コオロギとショウジョウバエで学習メカニズムに違いがあることを明らかに―北大・水波誠氏ら

2015年11月7日 19:00

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北海道大学の水波誠教授のグループは、コオロギを用いた研究によってコオロギの学習メカニズムの一端を解明した。

北海道大学の水波誠教授のグループは、コオロギを用いた研究によってコオロギの学習メカニズムの一端を解明した。[写真拡大]

 北海道大学の水波誠教授のグループは、コオロギを用いた研究によってコオロギの学習メカニズムの一端を解明し、昆虫の種間で学習の基本メカニズムに違いがあることを明らかにした。

 動物の連合学習で罰や報酬の情報を伝える仕組みについては、古くから研究が行われ、哺乳類ではドーパミンニューロンが報酬や罰の情報を伝えることが分かっている。一方、無脊椎動物では、報酬情報はオクトパミンニューロンが伝え、罰情報はドーパミンニューロンが伝えることが示唆される研究結果と、報酬情報と罰情報の両方をドーパミンニューロンがドーパミン受容体「Dop1」を介して伝えるとする研究結果があった。

 今回の研究では、クリスパー・キャス9という新規ゲノム編集技術を用いて、ドーパミン受容体Dop1が働かないノックアウトコオロギを作成したところ、このノックアウトコオロギは、匂いと報酬(水)との連合学習は正常であったが、匂いと罰(塩水)との連合学習ができないことがわかった。つまり、コオロギは、Dop1が罰の情報を伝えるが、報酬の情報は伝えないと結論づけられる。

 この結果は、報酬情報と罰情報の両方がDop1を介して伝えるとされた遺伝子組換えショウジョウバエでの報告とは異なっており、コオロギとハエでは報酬情報を伝える伝達物質や受容体に違いがあることが分かった。

 これまで、学習の基本メカニズムは昆虫の種を超えて保存されていると考えられており、コオロギとハエで報酬情報を伝える神経伝達の仕組みが異なるという今回の発見は予想外のものという。

 コオロギは高度な学習能力をもち、その学習の仕組みには哺乳類とも共通点があることから、研究グループは今後さらに遺伝子改変コオロギを用いた研究を進めることで、動物の学習・記憶の基本メカニズムの解明を加速できること期待されるとしている。

 なお、この内容は「Scientific Reports」に掲載された。論文タイトルは、「Knockout crickets for the study of learning and memory: Dopamine receptor Dop1
mediates aversive but not appetitive reinforcement in crickets
」(ノックアウトコオロギを用いた学習・記憶研究:ドーパミン受容体Dop1 は罰情報を伝えるが報酬情報は伝えない)。

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