自閉症の原因となる遺伝子を発見―新薬開発につながる可能性=東大・中村勉氏ら

2016年3月23日 23:23

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PX-RICSを欠損するマウスでは、GABAA受容体輸送複合体が形成できず、GABAA受容体の表面発現が損なわれる結果、社会認知機能に障害をきたし、自閉症に類似した行動異常となって現れる。ヒトでは、11番染色体長腕の末端部が欠失するとヤコブセン症候群を発症するが、このときPX-RICSを含む領域が欠失すると、自閉症を合併することになる。(東京大学の発表資料より)

PX-RICSを欠損するマウスでは、GABAA受容体輸送複合体が形成できず、GABAA受容体の表面発現が損なわれる結果、社会認知機能に障害をきたし、自閉症に類似した行動異常となって現れる。ヒトでは、11番染色体長腕の末端部が欠失するとヤコブセン症候群を発症するが、このときPX-RICSを含む領域が欠失すると、自閉症を合併することになる。(東京大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京大学の中村勉講師と秋山徹教授らの研究グループは、大脳皮質などの神経細胞に豊富に存在するPX-RICSと呼ばれる遺伝子を欠損するマウスが、自閉症の症状に特徴的な行動異常を示すことを見出した。この成果は、自閉症の発症を抑制する新たな薬剤の開発につながることが期待されるという。

 自閉症は、対人関係の障害、コミュニケーションの障害、反復的・常同的な言語や行動、限定的な興味やこだわりを中核症状とする発達障害のひとつで、協調運動障害やてんかん発作などの合併症状もある。その原因は先天的な脳の機能障害、特に社会認知機能(他者の心を推し量ったり、他者に共感したりする脳の機能)の障害であると考えられているものの、詳しい発症機構は明らかになっていない。

 今回の研究では、大脳皮質・海馬・扁桃体など脳の認知機能に関連する領域の神経細胞に豊富に発現しているタンパク質PX-RICSを同定し、その遺伝子を欠損するマウスを作製した。すると、このマウスは、新規個体に対する興味の減少、他個体からのアプローチに対する応答の減少、超音波域の鳴き声を使った母子コミュニケーションの減少、反復行動の増加、習慣への強いこだわりなど、自閉症の中核症状に類似した多彩な行動異常を示すことが分かった。また、協調運動にも障害があり、てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど、自閉症の合併症状も見られた。

 次に、PX-RICS欠損マウスの大脳皮質ニューロンを培養し、その表面に発現しているタンパク質を調べ、GABAA受容体の量が顕著に減少していることを見出した。この減少により、GABAによる抑制性のシナプス伝達も有意に減少した。ほかの結果とも合わせて、PX-RICS遺伝子の欠損によってGABAA受容体をニューロン表面に発現できなくなると、自閉症の発症に直接結びつくことが分かった。また、ヤコブセン症候群と呼ばれる疾病で発症する自閉症の原因遺伝子がPX-RICSであることも特定された。

 今回の成果は、GABAA受容体の表面発現を促進する薬剤を創製するなど、自閉症の新たな治療戦略への貢献が期待されるという。また、PX-RICS欠損マウスは自閉症の中核症状と主要合併症を幅広く呈することから、優れた自閉症モデルとして新薬創製に貢献することが期待されるという。

 なお、この内容は「Nature Communications」に掲載された。論文タイトルは、「PX-RICS-deficient mice mimic autism spectrum disorder in Jacobsen syndrome through impaired GABAA receptor trafficking」。

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