ヒトの鼻は、チンパンジーよりも温度や湿度の調整能力が劣る―京大・西村剛氏ら

2016年4月30日 11:47

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チンパンジーの鼻腔の気流と温度変化のシミュレーション。線は気流(青から赤にかけて速さが増す)、断面は温度分布(青から赤にかけて温度が増す)を表す。(京都大学の発表資料より)

チンパンジーの鼻腔の気流と温度変化のシミュレーション。線は気流(青から赤にかけて速さが増す)、断面は温度分布(青から赤にかけて温度が増す)を表す。(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 京都大学の西村剛准教授、松沢哲郎教授、鈴木樹理准教授らの研究グループは、ヒトは、チンパンジーなどに比べて、鼻腔における吸気の温度や湿度を調整する能力が劣っていることを明らかにした。

 いわゆる原人とよばれるホモ属人類は、280-230万年前頃にアフリカで現れ、その頃、人類はアフリカに数種存在していた。その後、気候変動が激しい時代が続く中で、他の人類は絶滅し、原人の系統のみが生き残り、われわれヒトへと続いてきた。他の人類はチンパンジーのような顔つきであったが、原人は私たちのような平らな顔で、突き出した鼻も持っていた。鼻腔や鼻は、吸った外気の温度や湿度を調整する重要な機能を果たしている。

 今回の研究では、ヒトと、チンパンジーとマカクザルの鼻腔における温度と湿度の調整能力を、鼻腔のデジタル三次元形状モデルを用いたコンピューター数値 流体力学(CFD)シミュレーションにより評価した。ヒトは原人の、チンパンジーはそれ以前の猿人たちのモデルである。霊長類研究所でチンパンジーやマカクザルをコンピューター断層画像法(CT)で撮像し、 鼻腔のデジタルモデルを作成し、CFDシミュレーションにより評価を重ねたところ、ヒトは、チンパンジーやマカクザルに比べると、温度、湿度ともに調整機能がかなり劣っていることがわかった。特有の突き出した鼻は、調整機能にはほとんど役に立っていなかったという。

 研究グループは、原人の鼻腔の温度・湿度調整能力がそれ以前の人類より劣っていながらも生き残れたのは、平たい顔と同時にできた長い咽頭でさらなる調整が可能だったからかもしれないとしている。

 研究メンバーは、「研究を始めた当初は、原人の鼻や鼻腔の形態進化は温度や湿度調整機能に適応的であると目論んでいましたが、結果は全く逆になってしまいました。自分の見る目のなさを痛感しながらも、私たちヒトの形態進化に新しい見方を提供できたことは喜ばしいです。今後は、さまざまな環境に進出したサル類での鼻腔形態の機能適応を明らかにしていきたいと考えてます」とコメントしている。

 なお、この内容は「PLoS Computational Biology」に掲載された。論文タイトルは、「Impaired Air Conditioning within the Nasal Cavity in Flat-Faced Homo」。

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