関連記事
相場展望8月12日号 米国株: FRBは、雇用回復の「利下げ」よりも、「インフレ対策」を優先へ 日本株: 日経平均はNYダウ比で「割高」、海外短期投機筋の暗躍で注意
■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
1)8/7、NYダウ▲224ドル安、43,968ドル
2)8/8、NYダウ+206ドル高、44,175ドル
3)8/11、NYダウ▲200ドル安、43,975ドル
【前回は】相場展望8月7日号 米国株: トランプ関税が米国経済と雇用への負の局面が顕在化し始めた 日本株: 大幅賃上げも物価高で実質賃金はマイナス、国民の生活苦が深まる
●2.米国株:FRBは、雇用回復のための「利下げ」よりも、「インフレ対策」を優先すべき
1)米国株式市場の概略:NYダウは200ドルのアップダウンを繰り返す
・8/7、NYダウ▲224ドル安、
・下落の要因
・米国経済の先行き不透明感で、売りが優勢。
・8/8 NYダウ+206ドル高
・上昇の要因
・FRB理事人事発表で、利下げ期待が膨らみ上昇。
・アップルが米国内投資1,000億ドル発表好感し+4.2%上昇が波及し牽引。
・8/11 NYダウ▲200ドル安
・反落の要因
・連日の最高値更新で、警戒感が高まり、利益確定売りが増加。
2)米国株式市場の関心は「米国景気の減速懸念」に再度、向く可能性がある
・前週までは「利下げ期待」で株価は堅調だった。FRB次期議長の選任や、退任するFRB理事の後任問題などで、FRBが利下げに転換する材料が注目を浴びて、株式市場を支えてきた。
・しかし今後、小売売上高の動向に市場の意識が向く可能性がある。トランプ関税前の駆け込み需要の反動が強まり、小売売上高の伸びが抑えられるかもしれない。
・米国消費者物価指数は8/12発表予定。トランプ関税の価格転嫁が進み、米国インフレが加速するか? 注目。その状況によって、米国株式市場の関心が、(1)利下げ期待⇒(2)景気後退に向く可能性がある。
3)米国株式市場は記録的な上昇をしたが、その後は経済指標を受け足踏み
・米国労働市場の減速
・雇用者増は3カ月平均で月3.5万人増と急減している。
・失業保険受給者の増加し197.4万件と、就業が困難になっていることを示している。
・失業率も4.2%と上昇傾向にある。
・賃金上昇でも冷える個人消費
・物価上昇は前年同月比+2.6%増と、前月から加速。
・物価上昇により実質可処分所得で、1人当たり▲0.1%減少。名目賃金は上がっているが、関税コストの価格転嫁で生活が厳しくなる。
・トランプ関税による企業収益の先行き不安の広がり
・関税率は2024年の2.3%⇒現在15.2%で、第2次世界大戦以降で最高水準。
・関税の上昇は、企業コストの増加を招く。
・高関税による物価上昇と、雇用悪化が同時に進行してる。
・スタグフレーションに陥る可能性が色濃くなってきた。
・トランプ関税で米国の消費者物価は+1.8%上昇し、実質家計所得は年間で▲2,400ドル(約35.3万円)減少する、とイェ―ル大学予算研究所の予測がある。米国の物価上昇率は+4%台に乗せることになる。
4)米国連邦準備理事会(FRB)にとって重要な項目の1つに「インフレ退治」がある
・雇用統計の状況悪化を受けて、雇用を守るために景気後退懸念を払拭しようとしてFRBに「利下げ」要求の声が高まってきている。その声は、トランプ政権と株式市場から聞こえてくる。
・その声に呼応してFRBのウォラー氏など2名が7月のFOMC会合で「利下げ主張」し、投票の結果「9:2」で金利据え置きが決定した。
・利下げ主張した理事2名は、トランプ第1次政権時にトランプ氏から指名されたという経緯がある。FRBには、「タカ派・ハト派」がいるが、この2理事はトランプ氏に媚を売る新しい3匹目の鳥「クジャク派」と言われている。政治から強い独立を認められたFRBであるが、FRB議長に指名されたくて政治に媚を売る「クジャク派」の出現に不安を覚える。
・クグラー理事が8/8で任期途中で退任したが、後継者をトランプ氏が選任しようとしている。FRBは国民のための「物価の番人」でもあり、FRBが政治の下位に位置づけられると、米国経済の舵取りとしての信認が揺らぐことになる可能性がある。
5)FRBは、雇用回復のための「利下げ」よりも、「インフレ対策」を優先すべき
・FRB人事で、米国株式市場は「利下げ期待」が膨らんで株高へと導いている。
・FRBは、「低調な雇用に目を向けるよりは【物価上昇(インフレ)】対策」を優先するべき。スタグフレーション(景気後退+物価上昇)の対処方法の順序は、真っ先に「物価上昇(インフレ)退治」である。インフレを抑え込んでから、景気対策という段取りを取らざるをえない。手順を間違えると、「インフレ加速」するだろう。そして、スタグフレーションはより深みに落ちていく。
●3.エヌビディア、AMDは対中国向け先端半導体収入の15%を米国政府に納付=当局者(ロイター)
1)中国販売がリスクなら販売するべきでなく、リスクでないなら販売にペナルティを課す必要があるのか疑問。
2)AMD、米国商務省はロイターのコメント要請に応じていない。
●4.米国アンダーアーマー、一段と減収見込む、関税コスト上昇リスク(ロイター)
●5.アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、4~6月期純利益+23.0%増の大幅増益(Google)
●6.コントロール・ブランズ、4~6月期純利益+42.7%増の大幅増益(Google)
●7.インテル、AI向け半導体需要が増え6~8月期の売上高・利益予想を上方修正(ロイター)
●8.米国失業保険継続受給者数は197.4万人と+3.8万人増、予想195万人を上回る(ブルームバーグ)
1)2021年11月以来の多さで、労働市場の減速を映す。職を失った人が仕事を見つけるのが難しい状況にあることを示している。
2)投資家は労働市場の悪化への警戒感を強めている。
●9.米国新規失業保険申請件数は0.7万件増の22.6万件、雇用創出弱るも市場は安定(ロイター)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
1)8/7、上海総合+5高、3,639
2)8/8、上海総合▲4安、3,635
3)8/11、上海総合+12高、3,647
●2.トランプ氏、中国関税の一部停止90日延長で大統領令に署名(ロイター)
●3.中国7月の消費者物価指数は前年同月比で横ばい、デフレへの懸念くすぶる(ロイター)
1)品目別で見ると、食品は消費量の多い豚肉が▲9.5%減、卵が▲11.2%減となった。供給過剰が懸念される自動車は▲2.1%減、ガソリンが▲9.0%値下がりした。
2)7月の工業品卸売物価指数は▲3.6%減と2年10カ月連続のマイナス。
3)中国は米国との関税交渉次第では、貿易戦争が再燃する可能性もあり、景気の先行き不透明感が漂っている。また、長引く不動産不況の影響で、依然として人々の節約志向は強く、デフレへの懸念がくすぶり続けている。
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
1)8/7、日経平均+264円高、41,059円
2)8/8、日経平均+761円高、41,820円
3)8/11、祝日「山の日」で休場
●2.日本株:日経平均はNYダウ比で「割高感」、海外短期投機筋が暗躍のため注意
1)賃金上昇でも、冷える消費=実質賃金マイナス成長が連続⇒どうする?石破首相
・賃金大幅上昇でも恩恵を受けられるのは、大企業で働く役員・従業員である。中小企業は賃金アップの負担能力は低い。勤務者の9割を超える勤務者・パート従業者などは、低い賃上げのなか物価上昇で家計は火の車である。
・石破首相は大幅賃上げをしたと自慢するが、それは大手企業で働く人向けの話である。肝心の物価上昇の抑制策を、第一で優先させるべき。石破首相の政治は、一般国民の家計から搾り取って、政府の歳入を増やすことに邁進している。所得税・社会保険料に消費税などを含めると、政府の徴収率は5割をはるかに超えている。トンチンカンな政治をやっている。それが国民の根本的不満があって、選挙でボロ負けが続いているのではないか。
・物価上昇に賃上げが劣っているため、実質賃金がマイナスとなっている。
・物価上昇を抑える政策を打っていないからマイナスとなっている。給付金は物価対策ではない。本当に求められるのは、(1)物価上昇を食い止め、(2)減税を実施して実質賃金をプラスにすることだ。石破首相は、実質賃金をプラスにできる政策に転換するべきである。
2)日経平均はNYダウ比で「割高感」
・日経平均・NYダウの8/5~8の比較
・NYダウ +2ドル高 なお、翌営業日8/11は▲200ドル安。
日経平均 +1,271円高
・NYダウは横ばいに対し、日経平均は+1,271円高と大幅高。
・日経平均の割高感が強まる。
3)テクニカル分析でも、日経平均は買われ過ぎ示す
・日経PERは8/8、17.25倍と買われ過ぎを示している。
7/14 15.62倍
8/01 16.53
8/08 17.25
・日経平均200日移動平均線との乖離率も8/8、+9.18%高と拡大
200日移動平均線の乖離率の推移
7/14 3.53%
8/01 6.62
8/08 9.18
4)日経平均大幅上昇のなか、個別銘柄で変調をみせるものが出現
・業績好調で日経平均は株高でも、株価の勢いが軟弱な銘柄
ファーストリテイリング
・日経平均8/8、+761円高のなか、株価が大幅下落した銘柄
中外薬 ▲17.68%下落。
KADOKAWA ▲10.25%下落、増益は会社発表+5.4%・市場予想+42.8%。
東レ ▲ 9.67%下落。
三菱ガス化 ▲ 6.43%下落。
・米国・人工知能(AI)関連株が好調を背景に株高
ソフトバンクG
・4~6月期決算発表も終盤を迎え、好材料が乏しくなっていくと思われる。
米国株に比べ、日経平均の買いの突出が目立つ。
個別銘柄を見ると、売られる銘柄のなかで大きく下落するものが散見される。
そのため、黄色信号が点滅していると受け止められる。
5)海外投資家(現物株)の買い越しは17週連続したが、7月4週(~7/25)で止まる
・海外投資家の現物株買いは、4月1週(~4/4)~7月4週(~7/25)まで17週連続で買い越し。
・海外投資家の株価指数先物買いは、4月3週(~4/18)~7月4週(~7/25)までほぼ一貫して買い越し。
・上記期間の海外投資家の買越累計額は8兆円と巨額
現物株 +6兆1,395億円
先物 +1兆9,074
合計 +8兆0,469
・ところが、7/5週(~8/1)に海外投資家は売り越しに転じた。
現物株 ▲ 1,892億円
先物 ▲ 1,527
合計 ▲ 3,419
・ただ、8月1週の中で海外投資家は買いに転じる場面があった。これは、「売りたい買い」の可能性があり、慎重な見極めが必要。8/12の先物相場でも大幅な株高を見込んでいるが、8/11の米国株安もあり、
様子見したいところである。
特に、最近、暗躍しているのが海外短期筋の商品投資顧問(CTA)である。
投機筋の活動が目立ってきており、買い方の筋が悪くなっている。
留意したい。
●3.相互関税、「15%」の認識に齟齬はないと米国側と確認している=石破首相(ロイター)
●4.ソフトバンクG、4~6月期最終利益4,218億円、4年ぶり黒字(NHK)
●5.トヨタ、2026年3月通期、前期比で純利益▲44.2%減の2兆6,600億円(共同通信)
1)トランプ関税による関税影響額が営業利益ベースで▲1兆4,000億円と見積もった。
●6.SUBARU、2026年3月通期、前期比で営業利益▲50.7%減の2,000億円(日刊自動車新聞)
1)米国関税で▲2,100億円のマイナス影響。
●7.ソニー、2026年3月通期、純利益は従来予想9,300⇒9,700億円に上方修正(時事通信)
1)関税影響額を1,000⇒700億円に引き下げた。
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
・2685 アダストリア 業績好調
・4301 アミューズ 業績回復期待
・4901 資生堂 黒字転換
スポンサードリンク
関連キーワード
中島義之氏のコラム一覧
- 相場展望12月4日号 米国株: FRBは12/10利下げ▲0.25%の実施確率が高い⇒株高要因 日本株: 日経平均大幅高も新高値銘柄数と新安値数が拮抗、相場変調が忍び寄る?

- 相場展望12月1日号 米国株: 米国景気の先行きは (1) クリスマス商戦 (2) 最高裁の判決が焦点 日本株: 日経平均は、「天井を意識」させる展開

- 相場展望11月27日号 米国株: 米国の雇用対策を、FRBの利下げに求めるトランプ政権 日本株: 日経平均上昇の立役者ソフトバンクGの株価が急落

- 相場展望11月24日号 米国株: 物価上昇が止まらない米国⇒トランプ共和党不利、民主党優勢 トランプ関税、来年の最高裁で判定⇒違憲判決ならトランプ大打撃 日本株: 日経平均寄与度上位によるアップ・ダウン相場が続く

- 相場展望11月20日号 米国株: 仮想通貨・ビットコインの暴落と連動した株式相場の下落に注意 日本株: エヌビディア売上は予想上回る増、海外短期筋は株買い復活か

- 中島義之氏のコラムをもっと読む


