【コラム 山口亮】会社法マフィアの実情(下)

2014年5月27日 09:58

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月26日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 ●安倍総理大臣に手紙

 日本では、あまり報道されていないが、米国の投資家グループである、Council of Institutional Investors(メンバーの運用資産は300兆円以上)は、安倍総理大臣と、自民党内では改革派として知られる塩崎恭久衆議院議員、柴山昌彦衆議院議員宛てに、日本の企業統治に関して、「社外取締役を取締役会に導入しない場合には、理由を説明する旨の規定を会社法改正案に入れる改革を称賛する」手紙を送っている。

ところが、現在、衆議院を通過して、参議院で審議されている、会社法改正案には、塩崎議員、柴山議員も、気が付いていない欠陥条文が含まれていることは、あまり知られていない。

ひとつは、株式売渡請求の撤回に関する条文。

ふたつめは、株式が全部取得されるときに、取得日の制限がないことだ。

これらは、カネボウ事件やレックス事件の少数株主側を主催していた山口三尊氏のブログなどに詳しいが、例えば改正会社法では、公開買付等で全株式の9割を取得した場合、多数派株主は、株主総会なしで少数株主から株式を取り上げることができる。少数株主が価格決定申立てをした後、会社側の売渡請求の撤回を認めているからだ。

だから、少数株主側が売り渡し請求に応じて株式取得価格決定申立を裁判所に行うのに、弁護士に多額の着手金を払って弁護団を組織しても、会社側の都合で撤回ができてしまうと、少数株主側の費用は丸損になってしまう。
少数株主保護の制度的枠組みという観点からは、クラスアクション制度(集団訴訟)が必要であると考えられ、少数株主保護の観点から見ると、この法案には大きな欠陥があると言わざるを得ない。

さらに、多数派株主による少数株主からの株式の取得日に特に制限がないので、理論的には10年後に取得するとして、少数株主を経営陣側の都合で、嫌がらせ的に長期間不安定な立場に置くことも可能になる。
現行法ならば、全部取得条項付株式に変更する定款変更の議案が可決された株主総会が終了次第、すぐに申し立てを行えばよいが、改正会社法案では、取得日がいつになるかの予測もつき辛い。

こんな欠陥条文を、実務経験のない法務省民事局付の検事が起案して、それが国会を通ってしまいつつある。国際的な投資家が日本という市場から離れる一因ともなりかねない。

 ●おかしな判決文

 まず商事部の判決文には、笑ってしまう判決が相次いでいることについて、注意を喚起したい。

例えば、最近のオリンパスの株主総会決議取消訴訟(大竹昭彦裁判長)では、

「連結計算書類に不正な会計処理を伴うものであったとしても、役員の選任決議等総会の決議に影響を与えるものとは認められない」

「会社法上連結計算書類については、株主総会においてその内容の承認を受けることは必要とされておらず、総会においてその内容を報告することが必要とされているにすぎない。連結計算書類が不正な会計処理を伴うことは役員の選任に関する株主の理解及び判断に影響を与えるものとは言い難い」(20-21頁)

などと、記載されている。

計算書類を重要な情報として、取締役の選任議案を判断する資本市場の理屈など、わかっていない。

また、HOYA株主総会決議取消請求訴訟(氏本厚司裁判長)でも、会社提案の取締役選任議案の、株主からの反対提案について、「議案ではない」という記載がされている。
議決権行使の実務からすれば、「株主がそもそも会社提案の議案に反対しているのか」、「反対株主は、どのような趣旨で取締役選任議案に反対しているか」を、参考書類か招集通知の記載で知ることは、非常に意味のあることだ。

少なくとも民事8部の判事が書いた判決文は日本の資本市場の発展を、5年遅らせた。

 ●弁護士事務所と立法担当者の危うい関係

 商法学者の問題点は、会社法の立法担当者にも当てはまる。

東京地裁民事8部の陪席判事だった高山崇彦氏や、葉玉匡美氏(TMI法律事務所)、郡谷大輔氏(西村あさひ法律事務所)といった、現在、大手法律事務所でパートナーとして勤務している弁護士は、以前、法務省民事局に勤務する会社法の立法担当者だった

少数株主の権利を侵害して、経営者に濡れ手に粟の利益をもたらすのが、スクイーズ・アウト(少数株主締め出し)の欠陥法制だとしたら、彼らの現在の動向にも、注意を払わなければいけない。

日本の少数株主保護のスキームは、クラスアクション制度やディスカバリー制度の不在も相まって、諸外国の資本市場と比較しても、あまりに遅れたものだ。

このような少数株主不利の条文変更案について、現在、立法担当者として国会議員にレクを行っているのは、裁判官出身で法務省民事局参事官の坂本三郎という人物とされる。裁判官という職業は、お金とは縁のない、清廉潔白な仕事ではない。

近い将来、坂本参事官が「アンダーソン毛利友常法律事務所パートナー」「西村あさひ法律事務所パートナー」などの肩書で、法廷に登場しないとも限らない。

資本市場関係者やマスコミ関係者だけでなく、国会議員も、日本の会社法学者や会社法立法担当者のインセンティブ構造には、十分な監視をお願いしたい。【了】

 やまぐちりょう/経済評論家
1976年、東京都生まれ。東京大学卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。
年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

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