車のタイヤ、その進歩と移り変わり

2020年12月2日 08:55

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Photo:スペアタイヤに代わって修理キットを積む車が増えた ©sawahajime

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●タイヤのパンク

 昔のタイヤは、チューブ入りのバイアスタイヤだった。

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 チューブ入りタイヤは釘を踏むと、タイヤを貫通した釘がチューブに刺さり、急激に空気が抜ける。これを修理するには、タイヤをホイールから外し、中のチューブを取り出して、穴が開いた部分に「ホットパッチ」という補修用のゴムシートを加熱貼り付けして穴を塞いだ。

 古いタイヤチューブは、昔は海水浴場で「貸し浮き輪」として利用されていたため、子供の頃の写真や家族写真が「白黒」時代の人は、思い出すかも知れない。

 ホイールの精度も上がり、タイヤの空気圧で、タイヤの縁の部分をホイールに密着させて空気を保持することが可能となり、チューブが省略された「チューブレスタイヤ」が登場するのはその後だ。

 1960年代頃の道路事情は現在では想像出来ないが、国道から外れると、県道のクラスの道路であっても、未舗装道路が結構あった。

 悪路で、大きな穴ぼこに車輪が落ちたり、道路から飛び出している石にヒットした際に、ホイールリム部分を打つと、「リム落ち」といって、タイヤとホイールリムエッジで保っていた内部の空気が一挙に抜ける。これを危惧して、チューブレスを敬遠する向きも多かった。

 しかしチューブレスタイヤは、釘を踏んでもチューブ付きと違い、一瞬に空気が抜けず、この利便性は大きくて次第に普及する。

 因みに、チューブレスタイヤのパンク修理は、刺さった釘の向きを確認して、刺さっていた正しい角度で「ゴムの楔」を打ち込んで空気の漏れる個所を塞いだ。

●タイヤ性能の進歩

 ラジアルタイヤが登場してしばらくの間は、従来のバイアスタイヤよりも「乗り心地が悪い」とか、否定的な感想が聞かれる場面もあった。
 しかし、ラジアルタイヤの走行安定性への優位性はバイアスタイヤと較べれば圧倒的だった。

 そこで、その車種の上級モデルに標準装備されたり、スチールホィールが標準だった車種の上位モデルだけには「アルミホィールと組み合わせたラジアルタイヤ装着」のモデルが投入されたりして、次第にラジアルタイヤはバイアスタイヤより格上だとする認識が拡がった。

 メーカーが発売する車は、バイアスタイヤから次第にラジアルタイヤに置き換わり、アルミホィールが主力となった。

●タイヤローテーション

 ラジアルタイヤの性能進歩も著しく、昔は回転方向が特定されていなかったが、タイヤの回転方向が決められて、従来行っていた5本のタイヤをクロスチェンジする「タイヤローテーション」は不可となり、右側は右の前と後ろ、左側は左の前と後ろに限定して交換することになる。

 前後交換するのは、FF(前輪駆動)の車種が多くなり、前輪は操舵と駆動で摩耗し易いので、前後を均等に減らせる目的だ。

 殆どのオーナードライバーは、タイヤローテーション作業は勿論、「タイヤローテーション」という用語すら知らないのではないかと思われる。

●スペアタイヤ

 パンクすることも希になり、従来は4輪に装着してあるタイヤと同じサイズのスペアタイヤは、淘汰されて行った。

 その後、ラジアルタイヤが主力となり、前述の様に回転方向が一方向に限定されるタイプが出現すると、回転方向が違う2種のタイヤでないと問題が発生する。

 そこで、スペアタイヤは回転方向が限定されない、サイズ的にもインチ径は装着タイヤと同じでも、薄い(リム幅の小さい)緊急時のみに使用するタイプの物となった。

 このスペアタイヤは、パンクした際に、工場まで走行する「緊急用」タイヤであることを明確に判別出来る様に、ホイールは黄色く塗られていた。

 しかし、このスペアタイヤは、新車から1度も使用されないままに廃車となって廃棄処分されることが殆どであったと聞く。

 タイヤローテーションを実施すれば、5本でその車の全走行距離を担うことになるので、タイヤ寿命を永らえる効果があったが、黄色い緊急用は、文字通り緊急時以外には出番が無い。

 昨今は、スペアタイヤ自体を積まずに、修理キットと空気ポンプに置き換えた車も多い。これで余計に、自分でパンク対応が出来なくなったかも知れない。

 パンク時の対応に自信が無ければ、JAFのお世話になることをお勧めする。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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