相場展望8月7日号 米国株: トランプ関税が米国経済と雇用への負の局面が顕在化し始めた 日本株: 大幅賃上げも物価高で実質賃金はマイナス、国民の生活苦が深まる

2025年8月7日 12:47

印刷

■I.米国株式市場

●1.NYダウの推移

 1)8/4、NYダウ+585ドル高、44,173ドル
 2)8/5、NYダウ▲61ドル安、44,111ドル
 3)8/6、NYダウ+81ドル高、44,193ドル

【前回は】相場展望8月4日号 米国株: 決算発表が終了、好材料出尽くし⇒8/1、米国株は総崩れ 日本株: 昨年夏の急落を思い出す流れ、警戒したい

●2.米国株:トランプ関税の米国経済と雇用へのマイナス局面が顕在化を示し始めた

 1)金利低下予想で米国株式相場は堅調
  ・金利低下観測の要因
    ・米国雇用統計の悪化
    ・FRB理事退任の後継者指名に金利引き下げ論者をトランプ氏が指名との見方

 2)高値警戒感が強いため、個別銘柄では売りが売りを呼ぶ展開となりやすい地合い
  ・決算発表数値が市場予想に届かなかったという理由
    ・オン・セミコンダクター 8/4  ▲15.5%下落
  ・決算発表の説明で、期待された開示が無かったという理由
    ・アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD) 8/6 ▲11.19%下落

 3)ISM非製造業(サービス業)総合景気指数が前月比で低下、物価上昇が進行
  ・米国供給管理協会(ISM)の7月非製造業総合景気指数が50.1と、6月50.8から低下した。
  ・価格指数は69.9と、6月67.5から上昇し、インフレ進行が示された。新規受注、雇用指数も低下。トランプ関税のマイナス効果の広がりが目立った。

 4)トランプ関税の米国経済と雇用へのマイナス局面が顕在化を示し始めた
  ・単なる経済後退というよりも、「景気後退+物価上昇」というスタグフレーションを招く可能性が出てきている。

  ・トランプ氏は、メキシコとカナダで生産し米国に輸入している自動車を標的にした関税政策をとっている。メキシコ人の自動車生産に従事する平均時給は2.9~4.9ドル(約440~740円)に対し、米国人の平均時給は26~32ドル(約3,840~4,730円)と、人件費は圧倒的な差がある。関税をテコに米国製造を増やすとなれば、米国製造のコストが大幅に増える。米国の消費者は、機能が同一で価格が高くなった米国製自動車を購入することになる。同様なことが他でも生じる。トランプ関税が、物価上昇に大きく作用することは必至だ。

  ・消費者の賃金の伸び率は、物価上昇以下である。とすれば、消費者の家計は切り詰めるしか無い。購買意欲は減退し、需要が縮小することから、景気後退も待ったなしになる。「景気後退+物価上昇」は必然的に起こることになる。

  ・スタグフレーションに陥ると、悪質な景気後退となり、しかも長期化する。

  ・そのような景気が局面に入ると、株式相場にとっては厳しい試練が待ち受けているのものとなる恐れがある。

●3.米国ISM非製造業総合指数、7月50.1と6月50.8から低下、投入価格は上昇(ロイター)

 1)投入コストは約3年ぶりの大幅上昇となった。一方、受注は横ばい。雇用は一段と軟化し、米国関税政策の不確実性による影響が浮き彫りになった。

 2)新規受注指数は50.3と、6月51.3から低下し、輸出受注指数は過去5カ月のうち4カ月で50を下回った。

 3)雇用指数も46.4と、6月47.2から低下し、今年3月以来の低水水準となった。過去5カ月のうち4カ月で50を下回った。

 4)価格指数は69.9と、6月67.5から上昇し、2022年10月以来の高水準となった。インフレ率はこれまで、企業が関税発効前から在庫を販売していたため概ね緩やかに推移してきたが、先週発表の6月個人消費支出(PCE)価格指数は家具やレクリエ-ション用品など一部商品の価格が大きく上昇し始めたことを示した。

●4.アップル、米国生産拡大へ1,000億ドルの追加投資を計画、8/6発表(ロイター)

●5.mRNAワクチンへの開発投資を中止、「予防効果なし」と米国厚生長官が主張(時事通信)

●6.インドに25%の追加関税、合計50%に、トランプ氏が大統領令署名(読売新聞)

 1)「ロシアから原油購入している」という理由。

■II.中国株式市場

●1.上海総合指数の推移

 1)8/4、上海総合+23高、3,583
 2)8/5、上海総合+34高、3,617
 3)8/6、上海総合指数+16高、3,634

■III.日本株式市場

●1.日経平均の推移

 1)8/4、日経平均▲508円安、40,290円
 2)8/5、日経平均+258円高、40,549円
 3)8/6、日経平均+245円高、40,794円

●2.日本株:大幅賃上げも物価高で実質賃金はマイナス、国民の生活苦が深まる

 1)輸出関連企業の業績は、トランプ関税の影響による下振れリスクがある

 2)「米国FRBが利下げ行うとの見方」が広がり、円相場は円高・ドル安へ

 3)騰落レシオ急伸し、過熱感が増す
  ・騰落レシオ(6日)が急伸
    8/4 134.74
    8/5 164.62
    8/6 227.41
  ・ただし、8/6の新高値銘柄数が384、新安値が7、と相場には勢いがある。このため、一時的な調整はあっても、高値圏で推移すると予想する。

 4)米国政権が公表した相互関税の新税率を巡って、日本はEUに比べて劣後していることが文書に明記されたことで判明
  ・日本株市場で、米国関税関連で不確実性に対する警戒感が再び高まる可能性が出てきた。

 5)大幅賃上げも物価高で実質賃金はマイナス、国民の生活苦が深まる
  (1)物価高で、6月実質賃金は6カ月連続マイナス▲1.3%(厚労省)
   ・現金の給与総額は前年同月比+2.5%増加。一方、実質賃金は物価高で▲1.3%、6カ月連続でマイナスとなった。

  (2)6月消費者物価指数は前年同月比で、
   ・生鮮・エネルギーを除くと+3.4%。
    生鮮を除くと+3.3%、エネルギー価格が下がったのが効いた。

  (3)政府は物価対策は無く、無策。
   ・賃上げに熱意を示しているが、大手企業の賃上げ頼みに終始している。
    大手企業で働く従業者は全体の約8%に過ぎない。
    政府・与党は、多くの中小企業で働く従業者、年金生活者への目配りは無い。

  (4)賃上げで一番潤うのは政府である。
   ・賃上げ額の約48%が所得税・社会保険料として政府の歳入として吸い上げられている。

  (5)物価上昇(インフレ)で潤うのが消費税収入が増加する政府である。
   ・物価上昇で、消費税は自動的に増額となる。
   ・だから、政府・財務省は「物価対策はおざなり」にしているかもしれない。

  (6)政府は税の自然増収が6兆円程度と継続している。
   ・賃上げと物価上昇の恩恵を一番受けているのが政府・財務省である。
   ・これを原資として、政府は利権の拡大とバラマキ予算で費消している。
   ・本来は、国民に減税で返すか、累積赤字の削減に充てるべき。
   ・減税の財源としても使える。
    しかし、政府・自民党・公明党は、野党が減税を主張しても「財源は?」と牽制するだけで無視しようとする。
   ・物価高対策にも使おうとしない。

  (7)そもそも税金・社会保険料は取り過ぎで過大。
   ・日本の現状の租税徴収率が「5割と異常に高い」。
    徳川幕府のとき、諸藩の税率は3割で、5割ともなれば暴動・村からの逃散が起こったという。
    日本国民の他国への移民が増える素地は十分に整っている。最近、若い女性が売春目的で海外に行く人が増えており、ハワイや豪州で入国拒否をされている事例が目立つようになった。
    日本では稼げないため、海外で働こうとしている一例である。
   ・その危機的状況に、政府・与党・財務省は気が付いていない。
    あるいは見ないようにしている。

  (8)食料自給率が低く、輸入食料品に頼る家計は、円安もありエンゲル係数が上昇し火の車である。
   ・政府は賃上げが唯一の経済対策だと思っている。
   ・政府は物価上昇に見向きもせず。
   ・国民や野党から攻撃されると、1回限りの「給付」でかわそうとする。
   ・結果、賃上げを上回る物価上昇で、微増の現金給与所得のためマイナス実質賃金が続いている。

  (9)植田・日銀総裁は、「物価上昇は2%に届いていない」という認識で、金利引上げ判断はせず。
   ・その日銀総裁の「低金利の継続」を見て、円は売られ「円安」が進行。そのためエネルギー・食料品の輸入物価が上昇。
   ・ところが、物価上昇は植田・総裁が認識する「2%未満」ではなく、「3.3%」。
    植田・日銀総裁は「2%未満」という物価上昇率の根拠は説明せず。
    もちろん「3.3%物価上昇」には見向きもしない状況を継続している。
    植田・日銀総裁は「日銀は物価上昇の番人」という意識が欠けている。

  (10)政府のコメ政策、「コメ余剰」一転「コメ不足」認め、「減反⇒増産」急転換。
   ・コメ高騰の原因は「流通」にあるとしてきたが、流通に在庫は無く、消費増加でコメ不足⇒コメ価格高騰となっていることが判明、コメ騒動から1年余も経ってからのこと。
   ・政府・自民党の政策・現場把握レベルの低さをよく表している。
   ・農林省は、「農協」の下部組織の「農林水産部」だったのである。
    農協に天下りした高官の指示で、操られてきた組織のように映る。
    利権と金にまみれて、利権政治のため眼も頭も霞んでいたのである。

  (11)過大な政府の租税で、個人消費力が細り、結局は日本経済の成長をダメにしていることに気が付いて、根本的出直し政策を練り・即実行すべき。

●3.トランプ大統領、日本から米国への5,500億ドル(約81兆円)の投資は、野球選手の「契約ボーナスと一緒」で「米国の資金として好きなように投資できる」と8/5にCNBCテレビに説明(TBS)

 1)日本側の説明と大きく食い違い。
  日本側は「5,500億ドル」は、民間企業などによる投資を政府系金融機関が出資や融資、融資保証を通じて支援する枠を示した金額だ、と説明していて、日本・米国で説明が大きく食い違っていることが改めて示された格好です。

●4.米国の関税手引きに、日本との合意措置含まず、EU版は明記、日本不利に?(朝日新聞)

 1)日本政府が、米国との交渉で合意したと主張する「相互関税」を巡る措置が、米国関税当局が8/4公表した実務者向けの手引書に盛り込まれなかった。欧州連合(EU)については、この合意内容の適用が明記された。
 2)手引き通りに関税徴収が始まれば、日本はEUよりも不利な条件で対米国貿易をせざるを得なくなる可能性がある。
 3)トランプ大統領は7/22の日本との合意後、相互関税について25%としていた税率を15%に引き下げる、とだけ発表した。だが、日本政府の発表では、
  (1)米国がもともと15%未満の関税を課していた品目に対しては、新税率は一律15%。
  (2)もともとの税率が15%以上の品目については、相互関税は適用しない(元の税率を維持)とされた。
 4)だが、米国税関が米国の輸入業者向けに公表した新たな相互関税の手引きでは、日本にこうした措置をとることは明記されなかった。文書通りならば、15%の新税率がそのまま元の税率に上乗せされることになり、品目によっては日本政府の主張する税率を大幅に上回ることになる。

●5.ホンダ、4~6月期決算、最終利益1,966億円、トランプ関税の影響で前年度の約半分(日テレ)

●6.ニチレイ、4~6月期営業利益は前年同期比▲8.9%減の86.9億円、予想下振れ(FISCO)

●7.マツダ、4~6月期▲421億円赤字、米国関税で打撃、通期も大幅減益(時事通信)

●8.三菱重工、4~6月期売上・利益が過去最高、ガスタービン事業・防衛事業が順調(時事通信)

●9.ユニ・チャーム、通年最終利益864⇒851億円・+4%増に下方修正、中国での風評回復へ(ロイター)

●10.日立、白物家電事業の売却を検討(共同通信)

■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)

 ・2175 エスエムエス  業績好調
 ・6273 SMC      業績好調
 ・9508 九州電力    業績好調

著者プロフィール

中島義之

中島義之(なかしま よしゆき) 

1970年に積水化学工業(株)入社、メーカーの企画・管理(財務含む)を32年間経験後、企業再生ビジネスに携わる。 現在、アイマックスパートナーズ(株)代表。 メーカーサイドから見た金融と企業経営を視点に、株式含む金融市場のコメントを2017年から発信。 発信内容は、オープン情報(ニュース、雑誌、証券リポート等々)を分析・組み合わせした上で、実現の可能性を予測・展望しながらコメントを作成。http://note.com/soubatennbou

記事の先頭に戻る

関連キーワード

関連記事