【2016年の展望】高齢化で変わる外食産業 キーワードは「高級」と「健康」

2016年1月3日 14:53

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記事提供元:エコノミックニュース

「少し高くてもいいものを」という志向を見せる人が増えている一方で、「節約のため外食を控えている」という層が増えているのも事実。ファストフードなどコンビニに台頭される分野は、今後も苦戦が続きそうだ

「少し高くてもいいものを」という志向を見せる人が増えている一方で、「節約のため外食を控えている」という層が増えているのも事実。ファストフードなどコンビニに台頭される分野は、今後も苦戦が続きそうだ[写真拡大]

 苦戦が続く外食産業。2015年はファストフードやの居酒屋の大量閉店など暗い話題が多かった。一方で、ファミリーレストラン各社は上質な食材を使った高単価メニューを投入、シニア層を中心に客単価を伸ばし、売り上げを微増させた。少子高齢化の波が顕著に表れているこの業界、各業態の生き残り策は「高級」「健康」路線だ。

 ファミリーレストランは、奇しくも「ファミリー」からの脱却によって好調を維持した。ガストやバーミヤンを運営するすかいらーく<3197>の担当者が「1000円以上注文するシニア層が増えている一方で、学生やファミリー、世帯年収400万円以下の来店客は減った」と話すとおり、フォアグラや国産牛肉を使った1000円を超えるメニューを投入して客単価を上げることに成功した。

 消費者の「高級志向」を反映させたとみられる動きは、他社にもある。デニーズを運営するセブン&アイフードシステムズ<3382>は12月3日、世田谷区二子玉川駅から徒歩30分のエリアに「白ヤギ珈琲店 多摩堤通り店」をオープンさせた。国内5店舗目となるこの店は、300平方メートルの広さに対して客席数を68席に抑えており、ゆったりと過ごすことができる。ブレンドコーヒーはチェーンにしては高めの440円。ディナーの時間帯に1300~1500円前後の本格的なメニューを展開している。まだオープンして間もないが、「売り上げは予算比2割増で推移している」と同店。

 また、同社は12月1日に栃木県佐野市で「緑のデニーズ」を新装オープンした。「3世代が一緒にくつろげる空間」をコンセプトに、蕎麦やうどん、天ぷらなどメニューの6割を和食系にした。看板はなじみの黄色から緑色”に変更、「Denny’s(デニーズ)」表記も毛筆書体のカタカナにし、従来の店舗との違いをアピールいている。

 最大手のマクドナルドの凋落が目立ったハンバーガーチェーンでも、産地直送の野菜など食材にこだわる「モスバーガー」を運営するモスフードサービス<8153>が、4~9月期業績で営業利益を前年同期比2.5倍の16億6700万円とした。同社は「MOS CLASSIC」というグルメバーガーやアルコールを提供する新業態を11月27日に渋谷区千駄ヶ谷にオープンさせた。客の目の前の鉄板で焼いた肉を使うハンバーガーの価格は1100円前後と、かなり高めの設定だ。

 「健康を意識した商品の提供ができなければ、外食としての価値はなくなる」と発言しているのは、吉野家ホールディングス<9861>の河村泰貴社長。かつての常連客が50~60代になったことを意識して、「ベジ(ベジタブル)丼」や「麦とろ牛御膳」などのヘルシー系メニューを積極展開している。また同社は、4月から10月にかけて、都内の医療機関の協力を得て「吉野家の牛丼を3ヶ月間毎日食べ続けても、健康リスクは増えない」という研究結果を公表、消費者の健康志向に敏感に反応している。河村社長は「女性は料理にお金を払うのではない。お店の雰囲気、空間が重要になる」とも語り、新たな消費者の取り込みにも目を向けている。

 各業態の「高級・健康路線」が明確になったが、カタログ通販のニッセン<8248>が行ったアンケートでは、全体の85%の人が「現在、節約をしている」と回答し、節約項目の1位が「食費」だった。その中で「外食を控えている」と答えた人は68.4%で、旅行などの「娯楽費」やスマホ代などの「通信費」と比べて高い割合だった。

 外食費は家庭で真っ先に削られる予算ながら、高単価メニューの売れ行きはいい。それは、「消費者の二極化」が進んでいる表れといえる。コンビニエンスストアやスーパーマーケットの食品分野が好調なのと無関係ではないだろう。牛丼やハンバーガーがコンビニで同じ値段で売っているのなら、そちらで買う。しかしそのコンビニで、100円で売っているコーヒーに400円を払ってスターバックスに行くのはなぜか。「空間が重要になる」という河村社長の言葉がここで響いてくる。「安い、早い」を売りにしていた各社が今後目指すところは「コンビニでは得られない価値を」ということかもしれない。 (編集担当:久保田雄城)

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