投信の大変革がこれから始まる【松井道夫氏インタビュー(後編)】~雑誌「ネットマネー2017年2月号」より

2017年1月4日 16:55

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記事提供元:フィスコ


*16:55JST 投信の大変革がこれから始まる【松井道夫氏インタビュー(後編)】~雑誌「ネットマネー2017年2月号」より

90年代末に撤退して以来、投資信託を取り扱ってこなかった松井証券が、投信の取扱開始と、ポートフォリオ提案サービス『投信工房』の導入を決定した。
今だから語れる投信撤退の真相と、取り扱い再開の背景を、同社の松井道夫社長が語る。

「ネットマネー2017年2月号」に掲載された特別インタビュー記事を、2回に分けて配信する企画の第2回。

(第1回よりつづき)

■フィンテックなどの技術が急速に進化している。ネットを使った投信の購入は常識となる

結局のところ、巷で取り沙汰されているフィンテックとは、従来の「供給者論理」から「消費者論理」へと変えるためのツールだ。投信選びには分析が不可欠であるが、ロボットより人間のほうが、分析力が優れているというのは幻想である。また、ロボットには感情がないので、恣意的な判断が入ることなく、昼も夜もなく忠実にお客さまの指示を遂行できる。他人のお金を心の底から思いやる営業員に出合うことも幻想である。ロボットを執事のように使うことこそ、これからの資産運用手法の主流となってくるだろう。

この先、資産運用は今まで以上にグローバルな視野で取り組むべきものとなっていく。投信についても、特定の金融グループ内だけで用意されたメニューでは本当に満足できる選択とはならないはずだ。もっとオープンでグローバルなネットワークの中から自分に最適な投信を探し出すべきもので、それを導くのが、「製販分離」構造と技術進歩を前提としたロボアドバイザーによる新時代の投信選択だと言えよう。

■圧倒的なコスト差。松井の受け取りは、ファンドラップの10分の1

こうした投信の大変革が始まろうとしている中、主要な販売会社はファンドラップの取り扱いに注力している。その名の通り、さまざまな投信を組み合わせ、ひとまとめにラッピングして販売・運用するという商売だが、資産残高の1.5%前後のラップ口座管理料を新たに徴収できることから、販売手数料に代わる収益源として着目したのだろう。

しかも、投信の保有期間中は、従来からある信託報酬も徴収する。これらすべてが、お客さまにとってのコストとなる。金融庁の調べでは、こうしたコストは主要なファンドラップで平均2.2%に達するといい、お客さまが受け取る運用益はその分目減りしてしまう。そこで、松井証券では「投信工房」というポートフォリオ提案サービスを提供することにした。これはファンドラップとは全く違う。

最大の違いは、ラップ口座管理料を徴収する必要がない点である。株式委託手数料を引き下げた際と同じく、“中抜き”によってそれを実現した。株式の場合、1.売買執行業務、2.情報提供業務、3.アドバイス業務が手数料の構成要素だったが、自由化にあたり、3を提供しないことで手数料を大幅に引き下げた。前述したように、2と3がネットによって融合した結果、対面取引は実質的にネット取引に淘汰された。投信でも、同じ現象が起きると思っている。

「投信工房」では、お客さまが当社に運用を一任するのではない。お客さま自身がロボアドバイザーの分析を参考にして運用配分を決めるので、当社はアドバイス料を頂戴しない。積立運用は500円、一括運用は1万円から可能で、昼夜を問わず、また少額であろうが、対応できる。もちろん、投信の運用実績や、お客さまが負担するコストも、わかりやすく詳細に情報開示している。ポートフォリオ運用で重要なリバランスも、また、大きな相場変動を回避するための“一度にどっと購入するよりも、小刻みに少しずつ購入する”ドルコスト平均法の分散投資も、営業員の顔色をうかがわずに可能だ。当然、積立投資などもお客さまの事情に合わせて自由に設定できる。

■お客さまが認めるコストで成り立つ業が「実業」

先にも述べたように、収益を目減りさせるのは運用コストだ。一般的なファンドラップが2.2%であるのに対し、当社の「投信工房」は低コストの投信を集め、信託報酬のみいただくので0.4%弱となる。通常、信託報酬は運用会社と販売会社が折半するため、当社の受け取りは0.2%弱にとどまる。対面営業の証券会社が受け取る料率の10分の1に近い水準だ。“営業員”を否定したことで生じる販売費用の差で、これでも十分に採算は合う。

まずはパッシブ運用の投信100本程度を取り扱い、国際分散投資のプラットフォームを提供するが、今後はアクティブ運用の投信も随時追加していく予定である。一般的な物品と違って金融商品は購入時に価値は未定だが、負担するコストだけは購入時にわかる。“営業員”を否定した新しい投信販売の仕組みである「投信工房」がお客さまの資産運用の一助となれば幸いだ。

(おわり)

松井証券社長 松井 道夫 MICHIO MATSUI まつい・みちお
●1953年、長野県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本郵船に入社。1987年に義父の経営する松井証券に入社し、1995年、代表取締役社長に就任。旧来の常識を覆す改革を次々に実行し、1998年に日本初の本格的インターネット株取引を開始。革新的なサービスを次々に導入し、業界をリード。2016年11月28日から、投資信託の取り扱いを開始するとともに、独自に開発したロボアドバイザーによるポートフォリオ提案サービス『投信工房』の提供をスタート。

※本稿は産経新聞社出版より刊行されている雑誌「ネットマネー2017年2月号」に掲載された記事からの抜粋(一部修正)です。《FA》

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