現代を生き抜くためのノウハウ満載!中小企業IT活用実践手法:第13回 経産省「IT経営力大賞」の事例紹介4(建設業)

2011年12月19日 15:19

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■さまざまなIT課題が山積
 経済産業省IT経営力大賞2010年認定を受賞しました株式会社中島建設様(以下:中島建設社)は筆者がIT経営力大賞申請書作成のご支援を開始する前に既に様々なITシステムの導入で社内の経営課題解決に成功していました。

 しかし、IT経営以前では顧客情報の管理が担当者任せであったため、お客様からの問い合わせやクレームが入った場合、担当者が多忙な時期は対応が遅れがちでした。

 こうした課題は多くの企業でも同じようなもので、例えば、中島建設社では日々の顧客からの電話で多いキッチンの水回りや住宅の細々した連絡に対して電話を受けて数分で回答を出さないと、お客様を怒らせてしまうこともありました。場合により、もたもたしているうちに、お客様は競合他社に流れてしまいます。

 また、ときには時には中島建設社との取引上、過去に行った工事に対してクレームが入ることもあります。こうした場合、どの企業でも同様ですが、特に必要なのがスピード感のある対応です。しかし、ITの課題としても個々に顧客情報や工事情報などが個人任せでパソコンにあるデータも情報共有できてない状況でした。

■社員間の情報共有化で顧客満足度向上、口コミの効果もプラスし業績向上
 筆者は、中小企業IT経営力大賞2010の申請支援で、IPAの紹介を受けて中島建設社に関わり始めました。

 同社が先のさまざまなIT課題を解決するために、まず導入したのは、手掛けた建物の情報を管理する「建物カルテデータベース」、工事の進捗状況を把握できる「小口案件管理」のデータベースで、顧客からの依頼に対して社員間で情報が把握するようにしました。

 多くの業種でも同様で建設会社のような大型物件や小規模といっても住宅などを受注するなどの場合、口コミによる受注がすくなくありません。これはお客様への信頼感が最も重要な業種では一般的な傾向ですが、建設業界できめ細かな対応を行っている企業は少ないと言えます。

 例えば、小規模な修理がきっかけとなって大きな受注に結びついたり、トラブルに適切な対応を行って信頼を得て、他のお客様を紹介されたりすることもあります。

 経営環境が厳しい建設業界で生き残るには、顧客満足度の向上こそがカギとなります。そう考えた代表取締役中島社長(当時の肩書きは副社長)は、2003年頃、過去に手掛けた建物の情報を管理する「建物カルテデータベース」、工事の進捗状況を把握できる「小口案件管理」のデータベースのシステムコンセプトを決め、ITベンダーと共に実現できるシステムを構築していきました。

■単なるIT導入を目的にせずに社員間の情報の見える化が重要
 中島社長は現在のシステムコンセプトについてこのように話されています。

 「さまざまなお客様から日々沢山のご要望を頂きます。まるでピザ屋のデリバリーのように迅速にスピード感のある対応が必要と考えました」であれば「ピザ屋のデリバリーのように電話してきたお客様の情報を瞬時に社員全員が把握する事ができ、新規対応もクレームも全て全員が情報共有して対応すれば良い」そんなピザ屋のシステムをベースにしたコンセプトを考えたそうです。

 しかし、言うは易しの世界で、この先、時間を掛け、念密にデータベースを整備していきました。そのお陰で数年後顧客ごとの顧客カルテとデータベースが完成し、社員間の情報の見える化が進みました。

 今では中島建設社のビルの各階にテレビモニターを配置し、いちいちパソコンを覗かなくともお客様からの情報が社員全員いつでも見える環境を構築しました。

 特に集金遅れやなどの債権については中島社長が陣頭を取り、回収が遅れている場合には赤くアラートが点灯することで、自らが場合によって営業と出向いて回収できるような仕組みも構築しました。

 こうした単なるIT導入を目的にせずに社員間の情報の見える化が重要であることが本好事例をご覧頂きお分かり頂いたと思います。

 では、次回は『中小企業の生産性向上と競争力強化策におけるIT経営』 についてお話していきましょう。是非、お楽しみに!!

著者プロフィール

阿部 満

阿部 満(あべ・みつる) ブリッジ・リサーチ&コンサルティング合同会社 代表社員

ITの利用・活用を軸として経営コンサルティング、研修講師活動を行う。専門はビジョン策定、経営戦略策定、マーケティング戦略策定、IT戦略及びIT導入プロジェクトマネージメントなど。
IT経営可視化戦略(産業能率大学出版部)、IT経営実践の知識(同友館)など著書多数。
会社URL:http://www.bridge-rac.com/

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