スケジュール達成確率0%で停止のNASA「HALO」、月面基地の夜間生存実証へ転用

2026年8月8日 23:51

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記事提供元:Tech Times

イタリア・トリノにあるタレス・アレニア・スペースの工場で、ゲートウェイのHALOモジュールを強度試験場所へ慎重に移動させる技術者たち。(タレス・アレニア・スペース提供)

イタリア・トリノにあるタレス・アレニア・スペースの工場で、ゲートウェイのHALOモジュールを強度試験場所へ慎重に移動させる技術者たち。(タレス・アレニア・スペース提供)[写真拡大]

NASAとノースロップ・グラマンは、2026年4月に作業停止となった月周回拠点用モジュール「HALO」のハードウェアを転用し、3回の月面インフラ実証ミッションを行うと発表した。月の南極で機器を約354時間の夜に耐えさせる技術を検証するもので、2028年初頭を目標とする有人月面着陸を支える重要な試みとなる。具体的な打ち上げ日は発表されていないが、2029年まで続く「ムーンベース(Moon Base)」フェーズ1の期間中に実施される予定だ。

■軌道モジュールから月面インフラ実証への転用

NASAとノースロップ・グラマン(Northrop Grumman)は今週、ゲートウェイ(Gateway)計画のHALOモジュール向けに開発した電力、データ、アビオニクスのハードウェアを転用し、3回の月面実証ミッションを実施すると発表した。HALOは契約額が19億ドル(約3002億円、1ドル=158円換算)に達したプロジェクトだったが、NASAの独立審査委員会が予定どおりに進む可能性を0%と評価した後、2026年4月に作業停止命令が出されていた。

3回のミッションは、ムーンベース計画に残された最も難しい工学的課題の一つである「約354時間続く月の夜を通じてハードウェアを稼働可能な状態に保つこと」に取り組む。月面インフラ実証1、2、3(LID-1、LID-2、LID-3)は、南極付近の月面インフラが、一般的な電子機器にとって致命的となり得る環境に耐えられることを実証する、ムーンベース計画初の専用ミッションとなる。対象となるのは、日照地で最高華氏130度(摂氏54度)に達する一方、約14地球日間にわたって太陽光発電を利用できない夜には華氏マイナス334度(摂氏マイナス203度)を下回ることもある環境だ。ノースロップ・グラマンの発表内容は、同日公開されたNASAの公式ムーンベース更新情報でも確認された。

LIDシリーズのようなミッションから月面夜間生存のデータを得られなければ、NASAには宇宙飛行士をシャクルトン・クレーターに月の昼間を超えて滞在させるための、検証済みの手段がない。そのため、実現しなかった軌道モジュールから生まれた3回の実証ミッションは、2028年の有人月面着陸を支える基盤となる。

■1億8700万ドルから19億ドルへ:HALOが作業停止に至るまで

HALOモジュールの起源は2019年7月にさかのぼる。当時NASAは、ノースロップ・グラマン・イノベーション・システムズに対し、月周回軌道上のゲートウェイにドッキングするアルテミス(Artemis)乗組員の初期居住空間となる与圧モジュール「居住・ロジスティクス拠点(Habitation and Logistics Outpost、HALO)」の設計を、1億8700万ドル(約295億円)の随意契約で発注した。NASAによると、既存の生産能力とサブシステムの成熟度を踏まえ、計画のスケジュールに対応できる唯一の請負業者がノースロップ・グラマンだったためだ。これらの経緯とその後の契約の全容は、2026年6月付のNASA監察総監室(OIG)の中間メモに記録されている。

その後、NASAの財務上の負担は段階的に拡大していった。2021年には、契約が13億ドル(約2054億円)の確定固定価格契約に変更され、2025年5月の納入が求められた。2024年9月までには再び契約形態が変更され、18億ドル(約2844億円)のコスト・プラス・アワード・フィー契約となり、納入予定も2026年10月に延期された。この変更には大きな意味があった。コスト加算方式では、費用超過を請負業者ではなく政府が負担するためだ。それ以降に生じたスケジュールの遅れは、NASAの直接的な負担となった。

2025年4月、イタリア・トリノの下請け企業タレス・アレニア・スペースからHALOの一次構造体がアリゾナ州に到着した後、ノースロップ・グラマンの技術者は、構造体の広範な範囲に腐食が生じていることを発見した。Spaceflight Nowは2026年6月、この問題を「モジュールの一次構造体全体にわたる広範な腐食」と報じている。ノースロップ・グラマンはさらに6カ月の遅れを見込み、納入時期を2028年7月と予測した。

OIGの分析はさらに厳しいものだった。NASA OIGのブライアン・マリンズ副監察総監補は、過去18カ月にわたるノースロップ・グラマンの月次スケジュール報告データの傾向に基づき、6月のメモで、HALOの納入は2031年7月までずれ込んでいた可能性があると予測した。当初予定から6年の遅れとなる。さらに、打ち上げ後にモジュールが所定の月周回軌道へ到達するまで約10カ月かかることを考慮すると、ゲートウェイが運用可能になるのは早くても2032年だったと推定している。

ゲートウェイ計画の独立常設審査委員会(Standing Review Board)は、それ以前にすでに厳しい結論を出していた。同委員会は、HALOが打ち上げ準備完了予定日に間に合う可能性を0%と評価し、現実性を欠いたスケジュールが、開発中の最適とはいえない工学的判断につながっていた可能性があると結論付けた。いずれの調査結果もOIGの中間メモに記載されている。

2026年4月、NASAのジャレッド・アイザックマン長官は、ノースロップ・グラマンに作業停止命令を出した。この時点で契約額は19億ドル(約3002億円)に達していた。

■イグニッション・デイとゲートウェイの終焉

HALOへの作業停止命令は、NASAが月探査の全体構想を見直してから数週間以内に出された。2026年3月24日、NASAは本部で「イグニッション(Ignition)」と呼ぶ半日のイベントを開催し、アイザックマン長官は、ゲートウェイを「現在の形のままでは」進めず、月探査戦略の重点を月面インフラへ移すと発表した。

ムーンベース計画責任者のカルロス・ガルシア=ガラン氏は、その理由を率直に説明した。ゲートウェイは現時点で「われわれの主要目標を達成するために必要ではない」と述べ、商用月着陸船がゲートウェイの特定軌道へ到達するには大きな性能上の不利益が生じることや、繰り返されるスケジュールの遅れによって初期運用が2030年代にずれ込む恐れがあることを指摘した。これらの発言は、TechTimesによるゲートウェイ一時停止の報道に記録されている。

アイザックマン長官は、大国間競争をめぐる時間的な切迫感について、次のように述べた。「この大国間競争では時計の針が進んでいる。成功か失敗かは、年単位ではなく月単位で測られることになる」

NASA探査システム開発ミッション本部のロリ・グレイズ局長は、OIGの中間メモに対する6月18日付の回答で、問題を明確に認めた。Spaceflight Nowの報道によると、グレイズ氏は、メモに記録されたコスト増加、スケジュールの遅れ、請負業者の履行上の問題、変化するミッション要件について、「アルテミスのアーキテクチャを合理化し、調達手法を近代化し、持続的な月面滞在という国家目標に各計画を整合させるため、イグニッション・デイで公表した決定の根拠を補強するものだ」と記している。

■月の夜がハードウェアにもたらす実際の影響

LIDミッションが解決しなければならない工学的問題は、抽象的なものではない。月の南極は、NASAが恒久的な基地を建設できる月面で唯一の場所とされている。尾根の頂上ではほぼ継続的に太陽光を得られる一方、クレーター底の永久影には数十億年かけて蓄積された水氷が存在するためだ。しかし、その地形は月面でも特に厳しい熱環境を生み出す。

月の昼間には、南極の日照地の温度が華氏130度(摂氏54度)に達することがある。太陽が沈むと、夜は一度に約354時間、地球時間で14.75日ほど続き、クレーター底の表面温度は華氏マイナス334度(摂氏マイナス203度)を下回る。これはノースロップ・グラマンのLIDに関する発表で示された数値だ。

NASAの月南極に関する熱環境研究によると、水氷が集中し、有人探査に先立ってロボットミッションによる調査が必要となる永久影領域(PSR)では、温度が約40ケルビン、華氏マイナス387度(摂氏マイナス233度)付近に達することがある。

ソーラーパネルは、その354時間にわたって発電できない。加熱されていない電子システムは、このような低温環境では故障する。機器を月の夜に耐えさせる方法は大きく二つある。一つは、夜の全期間にわたって熱管理システムを動かせるだけのバッテリーを搭載する方法だ。NASAの熱工学研究によると、それほど大型ではないペイロードでも数百キログラムのバッテリーが必要となり、利用可能な搭載質量を大きく圧迫する。もう一つは、太陽光に依存しない熱源を使う方法だ。

最も実績のある非太陽光方式は、放射性同位体ヒーター・ユニット(RHU)である。プルトニウム238を収めた小型カプセルから出る崩壊熱によって約1ワットの熱を継続的に発生させ、特定の部品を最低動作温度以上に保つ。バッテリーや多層断熱材を使う方式とのトレードオフを含め、この手法はNatureの「npj Space Exploration」に掲載された2026年の月面熱アーキテクチャ研究で分析されている。

NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」は、これを大型化した関連技術を採用している。搭載する多目的放射性同位体熱電発電機は、プルトニウム238の崩壊熱を約110ワットの電力に変換すると同時に、火星の夜間にシステムが凍結することを防いでいる。

月面基地の建設対象となる南極地域では、月面夜間生存システムが配備されたことはこれまでにない。同地域で夜間生存技術を試験した商業月面輸送サービス(CLPS)ミッションもない。LIDミッションが初の試みとなる。

■3つの実証ミッションと1つの戦略転換

ノースロップ・グラマンは8月4日、LID-1、LID-2、LID-3でHALOの電力、データ、機械的インターフェースを再利用すると発表した。これらは電力配分、データ処理、部品間の構造的接続を担うサブシステムであり、軌道上での使用を前提とした設計を月面環境に適応させる。

Space Connectが2026年8月に報じたところによると、ミッションは、月面での発電・配電、月の夜を通じた熱管理、自律運用、通信ネットワーク、他の機器を搭載して運用するホスト型ペイロードサービスという五つの分野で、技術の実証と成熟を進めるよう設計されている。

NASAの8月4日の更新情報によると、初期の実証では、数日間にわたる日陰に耐えられる夜間生存システムと、重要なペイロードやほかのムーンベース設備に電力を供給する共有型の月面電力インフラを試験する予定だ。

NASAはHALOからLIDシリーズへの転用費用を開示していない。NASA、ノースロップ・グラマンのいずれも具体的な打ち上げ日を発表していない。Spaceflight Nowによると、各ミッションは2029年まで続く現在の開発段階であるムーンベース・フェーズ1の期間中に開始される予定だ。

ノースロップ・グラマンの民間宇宙・科学担当バイスプレジデントであるデビッド・シラー氏は、転用の狙いについて次のように述べた。「飛行可能な段階まで準備され、信頼性を備えた当社のHALO技術により、NASAは取り組みを加速できます。月の夜に耐え、将来のムーンベースに向けた強固なひな型となる、堅牢なインフラを整備できます」

■2028年の有人着陸を左右する理由

LIDミッションには、切り離すことのできない二つのスケジュールが重なっている。現在のムーンベース構想で初の有人月面着陸となり、2028年初頭を目標とするアルテミスIVでは、少なくとも月の昼間の一部にわたり、宇宙飛行士を南極に滞在させる計画だ。

宇宙飛行士が月の夜を越えて滞在できるか、あるいは宇宙飛行士が利用する基地インフラを次の乗組員の到着まで維持できるかは、2028年より前に南極で夜間生存ハードウェアを試験できるかどうかにかかっている。

それがLIDミッションの役割だ。単なる抽象的な概念実証ではない。人命がその結果に左右される前に、電力と熱管理のアーキテクチャが実際の目的地の熱環境で機能するかどうかを、NASAが確認するための手段である。

ムーンベース・フェーズ1の全体構想では、アルテミスIVまでに20回を超えるロボット着陸が計画されている。NASAの公式フェーズ1計画によると、各ミッションはシステム能力を段階的に高め、後続ミッションに必要となる運用機器を検証するよう設計されている。

LIDミッションもこの考え方に沿っている。ノースロップ・グラマンのハードウェアによって夜間生存アーキテクチャを実証できるか、または最初の乗組員が到着する前に対処すべき具体的な故障モードを特定できる。どちらの結果にも価値があり、この検証を省くことはできない。

■7年間の投資が新たな目的を見いだす

ノースロップ・グラマンにとって、今回の転換には、同社が担う予定だった主要な軌道上モジュールが中止された後も、ムーンベース計画での役割を維持する意味がある。同社は2019年の初期設計契約から2025年の腐食発見まで、7年間にわたってHALOを開発してきた。Spaceflight NowによるHALO開発史の報道が示すように、LIDミッションは、軌道上モジュールという当初の用途を捨てる一方、その開発で得られた工学的成果を引き継ぐものだ。

この方式は、ムーンベースへの転換に組み込まれたNASAの方針を反映している。可能な限り飛行実績のあるハードウェアを再利用し、開発リスクを減らし、納入期間を短縮し、計画全体のコストを抑えるという考え方だ。

TechTimesによる原子力火星ミッションの報道によると、マクサー(Maxar)、その後ランテリス・スペース・システムズ(Lanteris Space Systems)が開発したゲートウェイの電力・推進エレメント(PPE)も、同様の考え方に基づき、原子力電気推進を採用するSR-1フリーダム火星ミッションへ転用された。月周回軌道上の中継拠点として始まったゲートウェイは、NASAが次の10年間に進める宇宙計画の重要な二つの要素に、部品を提供する存在となった。

6月に公開されたOIGの中間メモは、ゲートウェイの構成要素を別の用途に転用する費用を見積もっていない。したがって、LIDへの転用費用を含め、HALOが最終的に納税者にいくらの負担をもたらすのかは、依然として明らかになっていない。

確認されているのは、ハードウェアが今後果たす役割だ。南極に滞在する宇宙飛行士が太陽の沈んだ後も電力を利用できるのか。その問いに答えるための、ムーンベース・フェーズ1初の専用実証となる。

■注目ポイントQ&A

●NASAのゲートウェイ用HALOモジュールに何が起こり、コストはいくらになったのですか?

HALOは、月周回ステーション「ゲートウェイ」の最初の居住設備として計画されていた与圧乗員モジュールです。2026年4月にNASAから作業停止命令が出され、その時点で契約額は2019年当初の1億8700万ドルから19億ドル(約3002億円、1ドル=158円換算)に増えていました。

2026年6月のNASA監察総監室(OIG)の中間メモは、作業停止命令が出されなければ、HALOの納入は当初予定から6年遅れの2031年7月となり、ゲートウェイの運用開始も早くて2032年だったと予測しています。Spaceflight Nowによると、2025年4月に下請け企業のタレス・アレニア・スペースから米国へ一次構造体が到着した後、広範な腐食が発見されました。NASAの独立常設審査委員会は、HALOが打ち上げ準備完了予定日に間に合う可能性を0%と評価していました。

●ハードウェアを月の夜に耐えさせるには、どのような方法が必要ですか?

月の夜は約354時間、地球時間で約14.75日続きます。その間、ソーラーパネルは発電できず、南極の表面温度は華氏マイナス334度(摂氏マイナス203度)を下回ることがあります。一般的な電子機器には、機能を維持するための最低温度があり、電力や加熱手段がなければ凍結して故障します。

月の夜を乗り切るには、354時間にわたって熱管理システムを稼働させられるだけのバッテリーを搭載するか、太陽光に依存しない熱源や電源を使う必要があります。NASAの熱工学研究によると、それほど大型ではないペイロードでも、バッテリー方式では数百キログラムの搭載質量が必要になります。

最も実績のある方式は放射性同位体ヒーター・ユニット(RHU)です。プルトニウム238の崩壊熱を利用し、太陽光の有無にかかわらず安定した熱を供給します。この手法はNatureの「npj Space Exploration」に掲載された研究でも分析されています。NASAの火星探査車「パーサヴィアランス」も関連するシステムを使用しています。ムーンベースの建設対象となる南極地域では、夜間生存ハードウェアが配備、試験された例はなく、LIDミッションが初の試みとなります。

●月面インフラ実証(LID)とは何ですか?いつ打ち上げられますか?

LID-1、LID-2、LID-3は、ノースロップ・グラマンが月面への輸送に向けて開発する三つの技術実証ペイロードです。ゲートウェイのHALOモジュール向けに開発された電力、データ、機械的インターフェースのハードウェアを再利用します。

数日間にわたる日陰に耐えられる夜間生存システム、重要なペイロードを支える共有型の月面電力インフラ、自律運用、通信機能などを検証する計画です。NASAは各ミッションの具体的な打ち上げ日を発表していませんが、2029年まで続くムーンベース・フェーズ1の期間中に打ち上げられる予定です。

NASA、ノースロップ・グラマンのいずれも、HALOからLIDへの転用費用を開示していません。これらの情報は、ノースロップ・グラマンのLIDに関する発表とNASAの8月4日付の更新情報で確認されています。

●HALOの中止には、どのような大きな意味がありますか?

HALOの中止は、NASAによる月探査計画のさらに広範な再構築の一部です。HALO、探査上段、モバイルランチャー2、ユニバーサル・ステージ・アダプターという四つのアルテミス関連要素を扱った2026年6月のNASA OIG中間メモによると、当初合計29億ドル(約4582億円)だった契約額は、最終的に合計59億ドル(約9322億円)に達しました。

四つの計画はいずれも、2026年初頭に作業停止命令を受けるまでに、数年にわたるスケジュールの遅れと大幅なコスト増加に直面しました。このアルテミス計画全体の中止と再構築については、広く報じられています。

LIDミッションは、HALOへの投資で生み出された電力、データ、アビオニクスの各サブシステムを、そのまま埋没費用とするのではなく、ムーンベース計画を前進させる成果に転換しようとする試みです。

元記事: Zero-Percent Gateway HALO Module Becomes Moon Base Only Survive-the-Night Test

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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