米政権、中国企業の海外GPU利用を規制へ―クラウド経由のアクセスに残る法的課題

2026年8月31日 00:26

印刷

記事提供元:Tech Times

Photo by Kevin Ache on Unsplash

Photo by Kevin Ache on Unsplash[写真拡大]

トランプ政権が、タイやシンガポールなどに設置された高性能GPUを中国企業が遠隔利用する取引に、新たな輸出管理を適用する規則を検討していることが報じられた。米商務省は早ければ2026年9月にも案を業界団体へ示す可能性があるが、規則の内容や公表時期は正式に発表されていない。

米国は中国向けの先端AI半導体輸出を制限している一方、中国企業が第三国のデータセンターから計算能力だけを借りる取引には、既存の輸出管理規則をそのまま適用しにくい。議会では、この遠隔アクセスを商務省の規制対象として明記する法案の審議が続いており、新規則の法的根拠が焦点となる。

■物理的な輸出を伴わないGPU利用

中国のAI企業がタイのデータセンターへ学習データやモデルの設定を送ると、現地のGPUが計算を処理し、その結果がネットワーク経由で返される。GPUそのものはデータセンター内にとどまり、中国へ輸送されない。

米商務省産業安全保障局(BIS)は2009年、EAR(輸出管理規則)の対象となる貨物、ソフトウェア、技術を利用者へ移転しない限り、計算能力を提供するサービス自体はEARの対象にならないとの諮問意見を示した。2011年と2014年にも、クラウドサービスと輸出管理の関係について追加の見解を公表している。

もっとも、クラウドを利用すれば常に輸出管理の対象外になるわけではない。規制対象のソフトウェアや技術が利用者へ移転される場合や、提供者が特定の規制対象用途を認識している場合などには、既存のEARが適用される余地がある。それでも、第三国に設置されたGPUの計算能力を中国から遠隔利用する行為を包括的に規制できるかは、現在の制度では明確でない。

今回報じられた規則案は、この空白に対応することを目的としているとみられる。ただし、行政規則だけで商務省の権限を遠隔アクセスへ広げられるかについては、輸出管理の専門家から疑問が示されている。規則が制定された場合、対象企業が商務省の法定権限を争う可能性もある。

■「リモートアクセス」を規制対象に加えるRASA

米議会で審議されている「Remote Access Security Act(リモートアクセス安全保障法、RASA)」は、ネットワークやクラウドサービスを通じた規制対象品目への遠隔アクセスを、輸出管理改革法に基づく独立した規制対象として加える法案である。

下院法案H.R. 2683は2026年1月12日、369対22で下院を通過し、翌13日に上院銀行・住宅・都市問題委員会へ付託された。法案は、米国の管轄下にある品目へ外国人がインターネットなどを通じて遠隔アクセスし、その利用が米国の国家安全保障や外交政策に深刻なリスクをもたらし得ると商務長官が判断した場合、BISが規制できるようにする内容だ。

上院では、デーブ・マコーミック議員とロン・ワイデン議員らが関連法案S. 3519を2025年12月に提出している。こちらも上院銀行・住宅・都市問題委員会に付託されているが、成立には至っていない。

RASAが成立すれば、物理的な移転を伴わない計算資源へのアクセスについて、商務省が許可制を導入する明示的な法的根拠となる。逆に、成立前に行政規則だけで同様の規制を導入した場合、輸出管理改革法が商務省に与えた権限の範囲が争点になり得る。

■AI拡散規則の撤回で残った規制の空白

バイデン政権は2025年1月、先端AI半導体の輸出や海外データセンターでの利用に関する「AI拡散規則」を公表した。この規則には、先端計算用半導体の仕向地やデータセンター運営者に応じた許可、報告、セキュリティー上の要件が盛り込まれていた。

トランプ政権下の商務省は同年5月、AI拡散規則を撤回すると発表し、新たな順守要件を執行しないようBISの担当者に指示した。商務省は代替規則を将来公表する方針も示していた。

一方、バイデン政権が2025年1月に導入した「Foundry Due Diligence Rule」は、クラウド事業者による顧客確認制度ではない。半導体の製造受託企業やパッケージング企業などに対し、規制対象となる先端半導体が制限対象の企業へ流れるのを防ぐため、設計者やチップの仕様を確認する追加的なデューデリジェンスを求める規則である。

米国のクラウドサービスを外国の悪意ある利用者が使うことへの対策としては、商務省が2024年に、米国のIaaS事業者と海外再販業者へ顧客識別プログラムの導入を求める別の規則案を公表している。これらは、第三国に設置されたGPUを中国企業が遠隔利用する問題と関連するものの、それぞれ対象と法的根拠が異なる制度である。

■Moonshot AIの計算資源をめぐる報道

規則案をめぐる議論の背景には、中国のMoonshot AIが2026年7月に発表した大規模言語モデル「Kimi K3」と、その学習に使われた計算資源への関心がある。

Kimi K3は、総パラメータ数2.8兆のMixture of Experts型モデルである。Moonshot AIは、一部のコーディングやAIエージェント関連の評価で米国企業のモデルを上回ったとの結果を示しているが、個別のベンチマークがモデル全体の能力を一律に示すものではない。

Bloombergは関係者の話として、Moonshot AIがAlibabaとの計算資源契約を通じ、約2万基のNvidia製Hopper世代GPUを利用していると報じた。Reutersはこの報道を伝えたものの、契約内容を独自には確認できなかったとしている。Alibabaは、Moonshot AIへH200を供給したとの主張を否定した。

Moonshot AIが東南アジアを通じて、より新しいBlackwell世代のGPUへアクセスしているとの情報も報じられている。ただし、具体的なGPUの種類、利用形態、Kimi K3の学習に使用されたかどうかについて、公的に確認された情報は限られている。

日本のデータセクションが保有するBlackwell GPUについても、Tencentが第三者を介して計算資源を利用する契約を結んだと報じられている。データセクションが構築した計算基盤には約1万5000基のGPUが含まれるとされるが、そのすべてがTencent向けに確保されたと確認されているわけではない。

また、中国のINF Techがインドネシアの通信事業者のデータセンターに設置された32台のGB200 NVL72システムを利用する契約を結んだとも報じられた。搭載GPUは合計2304基に相当する。こうした取引は、半導体を中国へ直接輸送せずに高度な計算能力を利用できることから、遠隔アクセスを輸出管理の対象に加えるべきかという議論を強めている。

■規則案の内容と法的根拠が今後の焦点

2026年5月31日、BISは、中国などの国・地域に本社または最終親会社を置く企業へ先端計算用半導体を輸出する場合、企業自体が第三国に所在していても許可が必要だとするガイダンスを公表した。これは2023年から存在する要件を再確認したもので、AI拡散規則を執行しない方針の後も適用される。

同ガイダンスは、適法に活動している真正なデータセンター運営者に対し、すでに保有する先端計算用半導体の使用、保管、処分、保守を直ちに停止するよう求めるものではない。物理的な半導体の輸出先や所有関係を規制する制度と、その半導体への遠隔アクセスを規制する制度には、なお隔たりがある。

米商務省が検討しているとされる規則の条文は公表されていない。対象となるGPUやサービス、利用者の範囲、クラウド事業者に求める確認措置、既存契約の扱いなども不明である。このため、規則の執行可能性について現時点で確定的に評価することはできない。

正式な規則制定には通常、案の公表や意見募集などの手続きが伴う。それでも、商務省の権限が既存法の範囲を超えているとして提訴されれば、行政手続法や輸出管理改革法の解釈が争われる可能性がある。大きな経済的・政治的影響を持つ規制には議会の明確な授権が必要だとする米最高裁の法理が、訴訟で持ち出されることも予想される。

商務省がRASAの成立を待つのか、現行法に基づく規則案を先行させるのかは明らかになっていない。9月にも行われると報じられた業界との協議では、遠隔アクセスをどのように把握し、どの事業者に確認義務を負わせるかとともに、規則の法的根拠が主要な論点となる。

元記事: Commerce Drafts AI Chip Rule for Loophole It Created by Rescinding Biden Know-Your-Customer

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

関連キーワード

関連記事