日本はスーパーコンピューターで世界トップの座につけるのか?

2016年7月25日 23:29

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記事提供元:biblion

 【連載第8回】IoT/AIによる「障害者のソーシャル・インクルージョンの実現」を目的に設立された「スマート・インクルージョン研究会」代表の竹村和浩氏による連載第8回。今回は、これからのIoT/AI技術発展の鍵となる「スーパーコンピューター」のこれからについて語っていただきます。

日本はスーパーコンピューターで世界トップの座につけるのか?

記事のポイント

●障害者の視点からの未来社会デザイン

●スーパーコンピューターによって統合される都市・地域

●IoT/AI分野における日本の弱みと強み

●「障害者視点」で、日本のIoT/AI技術は世界トップに上り詰める


前回までの記事はコチラ

 【第1回】障害があってもなくても誰もが同じ地平で生きていく―インクルーシヴ社会を理解する
http://biblion.jp/articles/DQ7lr

 【第2回】分離からインクルージョンへ! 障害のある子もない子も同じ場で学ぶ教育とは?
http://biblion.jp/articles/tJ5k2

 【第3回】障害を持って生まれた娘が教えてくれた、インクルージョンの大切さ
http://biblion.jp/articles/PFWEl

 【第4回】“子供より先に死ねない親たち”の思い
http://biblion.jp/articles/H9trE

 【第5回】2020年東京オリパラが「AI/IoT×障害=?」の答えとなる理由
http://biblion.jp/articles/26RZn

 【第6回】障害×AI/IoT=イノベーション 「障害者」の視点が、日本のスマート技術を飛躍させる!
http://biblion.jp/articles/MRWxP
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 【第7回】AI(人工知能)は、障害者支援の夢を見るか?
http://biblion.jp/articles/vqy2n

障害者の視点からの未来社会デザイン

 以前の記事で私は「障害、とりわけ、見えにくい知的障害に焦点を合わせることは、ことAIの開発にはなくてはならない視点である。障害こそ、技術開発の“フロンティア”だ」ということを書いきました。つまり、障害者の視点からのIoT/AIを含む技術開発が、障害を持たないすべての人たちにとって、最も使い勝手のよい製品・システム開発に繋がるはずである、ということです。その視点から見れば、今後、どのような製品が必要で、どのようなシステムを構築すべきかは、ある意味明白なのです。

 ちょうど、GoogleとGMの提携が双方にとって必要であると同様に、今後のIoT/AIによる社会の自動化において、障害者の視点は、その未来にあるべき社会の形をデザインするために不可欠の要素であるということができます。
 例えば、知的障害という視点から見れば、まず以下の大きな2つのシステム・仕組みが必要となります。

 1.居住の自動化=スマート・ハウス
 2.移動の自動化=位置情報による移動支援システム

 これら2つの要素が合わさるとき、障害者、とりわけ知的障害を持つ人たちが、安心・安全に社会生活を営む社会基盤を形成することが可能になります。そして、この2つの仕組みの組み合わせは、そのまま、スマート・コミュニティーとしての都市づくりへと発展させることが可能になるのです。移動の支援には当然、車による自動運転が含まれることになります。

 ダウン症を持つ私の娘は、将来車を運転したいといつも話していますが、これまでは、それはまず夢のまた夢、叶わぬ願いでしたが、将来、自動運転が可能になれば、車で一人で移動することも決して夢ではないのです。
 さらに、障害者が、出来る限り自立して社会で生きていくためには、一つ一つの製品、システムだけでは難しいことがわかります。つまりは、総合的、統合された社会システムの構築が必要となります。

スーパーコンピューターによって統合される都市・地域

 今後、AI/IoTの技術が発達すれば、次第にビジネスという視点から、社会インフラとしての位置づけを強く持つようになることが予想されます。それは、セキュリティーの観点からも、より行政サイドでの活用ニーズが高まり、それは結果として、AIによる行政管理システムへの移行へとつながっていくはずです。

 そうすると、障害者にとっては、もう一つのリスクとなる要素、コマーシャリズムによる、誤った購入行動の回避が必要になります。それは閉じたシステムの必要性へとつながるのです。

 では今後の未来社会デザイン、AI・IoTのネットワークに必用な要素とは何でしょうか? それは以下の5つの要素です。

 1.スーパーコンピューター
 2.AI:人工知能システム
 3.セキュリティー・ネットワークのための独自のコンピューター言語
 4.膨大な数のセンサーを備えた、IoT機器のネットワーク
 5.個人の持つ、ウェアラブル、もしくは、インプラント機器(+相互の通信機能)

 そして、何より大切なのは、それらすべてが、一つの個人デバイスによって、連携・連関する統合されたシステムでなければならない、ということなのです。
 この発想が生まれてくるのは、仮に知的障害を持つ人が社会生活を営む際には、どのようなシステム、仕組みが存在すれば、自立した生活ができるのか?という問いから生まれてきます。ただ、それは余りに理想的なのでは、と思われる方も多いかと思います。ですが、AI/IoTによる社会デザインは、いずれ必ず、この統一的なシステムに移行するはずですし、だからこそ、最初からこの方向で考えていかなければならないのです。

 実際、ドイツでは国を挙げてIndustry 4.0として第4の産業革命をドイツから起こそうと、政府・企業・大学・研究機関による一大プロジェクトを立ち上げ、2013年4月から取り組んでいます。ドイツの研究機関の試算によれば、このインダストリー4.0の取り組みにより、ドイツ国内だけで、2025年までに、11兆円、経済成長を1.7%押し上げる効果があるとされています。また、2014年3月には、アメリカが、シリコンバレーのトップ企業を中心にGE、IBM,インテル、シスコシステムズを中心とした「インダストリアル・インターネット・コンソーシアム」を設立。航空、鉄道、石油ガス、電力、医療など幅広い産業分野にまたがって、インターネットを活用した消費者へのサービス提供に注力すると表明し、かつ世界中の企業にこのグループに入るよう呼びかけ始めたのです。(*尾木蔵人著『決定版 インダストリー4.0 第4次産業革命の全貌』東洋経済新報社 P.17より)

AI/IoT分野における日本の弱みと強み

 では日本は、どうか?
 日本はいまだ、どうしたらよいか、主体的な意見を持たぬままこれまで判断を決めかねており、そうこうするうちに、今度はドイツが、そのアメリカのコンソーシアムに加入するという現象を目の当たりにしています。
 つまり、AI/IoTの時代には、個々の企業が自社の個々の技術にとらわれるのではなく、大きな社会デザインに基づいて、それに必要な個々の技術をデザインしていく、という流れが必須だということなのです。

 日本は、このAI/IoTのグランドデザインが見えないまま、民間任せの、また、ドイツにつくか、アメリカにつくか、といった趨勢の見極めに右往左往していしまっています。また、社会デザインという視点でいえば、これは、まだ誰もどの国も、本当のニーズや全体像は分からないでいる状態だと思います。

 しかしながら、これまで述べてきているように、障害者を持つ人達の視点に立てば、社会ニーズ、あるべき社会デザインはある意味、容易にみることが可能になるのです。
 なぜなら、それぞれの障害をもって社会を既に生きている多くの人にとって、必要なサービス、ニーズは明確だからです。

 この記事をお読みになって、一ビジネス英語講師が、どうして、専門外のAI/IoTなどの高度なIT技術を語るのか?と未だ不思議に思っていらっしゃるかもしれません。しかし、障害を持つ、とりわけ知的障害を持つ娘を持つ私にとってみれば、何が、親亡き後、この子に必要かは、誰に問わずとも明確なのです。
 これまでは、いわゆる現実の壁にぶつかってきました。必要なサービスを思い描いても、社会には必要とされるサービスを提供できる人的また社会的資源の余裕はない、といわれ、片付けられてしまうことが、テクノロジーの進歩によって可能な時代になりつつあるのです。

 それはもう、単なる理想主義的な絵空事ではなくあるべき社会の姿として、また、それはどのようなシステムが、社会が必要であるかという社会ヴィジョン、あるいは羅針盤となりつつある、ということなのです。

 そして大変僭越ながら、日本の現状は、多くの企業が政府が主導せぬまま、とにかくこれからは、AI/IoTだ、ということで、とりあえず、自社技術の一部をAI/IoT仕様に変えて開発を始める、というフェーズにとどまっているように見えて仕方がありません。しかし、ここは多くの識者といわれる人たちが指摘しているように、実は、日本という国は、本当はこのAI/IoTの時代にあって、最もその実現に適した条件を、すでに備えた国といわれています。
 その理由は、AI/IoTは、モノのインターネットの時代であり、そのためにはまず国中にインターネットのインフラがなければなりません。その点では、IT大国といわれるインドですら、そのインターネットのインフラ普及という点では、日本ほど緻密に張り巡らされてはいません。また、アメリカや中国も、無線、Wi-Fiの普及でいうとその通信速度も含めて日本ほぼ充実してはいません。

 さらには、モノのインターネットにおいては、高度なIoT機器の開発が何より欠かせない要素です。その点でも、「ものづくり大国」といわれる日本には、いまだ世界でもトップレベルの技術を誇る多くの町工場を持っている点で、韓国などのネット社会にはない、大きなアドヴァンテージを持っています。

「障害者視点」で、日本のIoT/AI技術は世界トップに上り詰める

 では、これほどIoTに適した国であるにも関わらず、なぜドイツ、アメリカにあるいは、AIでは中国にも、遅れを取ってしまっているのでしょうか?
 それは、一点、未来の社会デザイン、あるべきAI/IoTの来るべき未来世界のヴィジョンを日本が持っていないからだと私は考えています。
 そのために、「障害者の視点」がその羅針盤となるのであり、日本が世界に追いつくためには、2020年の東京オリパラ選手村のスマート化、そしてそこを日本の国内技術統合、IoTコンソーシアムのshowcaseにしなければならないのです。

 すでにドイツは、2025年を目標に定めていて国の総力を挙げて走り始めています。
 であれば、日本はよりハードルを上げ、とにかく2020年を一つの目標として、選手村のスマート化による国内技術統合を図るべきなのです。インターネットのインフラを既に十分に持った先端都市東京、町工場も多いモノづくり都市東京であれば、決して不可能ではないと考えます。
 さらには、次世代スーパーコンピューターの開発者・ペジーコンピューティング社の斎藤元章氏が持つ、サステナブルでコンパクトなスーパーコンピューターに、国も企業も大規模な投資をすることにより、文字通り、AI/IoTの日本発のシンギュラリティーと第4次産業革命を日本から始動・発進することは不可能ではないといえるのです。

 AI/IoTこそ、次世代超成長産業の本命であり、もしかすると他の個々の産業分野への投資はその多くが無駄になる可能性すらあります。もし日本が、「障害者の視点」からの社会デザインに取り組むことができたなら、世界でも最も質の高い、かつその使いやすさによりグローバルにスケールする日本のIoT/AI技術をもって、次なる経済成長をすることが可能になるのです。障害者の視点は確かにハードルが高いかもしれません。しかしだからこそ、それを目標とする日本のIoT/AI技術は世界トップレベルに上り詰めることが可能になるのです。それはまさに、「情けは人の為ならず」の言葉通りになるのだと私は確信しています。
 そして、障害自体も、個々の障害バラバラに対応し製品開発する、という視点からではなく、「すべての障害をつないだ視点」が必要とされます。そのために私は、「スマート・インクルージョン研究会」を立ち上げたのです。

 企業と障害者の視点をつなぎ、日本の次世代成長に貢献するために。

 (次回へ続く)

この記事の話し手:竹村和浩さん

この記事の話し手:竹村和浩さん立教大学英米文学科卒業。2016年、元Google米国副社長の村上憲郎氏(現・株式会社エナリス代表取締役)とともに「スマート・インクルージョン研究会」を設立、代表・事務局長を務める。ビジネス・ブレークスルー大学英語専任講師、公益財団法人日本ダウン症協会国際担当、知的障害者手をつなぐ親の会育成会中央支部総務、APDSF(アジア太平洋ダウン症連合)事務局長。著書多数。●スマート・インクルージョン研究会 http://www.smartinclusion.net/

スマートインクルージョン研究会

スマートインクルージョン研究会障害は、本人にあるのではなく社会にこそ存在する。ITの力で障害をスマートに取り除き、障害を持つ人であっても、社会に含まれる(include)社会の実現を目指す、スマート・インクルージョン研究会さんのサイトです。 元のページを表示 ≫

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