【コラム 山口利昭】お天道様と最高裁はみている-ある最高裁判決への雑感

2015年2月21日 10:34

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【2月21日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 本日(2月19日)、会社法に関連する重要な最高裁判決が二つ出ました。どちらもたいへん興味があるもので、また追っていろいろと検討したいと思うのですが、株主代表訴訟のほうについて本日はざっと判決文を読んだだけでして、雑駁な印象だけ述べておきたいと思います(最高裁のHPでいずれの判決も閲覧できます)。

 日本システム技術損害賠償事件の最高裁判決(逆転で会社経営者側が勝訴した判決)でも感じましたが、お天道様と最高裁はよく見ているなぁと。行政、民事、刑事事件と異なり、商事事件というのは(最高裁裁判官にとって)あまり記憶に残らない分野の事件だと思うのですが(あくまでも私見です)、かなり丁寧に事案をみておられる印象です。

 平成17年改正会社法が施行され、会社法関連の裁判当事者として大規模な企業が登場するようになりました。大規模な企業が訴訟で最後まで争うとなりますと、判決や決定の社会的影響を無視することはできなくなり、裁判所も判決の影響力に(これまで以上に)配慮しなければなりません。

 そうなると、考えられることは、事例の特殊性を前面に出して「こういった事情があるから今回はこっちを勝たせた」といえるようにすること(一般的な法理のようなものは使わない)。そしてもうひとつは下級審で認定された事実を再検証したうえで「まじめに商売をしている人」が泣かない裁判を出すこと(企業法務で著名な法律事務所が登場したり、著名な弁護士が出てきて黒を白に変えてくれる、ということがあってはならない)ということです。

 本件についていえば、たしかに論点は「非公開会社株式の割当価格が有利発行にあたるかどうか」ということですが、有利発行に該当する資料に何を使ったか、どのような計算方法を用いたか、平均の時価評価はどの程度であったか、ということよりも、時系列に沿って事実を再検証したうえで、会社が苦しくて、明日はどうなるかわからない状況でも、メインバンクに頭を下げて、従業員になんとか給与を払って、なんとか会社を支えていこうと努力している人たちには、その努力に報いるべく、その努力の経過を評価しようというのが最高裁の姿勢ではないかと。

 何か紛争が勃発して、その後、優秀な弁護士が登場してビジネスの経過を無視して証拠をそろえてみても無駄、ということであり、ひごろからコンプライアンス経営を積み重ね、企業の持続的な成長のために経済的合理性のある行動を重ねている企業が勝てる司法制度であってほしいと思います。「予測可能性」という言葉が判決に登場しますが、結果の重大性から過失を認定したり、後日、会社が成功したから非公開株式の評価額を算定する、というのは後出しジャンケンの発想かもしれません(自戒をこめて)。

 日本システム技術事件の最高裁逆転判決のときも、内部統制システム構築義務に関心を抱き、地裁や高裁判断を支持していた私にとっては、その結末に頭を殴られるほどの衝撃を受けました。上場会社の社長さんが「財務報告の内部統制」にどれほどの関心を持ち、その時代に上場会社の社長さんがリスク管理として自ら対策をとれる範囲は「この程度」と丁寧な事実認定のうえで社長さんの言い分を通した最高裁判決に、丁寧な事実認定と「日頃の行い」の大切さを再認識しました。もちろんビジネスの世界のことですから、リスクを背負うべき人はリスクを背負わなければならないので、一方がまじめでもう一方がふまじめといった割り切りではなく、あくまでも冷徹なバランス評価の問題です(そういった意味で、福岡魚市場株主代表訴訟の最高裁判決も、私はどっちに転んでもおかしくなかったのでは、と思っています)。

 拙著「ビジネス法務の部屋からみた会社法のグレーゾーン」の第一章でも書きましたが、企業が会社法を活用することによって紛争を回避できるためには(つまり事業コストを下げるためには)、まじめな企業が行動予測が立てられる法律でなければならないわけで、会社法の行為規範、開示規範を誠実に守り、説明義務をきちんと尽くしている企業(もしくは関係者)が勝てることを、司法の側面から支援できるものでなければならないと思います。ステークホルダーに対して「公正で透明性ある経営を続けている」と胸を張れる企業に対して「お天道様はみている」といえる司法制度が求められているのではないでしょうか。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

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