【コラム 黒薮哲哉】「やられたらやり返す」ラテン人の気質とピノチェト裁判 晩年に法廷に立たされる苦痛(下)

2014年5月28日 23:07

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月28日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

翌年、裁判所は「痴呆」を理由に裁判を却下した。しかし、2004年になって再告発される。ピノチェト89歳。結局、最後は健康を害して裁判も中止。チリの住民に最悪の独裁者の烙印を押されたままこの世を去ったのである。

これら一連の経緯を見ながら、わたしが思い出したのは、1987年にメキシコへ移住する直前のことである。それはメキシコ人の友人が執拗に念を押した一言だ。その友人はこんな風に言った。

「絶対に人前で他人を辱めるような行為をしてはいけないよ。まして暴力など振るったら、何年かかっても絶対に『報復』されるから。ラテンアメリカでは、これだけは絶対に守らなければいけないよ」

ピノチェトに対するチリ人の反撃を見ると、ラテン人の気質がよくわかる。ちなみに1980年代の初頭に、戦線を布告することなく秘密戦争を展開したアルゼンチンの将軍らも、後日、法廷に立たされている。ニカラグアの独裁者ソモサは、最後は亡命先のパラグアイで暗殺された。

メキシコの作家・ファン・ルルフォの短編小説集『燃える平原』(白馬書房)に収録された『殺さねえでくれ』という作品には、こうしたラテン人の気質が描かれている。舞台は、メキシコの貧しい山村。干ばつで牧草も満足に育たない。柵で仕切られた2つの牧場。牛が柵を乗り越えて、隣の牧場の草を食べたことが引き金になり、隣人が隣人を殺してしまう。殺した方は、復讐におびえながら後世を送る。

そして老齢でよぼよぼになったころに、殺した男の息子に捕まってしまう。息子が男に言う。

「父は、鉈でめった切りにされたあげく、ヤリで腹を突き刺されて殺されたな。(略)おれもなるべく忘れようとした。だけど、忘れようとしても、どうしても忘れられないことがあった。それは、あんなことをしたやつが、まだこの世に生きていて、腐った魂で永遠の命を夢見ているということだ。」

結局、この老人は殺害され、遺体が男の息子に引き渡される。

このようなラテン人の気質をどう解釈すべきなのだろうか?

ファン・ルルフォ:1918年、メキシコ生まれ。生涯でたった2冊の著書『燃える平原』『ペドロ・バラモ』(岩波)を出版して、世界的な名声を得た。【了】

黒薮哲哉(くろやぶてつや)/フリーランス・ライター、ジャーナリスト
1958年兵庫県生まれ。会社勤務を経て1997年からフリーランス・ライター。「海外進出」で第7回ノンフィクション朝日ジャーナル大賞・「旅・異文化テーマ賞」を受賞。「ある新聞奨学生の死」で第3回週刊金曜日ルポ大賞「報告文学賞」を受賞。『新聞ジャーナリズムの正義を問う』(リム出版新社)で、JLNAブロンズ賞受賞。取材分野は、メディア、電磁波公害、ラテンアメリカの社会変革、教育問題など。著書多数。「MEDIA KOKUSYO」(http://www.kokusyo.jp)より本人の許可を取った上で転載。

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