱と成り得る新規事業を早期に育成し、持続的な成長を実現できる経営基盤を構築していくというものだ。

詳細は以下に詳述するが、保険薬局事業では売上高の拡大を第一義的目標とし、その実現に向けては店舗数の拡大(自社出店とM&A)と既存店の成長(店舗規模の拡大)の2つの軸で臨む方針だ。

BPO事業はその利益率の高さを生かす戦略だ。保険薬局事業の営業利益率が5%前後であるのに対してBPO事業のそれは15~20%の水準にある。この収益性の高さを維持しながら、中核の事業会社であるアポプラスステーションの事業を戦略的に拡大し成長を目指す方針だ。

新規事業については、現状、具体的な事業のイメージができているわけではないとみられる。しかし、時間を買う意味でM&Aを積極的に活用しながら第3の収益の柱の育成を急ぐ方針だ。


規模の拡大と“患者に求められる薬局づくり”、及び人財育成の3点を核に成長を目指す
2. 保険薬局事業の成長戦略
同社の調剤薬局事業(セグメント名の保険薬局事業と同義)の成長戦略は一貫している。すなわち、規模(店舗数)の拡大と“患者に求められる薬局づくり”の2つだ。“患者に求められる薬局づくり”は業績の面からは既存店の成長につながることが期待されている。

実際には店舗というハコ以外にも現場で働く薬剤師の確保と質の向上も不可欠であるため、同社は1)規模の拡大、2)“患者に求められる薬局づくり”、3)人財育成、の3つのテーマで調剤薬局事業の拡大に取り組んでいる。これら3つの要素はいずれも重要であることは言うまでもないが、売上高という評価軸に対してより直接的かつ即効性のあるものは規模(店舗数)の拡大であるのは明白だ。

(1) 出店・店舗戦略の全体像
同社は規模(店舗数)の拡大について、M&A(子会社化、事業譲受等)を積極的に活用してきており、今後も同様の方針であることを明確にしている。2019年3月期第2四半期の調剤売上高(処方箋応需売上高=処方箋応需枚数×処方箋単価)58,049百万円のうち3分の2(66%)に相当する38,578百万円がM&Aによって獲得した店舗の売上げだったことがそれを端的に表している。

ところで同社は、業態という点では自社単独で展開するクオール薬局と異業種と連携した新業態薬局の大きく2つの業態で展開している。店づくりの基本コンセプトとなる店舗タイプという点ではマンツーマン型をコアビジネスとしつつ門前型や不特定多数の顧客を対象とする面対応型も展開している。出店方式では前述したようにM&Aを積極活用しつつ自社によるオーガニック出店も行っている。

クオール薬局業態の店舗についてはマンツーマン型を基本として展開する方針だ。マンツーマン型については会社概要の項で詳述したとおりだ。門前型は一般的には(大学病院等の比較的大規模の)病院の門前に立地する店舗を言う。特定の医療機関の患者をターゲットとするという意味ではマンツーマン型と門前型は共通している。対象とする医療機関の規模等で厳密な区別があるわけではなく、また、周辺環境の変化にも影響されるため、境界があいまいなケースやマンツーマン型を念頭に出店したものの門前型になるといったケースもある。そうしたなか同社はあくまでマンツーマン型を基本とし、門前型(病院内に立地する“門内型”も含む)については条件・状況次第というスタンスだ。

出店方式との関係では、M&Aによって獲得した店舗はクオール業態となる。この点は、新業態薬局は異業種との連携を前提にしているため、当然とも言える。M&Aによる店舗のなかにはマンツーマン型あるいは門前型に必ずしも当てはまらないタイプの店舗も含まれることもあるが、同社はその点については柔軟に対応している。また店舗ブランドについても、クオール薬局と変更することを基本としつつも、地域特性や顧客への浸透度等状況に応じてオリジナルの店舗ブランドを維持している。この点は買収した会社のあり方にも当てはまり、子会社として残すかクオールに吸収するかは状況に応じて判断している。

新業態薬局については、同社(実際には事業会社のクオール)自身がイニシアチブを取って他社と提携を進めながら店舗開発を行うため、出店方式はすべてオーガニック出店という形となる。店舗タイプとしては不特定多数の顧客を対象とする面対応型となる。面対応型の店舗コンセプトに基づいて考えれば、人通りの多い立地に店舗を構える事業者との連携を行うことは非常に合理的で説得力のある戦略だと弊社では考えている。

同社は店舗数の拡大と同様に、店づくり、すなわち店舗の性格や機能、地域での役割といった点に特に意を注いでいる。各店舗の機能を、国(厚労省)が『患者のための薬局ビジョン』で掲げる3つの機能に沿って分類すると、かかりつけ薬剤師・薬局機能は、すべての店舗において基本機能として具備することを目指している。次に立地や顧客層に対応する形で、クオール薬局のマンツーマン型と新業態薬局には健康サポート機能を、クオール薬局の門前型では高度薬学管理機能を、それぞれ付加的機能として具備するよう注力している。

今後の出店においては、クオール薬局・マンツーマン型と新業態薬局を中心に進める方針だ。門前型については同社が自社で出店するケースは限定的と考えられ、M&Aによって入ってくるケースが中心になると考えられる。

(2) 新たな店舗展開の取り組み
同社は前述した出店・店舗戦略を基本としつつ、常に新たな業態やサービスの開発にも注力している。以下にいくつかの事例を紹介する。

a) なんばスカイオ店
この店舗は立地が大阪なんば駅に直結したビル内にある。同ビル内にはクリニックが入居しており、そこからの処方箋をターゲットにしたクオール薬局・マンツーマン型店舗を基本コンセプトとしている。しかし駅ビル直結という利便性の高さから、駅利用者(不特定多数)からの処方箋も多く、面対応型薬局という性格も併せ持つに至っている。今後の店づくりにおける新たな選択肢を示唆していると言えるだろう。

b) ヘルスケア強化型ローソン(ローソン神宮前六丁目店)
この店舗には同社は調剤薬局を出店しておらず、あくまでコンビニエンスストアの範疇にある。しかし店舗内に“おくすり相談カウンター”を設置し、コンビニの営業時間に合わせて登録販売者を24時間常駐させている点に特長がある。コンビニ店頭に並ぶOTC薬の販売を、相談カウンターと登録販売者によるアドバイスで加速させようという取り組みだ。同社ではこの取り組みで良い手応えを得ており、今後出店を加速するとしている。この取り組み自体は登録販売者の派遣事業による収益にとどまると考えられるが、調剤併設型への事前調べという位置付けも可能だろう。対応可能な店舗は都心・繁華街の立地に限定されると思われるが今後の展開に注目したい。

同社はまた、既存店の収益底上げにも取り組んでいる。これについては従来から取り組んでいる、“ケアローソン”と健康サポート薬局の2つが代表的な取り組みとなっている。

ケアローソンは、ローソン併設店において、介護・栄養相談窓口を設置し、介護用品の品ぞろえを拡充した店舗だ。従前と比べて処方箋受付回数が約20%、コンビニ日版が約10%、それぞれ上昇した実績がある。ケアローソンの成功は、処方箋応需枚数の拡大という経済的効果のほかにも、地域包括ケア構築において重要な役割を果たせることを示している。問題は今後の拡大ペースだ。2018年9月末時点でローソン併設店舗は34店あるが、ケアローソンを導入可能な店舗は限定的と見られている点だ。市場性が乏しい立地の場合はともかく、市場性がありつつも導入にハードルがある場合、どう克服していくか見守りたい。

健康サポート薬局は、かかりつけ薬剤師・薬局機能に加えて、国民による主体的な健康の保持増進を積極的に支援する機能(健康サポート機能)を備えた薬局とされている。具体的には区切られた相談窓口が設置されて一般医薬品や健康食品を始め健康に関する相談を幅広く受け付けるほか、介護用品等の取扱や必要に応じた受診勧奨・医療機関紹介を行うといった機能を有している。これら一定の基準をクリアすると、「健康サポート薬局」を表示することが可能になる。同社はこの健康サポート薬局を2018年9月末時点で59店舗まで拡大した。1年前と比較して28店舗の増加であり、当面の目標である100店舗体制の早期の確立を目指している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)《SF》

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