米で試験中のインテリジェント信号、1台の車が偽造データ送信で渋滞も

2018年3月15日 16:22

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記事提供元:スラド

headless曰く、 米運輸省では交通渋滞を緩和するため、道路側ユニット(RSU)と車路間(V2I)通信機能を搭載する自動車(CV: Connected vehicle)を組み合わせたインテリジェント信号システム(I-SIG)のテストを複数の都市で実施している。しかし、1台の自動車から細工したデータを送信するだけで大幅な遅延を引き起こすことが可能になるという(論文PDFRegister)。

 I-SIGでは交差点の直進と左折、計8方向について青信号の最短時間と最長時間が設定されており、RSUがCVから受信したメッセージ(BSM)に含まれる位置・速度情報などを使用して遅延(交差点到着から通過までの時間)が最小になるよう信号の切り替え計画を立てる。計画に用いられるCOPアルゴリズムは動的計画法を応用したもので、決定段階(交差する道路の一方が青信号になるセットが1段階)の数に制約はないのだが、現在はRSUのパフォーマンスが低く、決定までの時間も限られるため、2段階の設定になっているそうだ。

 その結果、青信号の継続時間上限ぎりぎりに交差点へ到着する自動車(最後の自動車)の優先度が高くなり、これを装ったBSMを送信することで必要以上に青信号の時間を延長することが可能となる。CV浸透率100%を想定した交通シミュレーターによる実験では99.8%で攻撃(遅延の発生)に成功し、平均68%の遅延が発生したとのこと。I-SIGを使用することで遅延が26.6%減少するとされるが、攻撃を受けることでI-SIGなしの場合よりも悪化することになる。決定段階を5段階まで増加させると攻撃成功率は84.7%となり、発生した遅延は平均9.3%となっているが、それでもI-SIGの効果は大幅に損なわれる。

 また、CV浸透率が100%となるまでには25~30年かかるとみられており、現在は移行段階としてCVから受信したデータをもとに非CVの位置・速度を予測するEVLSアルゴリズムが併用されている。EVLSでは信号待ちで停止しているCVの位置情報をもとに行列の長さを予測するため、実際の最後尾から離れた位置に停止しているように装ったBSMを送信することで、COPアルゴリズムをだまして優先順位を変更させることが可能だ。こちらは決定の段階が増えると長期にわたる最適化が行われるので、行列の後ろに停止している車が何度も攻撃を受ける可能性がある。シミュレーションでは5段階設定で200%近い遅延が発生している。交差点付近に設けられる左折レーンは短いため、左折しようとする車があふれて直進レーンがふさがれ、渋滞が発生する現象もみられたとのこと。

 シミュレーションは周囲のCVがブロードキャストするBSMを受信し、クアッドコアのノートPCで5秒以内に攻撃を決定することを想定している。攻撃を実行する車は実際に道路を走る必要はなく、交差点付近に駐車したままでいい。研究者はこの結果から、実際の自動車の存在を確認するセンサーの導入や、RSUのパフォーマンス向上などが必要だと述べている。

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