【宮田修 アナウンサー神主のため息】飛ぶ鳥、跡を濁さず

2015年1月1日 08:34

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

新幹線や特急が停車駅に近づくと、使ったリクライニングシートを元に戻してくださいと言う車掌のアナウンスがある。お気づきだろうか。

新幹線や特急が停車駅に近づくと、使ったリクライニングシートを元に戻してくださいと言う車掌のアナウンスがある。お気づきだろうか。[写真拡大]

■リクライニングシート対応にも現れる日本人の他人を思いやる心配り

 新幹線や特急が停車駅に近づくと、使ったリクライニングシートを元に戻してくださいと言う車掌のアナウンスがある。お気づきだろうか。このようなアナウンスは、かつてはなかった。私の記憶では、4,5年前から始めたように思う。JRに訊いてみた。

 やはり座席が元通りになっていないことに乗客から苦情があるようだ。マナー改善のため車内アナウンスで促していると回答してきた。

 ではなぜ日本人は列車を降りるときに座席を元に戻すのであろうか。日本の気候は、高温多湿のところが多い。特に夏の間は、耐えられないほどである。かの兼好法師も『徒然草』の中で『家の作りやうは、夏をむねとすべすし。』と言っている。日本人は、耐え難い蒸し暑さの中で暮らしてきた。列車の話に戻ろう。空席を見つけ座ろうとする。その座席の背もたれが倒れていたら、それはそこに誰かが座っていたことを示す。暑い夏、その乗客は汗をかいていたであろう。座席にその湿りが残っているかもしれない。嫌な臭いも・・・。

 後から座る人は、おそらく気分が悪いに違いない。そこで席を立つ人は、自分の後にこの座席を使う人のことを考え、座席を元に戻すのだ。私はそう考えている。この島国に住む人たちは、常に自分以外の人のことに思いを馳せながら暮らしてきた。他の人たちが幸せになるために自分は何ができるだろうかと考えながら日々過ごしてきたのだ。自分が席に着いた時と同じように元に戻して席を立つ。ここには誰も座っていませんでしたよ。どうぞ気持ちよくお座りくださいというサインを送ることになるのだ。

 『飛ぶ鳥、後を濁さず』―日本人ならかつては常識であった。残念ながら今はそうではなくなった。私の密かな観察では、車内アナウンスがあるにも拘らず、およそ半数の人がそのまま下車している。その都度”日本人は変わってしまったな”と私は感じるのだ。間違えないでいただきたいのだが、私は席を元に戻すのが正しく、そうしないのを悪いとは言っていない。どちらでも良いかもしれない。特に最近は列車にはエアコンが効いて、かつての不快さは大分軽減されている。しかし他人のことを考えながら暮らすことまで忘れる必要はない。これは大切にすべきであろう。これこそが日本人の”美風”であると私は思うからだ。

 私は、老神職から懇請を受け50歳を過ぎてから神職になった。そして日本人の伝統的な考え方を学び、その素晴らしさに心を打たれた。同時に現在の我が国の状態がそれとはかけ離れていることに心を痛めている。

 このコーナーで私たち日本人のDNAに刻み込まれているであろう先人たちの考え方をお伝えしたいと考えている。(宮田修 千葉県長南町の宮司、元NHKアナウンサー)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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