相場展望2月20日号 新春相場は決算イベントと共に終了、金利再上昇へ 米利上げ長期化観測強める経済データが増える

2023年2月20日 11:15

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■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)2/16、NYダウ▲431ドル安、33,696ドル(日経新聞より抜粋
  ・1月米卸売物価指数(PPI)が市場予想以上に上昇したのを受け、早期の米利上げ休止観測が後退し、株売りが優勢となった。米連邦準備制度理事会(FRB)高官による一段の利上げに積極的な発言も株式相場の重荷となった。
  ・1月のPPIは前月比+0.7%上昇と前月▲0.2%から上昇に転じ、市場予想+0.4%上昇をも、上回った。エネルギー・食品を除くコア指数も市場予想以上に上昇した。
  ・2/14発表の1月米消費者物価指数(CPI)に続いて、インフレ圧力の強さを示したと受け止められた。
  ・2/16発表の週間の新規失業保険申請件数は前週比で市場予想以上に減り、米労働市場の引締りを示した。
  ・クリーブランド連銀メスター総裁が2/16の講演で、利上げ幅の0.25%への縮小を決めた2/1までの米連邦公開市場委員会(FOMC)で、+0.5%の利上げを主張していたことを明らかにした。堅調な指標と併せて、米利上げ継続観測を促した。
  ・米長期金利が一時3.87%と前日終値3.80%から上昇し、12月以来の高水準を付けた。金利上昇局面で相対的な割高感から売られやすい高PER(株価収益率)のハイテク株が下落。ソフトウェアのマイクロソフトや顧客情報管理のセールスフォースが下げた。
  ・利上げが景気を冷やすとの警戒感から映画娯楽のディズニーやスポーツ用品のナイキなど消費関連も売られた。ネット通販のアマゾンや電気自動車のテスラが下落した。
  ・NYダウは朝方に▲400ドル超下げた後、午後に▲86ドル安まで下げ渋った。だが、長期金利が再び上げ幅を広げるにつれて株売りが勢いを増し、主な株価指数はこの日の安値圏で終えた。

【前回は】相場展望2月16日号 米インフレ鈍化も立ち止まり、小売売上高増⇒米金利高止まりの長期化懸念 日銀新総裁の方針に注目

 2)2/17、NYダウ+129ドル高、33,826ドル(日経新聞より抜粋
  ・米物価指標がインフレ圧力の根強さを示し、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期の利上げ休止観測が後退したことから、ハイテク株を中心に売りが先行した。半面、指数への寄与度が大きいディフェンシブ株への資金シフトがみられ、NYダウは午後に上げに転じた。
  ・今週は1月の米消費者物価指数(CPI)や米卸売物価指数(PPI)が市場予想を上回りFRB高官からは金融引締めに積極的なタカ派寄りの発言が相次いだ。2/17にはFRBのボウマン理事が「物価目標の2%までにはまだ長い道のりがある」と指摘し、「インフレ抑制に一段の進展がみられるまで利上げを続けなければならない」と主張した。FRBによる利上げが続くとの観測が根強く、相場の重荷となった。
  ・利上げ継続が景気を冷やすとの見方から、ディフェンシブ株が資金の受け皿となった。製薬のメルクやバイオ製薬のアムジェン、保健医療のユナイテッドヘルスの上昇が目立った。一方、顧客情報管理のセールスフォースやソフトウェアのマイクロソフトは下落した。エヌビディアやAMDなど半導体株が下落、開発中のインフルエンザの臨床試験で効果が一部疑問視されたバイオ製薬のモデルナは▲3%安で終えた。

●2.米国株:新春相場は決算イベントと共に終了か、米長短金利が再上昇傾向

 FRBの利上げ長期化観測を強める経済データが増える

 1)新春相場による株価上昇が2月まで長期化した要因
  ・パウエルFRB議長の「ディスインフレ(インフレの鎮静化)」発言で、「金利引上げ停止」「金利引下げ」期待が浮上し、長短金利が低下した。
  ・中国のゼロコロナ政策撤廃で、経済正常化期待が高まった。
  ・株式市場は12月下洛で、年初から反動高しやすい環境にあった。 ⇒ 上記の事由で、株式市場は楽観が強まり、1株利益低下にも関わらず上昇した。

 2)BFR高官たちが、パウエル発言を打ち消す「タカ派」的な言動
  ・インフレを確実にFRB目標の2%に回帰させるためには長期間の高金利継続をする必要がある。
  ・利上げはまだ完了していない。

 3)米経済データが強い米経済を示す
  ・米1月生産者物価指数(PPI)は前月比+0.7%、予想+0.4%を上振れ。前年同月は+6.0%、予想+5.4%を上回る。
  ・新規失業保険申請件数が予想外の減少。
  ・米生産者物価指数は予想上回る前月比+0.7%上昇で、6月以来の大幅となる。

 4)米長短金利は再上昇基調に転換     
  ・金利上昇の推移    2/1     2/17
    10年国債金利   3.417% 3.817
    2年国債金利   4.106%    4.617
 
 5)決算発表イベントが終了し、しばらくは好材料の乏しく、反動安がありえる
  ・加えて、中国の経済正常化期待の高まりも、今後の経済指標に裏付けられるか否か次第で「期待がしぼむ可能性」があろう。

●3.リッチモンド連銀バーキン総裁、「最近の強い雇用や消費は、季節的な要因」(フィスコ)

 1)+0.25%の利上げを支持。

●4.ゴールドマンS、米利上げ見通しは3・5・6月の3回で各0.25%引上げ(ブルームバーグ)

●5.BofA、1~6月は力強い成長でFRBはタカ派姿勢が長期化、7~12月景気後退(ブルームバーグ)

●6.サマーズ氏、FRBは物価上昇で景気に急ブレーキを掛ける恐れも(ブルームバーグ)

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)2/16、上海総合▲31安、3,249(亜州リサーチより抜粋
  ・利食い売り圧力が意識される流れとなった。
  ・中国景気の持ち直し期待で、上海総合指数は一時、昨年7月以来の水準まで上昇した。
  ・中国発の新規材料の乏しい中で、終盤に入りマイナスに転じた。
  ・ハイテク分野に対する米国の対中国圧力で、生産に支障が出るとの不安がくすぶった。
  ・業種別では、半導体の下落が目立ち、非鉄も冴えず、発電電力設備・金融も安い。半面、通信はしっかり、食品・酒造の一角も買われた。

 2)2/17、上海総合▲25安、3,224(亜州リサーチより抜粋
  ・ITハイテクの下げが全体相場の重石となる流れとなり、3日続落で約1カ月ぶりの安値水準に低迷した。
  ・業種別では、ITハイテクの下げが目立ち、前日の相場で逆行高した通信も冴えない。消費関連・公益・不動産・金融・運輸・インフラ関連が売られた。半面、石炭は高く、素材・医薬品が買われた。

●2.中国株:今後、輸出減となる可能性があり、中国経済成長に暗雲か

 1)輸出減となる要因
  ・欧米を中心に、中国に対する信頼感が低下。
   ⇒ 中国の政治リスクの高まり回避で、投資・貿易取引に影響が出てくる可能性。
  ・欧州の経済悪化で輸入減の可能性。
  ・中国では賃上げ幅が大きく、生産コストが上昇し、値上げが続いている。
   ⇒ 中国生産物の購入は、決して安価な買い物では無くなってきている。
  ・今回のゼロコロナ政策の結果、サプライチェーンが混乱したため中国への生産集中リスクが表面化。
  ・中国への投資引き揚げで、他国への生産設備移転が進展。メキシコ・ベトナム・インド・インドネシア等への生産移管が増加。米国でも、中国から米国内に生産移管が進んでいる。特に、米国市場ではメキシコに立地した方が人件費・物流・関税で優位になる。
  ・中国への発注依存が高い状態をリスクと捉え、他国への発注が進展する動きがある。

●3.中国、海外上場規制を2/17発表、当局が管理へ、3/31施行(ロイター)

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)2/16、日経平均+194円、27,696円(日経新聞より抜粋
  ・2022年12月15日以来、およそ2ヶ月ぶりの高値水準を付けた。前日の米株式相場の上昇や為替市場での円安進行を受けて投資家心理が上向き、幅広い銘柄に買いが入った。
  ・TOPIX終値で2,000台回復したのは2022年11月28日以来、およそ2カ月半ぶり。時価総額の大きい銘柄の上昇がTOPIXを押し上げた。
  ・為替市場で円相場が一時134円台に下落し、輸出採算が改善するとの見方から、自動車株の一角が買われた。株価指数先物への断続的な買いにつれて値嵩株も上昇し、日経平均の上昇に寄与した。
  ・日本政府観光局(JNTO)が2/15に発表の1月訪日外国人客数は約150万人だった。訪日客数が回復軌道に入ったとの見方を背景に「国内機関投資家から訪日外国人(インバウンド)関連の一部に買いが入った」との指摘もあった。
  ・午後の日経平均は高値圏ながら膠着感の強い動きだった。「決算発表が一巡し、新規材料の乏しさや戻り待ちの売りが重荷となった」との声も。
  ・三菱自・日産自が大幅上昇、川崎汽船・関西電力・任天堂も買われた。半面、サッポロが▲3%下落、あおぞら銀・大平金・協和キリンが安い。

 2)2/17、日経平均▲183円安、27,513円(日経新聞より抜粋
  ・前日の米株式相場の大幅下落や2/17のアジア株の軟調相場を受け、売りが優勢となり下げ幅は一時▲220円を超えたが、円安進行を背景に下値では押し目買いも入った。
  ・2/16の米株式市場では、1月米卸売物価指数(PPI)が予想以上に上昇したのを受け、インフレの高止まりと米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの長期化を警戒した売りが相場を押し下げた。東京市場でも米長期金利の上昇を嫌気して、高PER(株価収益率)のグロース(成長)株を中心に売りが出た。
  ・日経平均は前日に約2ヶ月ぶりの高値水準を付けており、利益確定売りも出やすかったが、27,500円近辺では下げ渋った。押し目買いが入ったほか、円が134円台まで下落するなかで、短期筋による先物の買戻しがみられたのも相場を下支えした。
  ・楽天・リクルートが大幅安、エムスリー・サイバー・ソニー・キーエンスも下落した。半面、ブリジストン・横浜ゴム・JFE・日本製鉄が買われた。
     

●2.日本株:決算発表は概ね終了⇒次期日銀総裁人事に焦点

 1)日銀の次期総裁の政策に焦点
  ・黒田・日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール)と量的緩和の組み合わせで、日本の株式と国債の最大の保有者となった。結果、735兆円ものバランスシートは、国内総生産(GDP)の1.3倍にまで膨張した。
  ・世界の中央銀行の流れと、逆方向の位置にある日銀の動向に世界の金融関係者は注視している。特に、日本国債売りスタンスのヘッジファンドの動向次第では、波乱が増幅する可能性があるため、警戒したい。

 2)日経平均の動きに注意したい
  ・決算発表は概ね終了した。弱い決算発表内容でも、村田製作所のように株価は堅調に推移しているのが目立つ。これは、次の下落のエネルギーが蓄えられている可能性もありえる。

 3)主要株価の推移をみると、株安傾向にある
  ・トヨタ : 2022/1/17高値2,423円から、1年にわたって下落基調で2023/2/17は1,907円と▲21.2%安。
  ・キーエンス:2021/9/14高値75,980円⇒2023/2/17は58,870円、▲22.5%安。
  ・任天堂 : 2022/3/27高値6,699円⇒2023/2/17は5,456円、▲18.5%安。
  ・東京エレクロロン:2022/1/4高値68,420円⇒2023/2/17は46,190円、▲32.5%安。

 4)今後、材料が乏しく、下記事項の内容が株式相場にとって注意がいると思われる。
  ・日銀次期総裁人事。
  ・日銀金融政策決定会合。
  ・米国3月FOMCの会合結果。

●3.1月貿易赤字は過去最大の▲3兆4,966億円、資源高や円安で輸入増(ブルームバーグ)

●4.1月首都圏マンション発売、710戸で前年比▲37.1%=不動産経済研究所(ロイターより抜粋

 1)平均価格は前年比+5.7%上昇の6,510万円。東京23区は+13%上昇の8,455万円。
 2)2月発売戸数は2,500戸程度を見込んでいる。

●5.機械受注10~12月は、前期比▲5%下回り2兆6054億円、2期連続の減少(NHKより抜粋

 1)半導体製造装置が減少、建設機械が増加。
 2)1~3月は前期比+4.3%上回る見通し。

●6.企業動向

 1)ロッテ  ロッテリアの全株式をゼンショーに譲渡、4/1付(産経新聞)

■IV.注目銘柄(投資は、ご自身の責任でお願いします) 

 ・3288 オープンハウス  業績堅調。
 ・7012 川崎重工     業績好調。   
 ・7244 市光工業     業績好調。

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

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